猫の三つ巴
「何だかこの五人でチーム組んでからはアッと言う間に四回戦まで上がれたな」
タケシが屈伸運動をしながらみんなに話し掛ける。
「それは僕も思いました。最初の時は裏切りや邪魔が入って手間取りましたが、このチームで組んでからは苦戦すらもありませんでしたもんね」
唯一の苦戦はヒロシとオカマの戦いだが、酒のせいで記憶も飛んでるらしいな。
「そんなもんだろう、我々同士の戦いも無くなりアユミ嬢が人質に取られた時も援軍が現れたしな」
エックスはこの寒いのに地面に寝そべり股割りをしている。柔軟が重要なのは解るけどもコイツの感覚って本当にどうなってるんだ?
「トーナメントだしな、結局は運だろ。今は体力を温存させて彼奴らと戦える事を喜ぼうぜ」
シンゴがリングの向こう側からこちらを睨みつけているキリンの連中に向かって顎をしゃくる。
「しかし、やっぱりあいつら全員キリンのメンバーだったって事か。一人づつじゃ敵わないと悟って全員でこんな田舎まで来るとはご苦労さんだな」
俺はわざと聞こえる様に大きめの声で言ってやった。
リーダーのケンジ、ワタルをやったと言っていたヨウイチ、タケシの腕を食い千切ったジュン、エックスに何度も挑んだダイスケ。そしてオカマ。
流石に壮観だ、今まではコイツ等一人に兵隊と言った構成だったのに全員リーダー格なんだもんな。
「しかし、もう一チームが遅いな」
タケシが携帯で時間を確認しながらボヤく。
もう四回戦の試合当日だ、後数分で零時になり試合が開始される。
しかしもう始まる寸前だと言うのにキリンの面々は来ているがストレイキャットの連中は一人も現れていない。
「間も無く試合開始の時刻となりますがストレイキャットの皆様が現れておりません、一体どうした事でしょう」
ミッキーのマイクの声が響く中無情にも携帯が震える、試合開始を伝える振動だ。
「来ない奴はどうでもいいだろ、発信機見ると近くには来てるみたいだし様子を伺ってんだろ。セコイ奴だぜ」
ヨウイチが俺を見据えながら怒鳴り散らす、早く戦わせろと顔に書いてある。
カズが……ストレイキャットが何を企んでいるかは解らないがアイツが何の策も無しにただ遅れるとは考えにくい。
確実に嫌な事を企んでいるだろうな。
「グルルルゥゥ……」
ジュンがタケシを見ながら唸り声を上げる、コッチはコッチで今すぐにでも飛びかかって来そうな雰囲気だ。
仕方ないか、待てと言って待つ奴等じゃない。リングを挟んで目を合わせちまったんだ、やってやるか……!
「で、ではルール設定をお願いします。両チームのリーダー前へ」
ダルそうに歩を進めるケンジ、近くで見ると本当にでかいな。恐らくトシキ以上……トシキはコイツの喧嘩を見てやり方を吸収したって事か。
リングに上がりケンジと視線を交わす、ここまで来てもまだやる気の無さそうな目だ。
やる気が無いのか、それともトシキの事で頭が一杯か?リングの上で間合いたぞ……舐めるのもいい加減にしやがれ。
リーチは確かに俺じゃ敵わないがこの間合いなら関係無い、むしろ腕が長い奴ほど懐に潜り込まれると腕を畳んでからの動作になる為初動が遅れる。
多少汚いがやっちまうか!
俺が踏み込もうとした瞬間に背後から大声を出されタイミングを逃す。
「お待たせして申し訳ない。ストレイキャット参上仕った」
ミッキーのマイクを奪い取り会場中の目線を独り占めするフルフェイスの男、その後ろにはユイとサトシが闇の中からヌッと現れた。
「遅れて来といて偉そうに……」
キリンサイドから不満の声が漏れる、同感だ。
俺もついでに文句を言ってやろうとしたが、更に奥から現れた二人を見て喋りかけた言葉を呑み込んだ。
トシキとワタルだ……冗談だろ、どうやってあんなの手懐けたんだ。
トシキは懐かしいキゾク時代の特攻服に身を包み、ワタルはいつもの学ランだが左目に眼帯をしている。
ヤバいくらいの殺気だ、目線は俺じゃないがそれでも尻込みしそうな眼力だ。
「ふん……やっと来やがった。トシキ、ここが相応しい舞台か?」
トシキに話し掛けるケンジに対し片手で制する形を取りフルフェイスが喋り出す。
「貴方方の因縁は知らぬ訳では無いが、先ずはルールを決めましょうではありませんか」
「ルールもクソもねぇだろ、向かってくる奴等は全員叩き潰す……それだけだ」
ケンジは乱戦希望か、コイツのリーチに一対一で挑むのは部が悪そうだ。乱戦に乗るのが得策か?
するとフルフェイスがまた俺の喋り出そうとするタイミングで言葉を被せてきた。
「それも悪くは無いのですがそれぞれに因縁があるこの面々、余計な邪魔を入れずにトコトンやりたい相手が居るのでは?……無論ケンジさん、貴方にも」
そう言われトシキに目線を向け、ちっと舌打ちを鳴らす。
「じゃあどうするんだ?三チームで一人づつ出したら結局乱戦だろうが」
「チームの代表者が戦う相手を指名するのではどうですか?一人に一つ玉を持ち負けたら取られる。当然負けない限り何度でも参戦は可能です」
タイマン形式、ならば恐らくケンジはトシキが戦うはず……だったら俺の狙いは!
遅れて来たくせにこの場を仕切るフルフェイスの男を睨み付ける。
勝利も勿論大事だが、こいつの考えもそれ以上に気になる。今日この場で正体を暴き、ついでに何を考えてるのかも洗いざらい話して貰う。
「どうでしょう?路地裏猫の方々に取っても悪く無い対戦方法なのでは?」
「……異論はねぇよ、とっとと始めようぜ」
俺はわざと素っ気なく答え、戦いの方法はさして興味無さそうな雰囲気で自陣に戻った。
ケンジさえ止めてくれるなら一対一形式はむしろ望むところ。だが喜んでいるのをコイツに悟られるとどんな手を加えられるか解らん。
冷静を装いながら皆の所に戻ると、既にさっきまでとは別人の戦いを前にした男の顔である。
「三チーム出揃い対戦方法も決まった模様です、どうやら一チームごとに代表者が一人を指名するタイマン形式の様です。ですが、今回は三つ巴戦……その指名の順番なども大きく勝敗に関わって来るのでは無いでしょうか」
ミッキーがマイク越しに対戦方法を叫ぶと観客が大いに沸き立った。このゲームも四回戦、恐らく人前で戦うのはこれが最後になるだろう。
圧倒的強さをひけらかすケンジ。
今まで日の当たる場所に出て来なかったワタルにトシキ。
裏切りの名を受けてもまたこのゲームに戻ってきたユイとサトシ。
観客を巻き込んでまで戦おうとしたオカマ。
そして今の所最強と言われている俺達。
SSSゲームを騒がせた人間が一堂に会し、今から戦おうとしている……盛り上がるのも当然か。
「では、お待たせ致しました。SSSゲーム四回戦開始して下さい!……っと言ってもまずはどのチームの誰が誰を指名するのかも解りませんが」
確かにそうだな、先ずは様子見……出来るだけ向こうのニチームでやり合ってくれるのが理想だが。
そんな事を考えているとリングに思い切り足を踏み込ませズン!と重苦しい音を響かせた奴が居た。
「最初は俺にやらせろ、俺に舐めたことした野郎とやらせてくれるって言うからこんな茶番に付き合ったんだ。約束は守ってもらうぞ!」
ワタルだ、指をゴキゴキと鳴らしながらリングに上がる姿はまるでゴリラだ。
「おい、テメーだよ。片目抉ってくれた礼はたっぷりさせて貰うぜ」
狙いはヨウイチらしい、やはりあの片方の目はマジでヨウイチにやられたってことか。
爆発寸前のワタルに対し逆に冷ややかな対応のヨウイチ。
「ああ、アンタか。四天王の何だっけ?俺終わった奴に興味無いんだけど……」
「舐めんなよ、テメェ……」
リングから下りヨウイチの元に一直線に向かおうとするワタル。そんなヨウイチに対してケンジが無気力に言う。
「受けてやれ。心配しねぇでもその死に損ないやったら次はお前に指名させてやんよ」
「……そういう事なら喜んで」
そう言いながらリングに上がるヨウイチ、あのワタル相手だってのに余裕たっぷりだ。
「ま、ここでゴネてアタシ達の指名の時もゴネられたら面倒だしね。受けとく方が良いワネ」
オカマもまた何か企んでいるのか妙に落ち着いている。
「どうやら四回戦第一試合のカードが決まった様です。ストレイキャットから四天王の帝王、ワタル選手!そしてキリンからはヨウイチ選手!これは楽しみな一戦です、あの帝王の戦いを間近で見られる日が来ようとは……試合、開始して下さい!」
いつもより二割り増しくらい興奮したミッキーの掛け声に反応しリングの上の二人が間合いを詰め始めた。