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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
96/113

猫と喧嘩屋

「どう見る?」


 タケシが目線をリングに向けたまま俺に話し掛けてきた。

リングの上ではワタルが剛腕を振り回している。

 ヨウイチはその剛腕をギリギリの所で躱すと同時にワタルの死角である左側に飛び込み左右のボディを喰らわせ、また射程外に逃げるを繰り返している。


「完璧なヒットアンドアウェイだ、片目が潰されて距離感の掴めない相手からすると一番嫌な攻められ方だろうな」


 シンゴも神妙な顔で試合を見守っている。


「この試合どっちが勝っても僕等からしたら関係無いですが、ここまで一方的ではこの次に彼と戦うのが面倒になりそうですね」

「それだよ、ワタルの強さは身を以て知っている。あいつのトンデモパワーは軽くトラウマになりかけたくらいだ……あのヨウイチってのはそのワタル相手にあそこまで一方的にやれる程なのか?」


 またタケシが俺に聞いてくる、まるでワタルの実力はこんなもんか?と言っている様だ。

 ヨウイチの実力は相当なモノだ、あの神童の双子なのも頷けるポテンシャルに加え、実戦で鍛えた勘の良さ、更には人の目を抉る胆力。どれを取っても一筋縄ではいかない実力を兼ね備えている……しかし、だとしてもワタルはそれら全てを補う程の卑怯とも取れるくらいのパワーがある。ここまで一方的になるとはとても思えない。


「うがあぁぁ!」


 ワタルは猛獣の雄叫びの様な叫び声を上げながら両の拳を振り回すが擦りもしない、逆に致命傷とは行かないが着実なボディ攻撃を喰らい続け明らかに動きが鈍り始めている。


「ノロマが……お前はもう終わってンダヨ」


 ヨウイチがボディでは無く顔面に向かって攻撃しようとする、拳じゃなく貫手だ。狙いは残っている右眼。

 咄嗟に顔をガードするワタルだが、その攻撃は空中で動きを止める。

フェイントだ。ガードを上げ、ガラ空きになったボディにまたもや拳が突き刺さる。


「アレだな。時折混ぜる顔面への攻撃に異常なまでに反応してしまい、見え見えのフェイントでもガードを上げてしまう……如何にあのワタルでもアレではサンドバッグ同然。勝負は見えたか」


 エックスが今のやり取りを見て説明してくれた、やっぱりそういう事か。いくらヨウイチが強いといってもワタル相手にあそこまで一方的にやれる筈がないんだ。


「無理もねぇよ、実際片目潰されてるんだ。軌道が顔面なら反応しちまう、自分の目を潰した奴ともう一度戦えるだけでも大した精神力だぜ、恐怖心が残ったまま同じ相手と立ち合ったらやる前から勝負は見えている」


 シンゴも勝負は見えたと判断したのだろう、諦めムードだ。しかしタケシが反論した。


「ん?待てよ、やる前から解ってる……この場にワタルを連れて来たら誰とやるかは解ってる筈だよな」

「それはそうでしょう、あの喧嘩屋が自分に泥を付けた相手を狙わない道理は有りません。実際ナオさんの事も狙ってましたしね」


 ヒロシは嫌な事をサラッと言った。

 

「だったらこの勝負まだ解らんかも知れねぇ、あのヘルメット男が初めから負けると思ってる相手をぶつけるとは思えん。もしかしたら何か手があるのかも……」


 タケシの予想とは裏腹にリング上では試合が決着に向けて大きく動いていた。執拗なボディ攻撃が実を結び、遂にワタルが膝を付いたのだ。


「がはっ」


 その瞬間、容赦無く顔面を蹴り上げるヨウイチ。今迄ボディに攻撃を集中していたのは勿論フェイントの為でもある、だがそれ以上にワタルとの身長差も問題になっていたのだろう。

 ヨウイチも小さい訳では無いが普通の高校生の一般的な百六十から七十センチ、ワタルはそれよりも頭二つは大きい……高校生としては規格外の体格だ。

普通に顔を打った方がダメージは大きいが、同然ストロークが長くなり隙も大きくなるのが道理。その身長差の問題が無くなった瞬間に満を持しての顔面攻撃。

 恐らくヨウイチもずっとこの一撃を打てる時を待っていたのだろう、言動とは裏腹にワタルの事を一切舐めていない証拠だ。やはりコイツ……ヨウイチは強い。


「もう満足か?この後が控えてんだ、早めに降参してくんねぇか」


 顔を蹴り上げられリングの中央に大の字で倒れるワタルに淡々と言い放つ。


「ふぅぅぅ……」


 ワタルは大きく息を吐きながらゆっくりと立ち上がりダメージを確かめるかの様に首の後ろを片手で掴みながら軽く回している。

 そしてまたさっきと同じ構え、散々やられているにも関わらず自分のスタイルは一切変える気は無いらしい。


「しつこい奴だ……やっぱり問答無用で終わらせるしか無いらしいな」


 ヨウイチが右手を握りこみ開きを繰り返しながら間合いを詰め始めた。

それを見てワタルも動いた、下半身はその場に残したまま上半身をググッと捻る。腰から上だけが後ろを向いている状態だ。


「まさかあのままぶん殴るつもりじゃないよな?」


 タケシがポツリと呟く。今迄左右の連打ですら躱されカウンターを受け続けているにも関わらず、今度は更に隙の大きい見え見えの攻撃をするつもりなのかとタケシは言いたいのだ。


「ふん……」


 ヨウイチが鼻を鳴らしジリジリと間合いを詰める……恐らくもう数センチでワタルの射程内だ。


「ぬぐぁぁぁぁ!」


 突如ワタルが一歩踏み込みながら右拳を振るう、想定内の攻撃を仕掛けられヨウイチは同然躱す……だが躱しただけでカウンターは打たなかった。それどころか躱した後に更に数本下がり間合いを開けたのだ。


「あいつ、何で攻撃しやがらねぇんだ。しかもまだ後退してるぞ」


 タケシの言葉を聞きリングを見ると何の小細工も無しにズンズンと近付くワタルに対しヨウイチは逃げる様に間合いを開けている。


「アレは恐怖心だ。今の渾身のフルスイングがヨウイチの頬を掠めた、その瞬間察したのだ……攻撃を掠らされ間合いを見誤っていた事とワタルの攻撃力の高さを」


 さすがエックス、よく見てるな。今の一撃掠ってたのか。

 ついでに言うとヨウイチの見切りを曇らせたのはあの踏み込みが原因だろうな、ただでさえデカイ男が思い切り踏み込みながら撃って来たんだ、左右の乱打とはリーチが段違いの筈だ。


「て事は……あの人一撃も当てないで相手に恐怖心を抱かせたという事ですか」


 ヒロシが半ば呆れ気味で言う、確かに凄まじいな頬を掠めただけで自分の力を見せ付けたって事かよ。


「いや、だがここからだ。恐怖心があるのは互いに同じ条件、ここからどう動くか……」


 シンゴの言葉をキッカケに逃げの一手だったヨウイチが急に間合いを詰める。


「クソがぁぁぁ!」

「ぬぅぅぅん!」


 急とはいえ常に気を張り詰めていたワタルも当然動きに反応し剛腕を振るう、ヨウイチはそれを避け顔面に攻撃した。


グショ……!


 気味の悪い音が聞こえ、観客の中からは悲鳴が響く。

ワタルが片膝を付き左目を手で覆っている。


「へっ、もう潰れてる方の目は安全だとでも思ったかよ。相手の弱点を突くのは喧嘩の鉄則だぜ」


 ヨウイチが右手を振るうと薄く積もった雪の上に赤い飛沫が飛んだ。


「やりやがった。しかも無事な方の目じゃなく、敢えて潰れてる方の目を……」


 観客同様シンゴが青ざめる、他のみんなも顔をしかめてリングを見つめている。


「さて、今度こそ終わりだな玉を貰おうか……発信機で解ってんだ玉持ってるのはお前だろ。さっさと寄越さねぇとコイツにトドメ刺すぞ」


 ヨウイチがヘルメットに対し血塗れの右手を差し出す、しかしヘルメットは怯む様子も無く言い放つ。


「そうしてくれて構いませんよ、決着の前に玉を渡しては私がその人に何されるか解りません。どうぞ遠慮なく……」

「へぇ……決着ったってな。もう一つの目でも抉れば良いのかね」


 ヘルメットに負けず淡々した口調で言葉を返すヨウイチ。この二人は理解しているのだろうか、今一人の人間の人生がものの例えでなく終わろうとしているのを。

 するとワタルが無言で立ち上がった、ヨウイチが油断無く構える。


「おいおい、まさかまだやるつもりか?止めとけよ……」


 ヨウイチの言葉を遮るかの様にワタルが胸倉を掴んだ。


「ぬああぁぁぁ!」


 ワタルはその状態のまま渾身の右を叩き込んだ。

ヨウイチは殴られた勢いで回転し頭から地面に激突する、しかしそれでも勢いは止まらず二回、三回と交通事故に遭ったみたいに転がって行った。

 動かなくなったヨウイチにヘルメット男が近付き懐を探り玉を取り出した。


「どうやら一回戦は私達の勝ちの様ですね」




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