満月かく語りき
宿に着き、私はソファに体を沈める。柔らかさが疲れも慰めてくれる気がした。くつろぐ私の目の前で、わいわいと戯れる人たち。アッグ、カイト、ミシュエル。旅をする内に出会った仲間だ。初めは一人旅だったのに、ずいぶんと賑やかになったと思う。私はつい彼らとの日々を思い返していた。
アッグとは、確かピオッシアの街で出会ったはずだ。奴隷で虐められていたところを解放して、一緒に旅をしないかと誘った。基本的に明るい性格だから、旅がずっと楽しくなったように思う。ピオッシアから出たことがなかったとは言え、私よりは常識人だし。そのおかげで私が特異な存在だと認識させられる場面もちらほらあったのだけれど。
最初に共に過ごしたということもあって、種族の差というのを強く感じる場面もあったなあ。魔法が使えなかったりお酒に強かったり、腕力がとても強かったり。特に力の強さはすごい。斧とプレートアーマーという重装備なのに、全然振り回されていないんだもの。前に出て敵をなぎ倒していく様は頼もしい限りだ。男の人だからというのもあるんだろうけれど、巨大な魔石も軽々と運んでいたし、根本的に筋力があるんだろうな。
それにしても、風呂場の一件は驚いたなあ……。あのとき入ってきたのはカイトだったけど、詳しく聞いたら事の発端はアッグだったって言うし。その上常習犯だったみたいだし。風呂場で誰かに見られてるなあとは感じたことがあったけど、まさか彼だとは思わなかった。助平なのはしょうがないとして、というか多分治らないだろうけど、人様には迷惑かけないようにしっかり言わないといけないや。男の人だからそういうの見たくなるんだろうなあと頭では理解しているんだけどね。不要な面倒ごとが起こるのは、やっぱり嫌だから。ちなみに、彼は自由な時間ができると女遊びに行くのだということを、割と最近知ってしまったりする。
そういえば、握手とかで触れるとあの鱗はとてもすべすべしてなめらかだったように思う。一度心置きなく撫でてみたい。頭とかだとヘンに思われるかな。それにちょっとトゲっぽい部分もあって痛いかもしれない。ああ、なら尻尾はどうだろうか。根元から先まで、つるりと指を滑らせることができたら最高かもしれない。
そういう意味では、同じ人族であるカイトは見た目の違いは感じないなあ。前世の人間と、ほとんど同じ姿をしているし。そもそも人族を見かけること自体少ないから、まさか同じ種族の人が仲間になるだなんて思ってもみなかった。というか、彼とこうして打ち解けているなんて、以前の私は思わなかっただろう。だって、第一印象はかなり悪いものだったから。
砂漠で倒れていた彼を看病して、目覚めたときに向けられたのは疑いの眼差し。下手に刺激してはいけない、うかつに寄れば地雷を踏み抜いてしまうんじゃないかとひやひやしたものだ。今ではそれも改善したけれど、人を疑ってかかるのは変わっていない。あと、意外にしたたからしいともわかってきた。他人とのつきあいは駆け引きであり取引であると考えているようにも思える。
事情を知れば、仕方ないのかもしれない。魔倉という存在を残虐な方法で利用しようと考えている人もいるのだから。いや、これは私の単なる同情なのかもしれないけれど。ただ彼の体質は、彼にかなりの影響を与えていることと思う。金目当てで狙う広がいることに加えて、本来の性質として体内に魔力を蓄える能力。魔法の準備がきわめて短くて済むという。それに、魔法の扱いも私より上だ。けどその一方で、どうも腕力などがないらしい。カイト自身は強がって隠しているけれど、なにか持ち上げようとする度に一瞬のためらいを見せたりする。対して重くないはずの本数冊の時も、無理しているか魔法で誤魔化すかしているのを私は知っている。素直に頼ればいいのに、それができないんだろうとわかってしまう。
そういう感じだからか、旅に関しても戦闘に関しても知識と経験があって頼れるはずなのに、頼もしいという印象が薄い気がする。すぐに怒鳴ったりよく分からないところでいらいらしていたり、ちょっと子どもっぽいと思ってしまう。例の風呂場騒動の反応から、むしろ可愛いという認識まである。こんなこと本人に言ったら、間違いなく不機嫌な顔をされると思うけれど。
頼れると言えば、最近出会ったばかりのミシュエルも、旅慣れしていてよく助けられる。それにいろんな知識も豊富だから、話を聞くのも楽しい。誰に対しても丁寧に接して、まるで紳士のようだと勝手に思ってる。でも、相棒だというカイトとは強い信頼関係があるんだなと、傍目からみてもわかった。カイトはミシュエルに対してだけかなり心を開いているように見えるし、ミシュエルの方もカイトに対してだけ砕けた口調で話す。きっと、それだけ長い時間と経験を共有しているのだろう。
戦闘面でも彼は強い。剣を片手に敵を斬り、流れるように魔法を放っている。見ている限り、魔力をいったい何に媒介させているんだろうかとも思ったりする。杖や剣ではなく、なんか手の先から魔法を放っているような。まさか、腕に魔力を集めているのだろうか。普通そんなことをしたら、魔力が体を蝕んでしまうはずなんだけど。そうなっていないから、私の知らない方法で魔力を制御できるのかもしれない。
ただ、優しくて物腰も柔らかいんだけど、どうも何を考えているのかよく分からないときがある。笑顔の裏に、何か秘めているんじゃないだろうかと感じることもしばしばだ。わからないといえば、初対面で顔をのぞき込まれたこともあったっけ。『瞳が綺麗だったから』なんて言って。まさか口説かれたと言うことはないだろうけど、どういうつもりだったんだろうか。最初に見かけたときには女性に囲まれていたし、そういう癖のある人なのかとも思ったけれど、道行く人に口説くという光景は見たことがない。とするとやっぱり、単に美形だから人が集まって、それに丁寧に対応していただけなんだろうか。
人族よりもエルフ族を見かけたことの方が少ないけれど、エルフ族はどうも美形であることの方が多いらしい。ミシュエルもそれに洩れず、顔立ちが整っている。水色の髪の毛は肩まで流れ、キラキラと光を反射して見とれてしまう。これでさらに性格も(表面上かもしれないけど)いいのだから、人だかりができるのも仕方ないだろう。あと、エルフのもう一つの特徴である長くて先の尖った耳は、ときどきぴょこぴょこ揺れていて可愛い。一度でもいいから触って撫でてみたいと思っているのは、今は内緒である。
黒藤紫音さんのリクエストで、「満月ちゃん視点でのパーティーメンバーへの評価」でした。
つらつらと書いてしまい脈絡がなくなってしまった…!
果たして需要があるのだろうかと悩んでます。
いかがでしたか? ご希望には添えましたでしょうか?