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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
92/113

猫と酒

「これはヤバそうだな」

「ああ、飛び道具相手じゃ回避も防御も難しい」


 シンゴとタケシが腕組みをしながらリングを見つめ呟く。

二人の会話を聞いてハッと気がつく。これは俺達みたいな冬の厳しさを知っている地方の人間は考えても実行に移す事のない戦い方だ。


「水遊びがしたいならプールでも行って来たらどうですか?」

「残念でした。コレ中身は水じゃ無くてアルコール……ウォッカよ、この気温じゃ水じゃ凍っちゃうものね」


 楽しそうに銃口を向けるオカマに対し、油断なく間合いを開けるヒロシ。

近づいたらやられる……だが、離れても一方的にやられるだけだ。


「その表情から察するにコレを受けたらどうなるかは理解出来てるようね」

「ええ、生憎と小学校の頃にはしちゃいけない事と教わってますよ……」


 突然、オカマが引き鉄を引いた。水鉄砲から出た液体はヒロシの太腿辺りにかかり、降りしきる雪が容赦無く襲い掛かる。

 雪が濡れた太腿に触れ溶けて無くなるが直ぐさま新しい雪が掛かりヒロシのズボンが一瞬で凍る。


「うああ!」


 寒さくらいと馬鹿には出来ない、服が凍る程の寒さは痛さとなりやがて麻痺となる。そして動けなくなる……

 足を庇い次の射撃を避けようとするが早くも片足が思うように動かないのか追撃を喰らう。右手、左手、そして体と……全身を濡らされて行く。


「くそ、そこまでにしやがれ!」


 シンゴが我慢の限界と言わんばかりにリングに足を掛けるがオカマが水鉄砲の銃口をコッチに向ける。


「まだ勝負は付いてないのよ、この子降参してないもの……タイマン勝負を受けて置きながら都合が悪くなったら乱入?この街最強と言われてる猫とやらもその程度なのね」


 ヒロシは確かに降参はしていない。だが、それはしていないでは無く出来ないの可能性が高い。既に四肢に霜が張り何も言わず蹲りガクガクと痙攣しているかの様に体を震わせている。


「やり方が汚ねぇってんだよ、こんなの認められるか!」


 俺も我慢の限界だ、オカマに対し声を荒げる。


「汚い?どんな武器でも使用が認められたこのゲームも水鉄砲は反則だったかしら?……甘い事言ってんじゃ無いわよ」


 胸糞悪くなる言い分だが言葉の上では全く間違っていない。

 鉄パイプやナイフを用意しこのゲームに赴く者が居る中、水鉄砲だけを咎める訳にはいかない……実際この環境下では刃物よりよっぽど凶悪な武器なのだが。


「おい、ヒロシを助けるぞ……あのままにしてたらものの例えじゃ無く死んじまう」


 シンゴが小声で呟くとエックスも立ち上がり頷いた。

四方から一気に飛びかかれば、相手が飛び道具だろうが四人を撃退するのは無理だろう。


「もう良い、みんな辞めとけ」


 今にも乱入しようとする俺達を止めたのはタケシだった。


「おい、気でも狂ったか。ヒロシあのままじゃ……」


 俺の言葉を遮りタケシが続ける。


「勝負が着けば奴も必要以上にやらないだろう……とっとと頭にもぶっかけて終わりにしたらどうだ?」


 タケシの非情な物言いに思わず言葉を失う。確かにジワジワ痛めつけられるよりその方が助けられる時間は早くなるだろうが、それでも……


「やっぱりアナタ良いわねぇ、機会があれば是非やってみたいわね……さ、お仲間からのリクエストもあった事だし終わりにするわよ」


 オカマが蹲るヒロシの頭に銃口を向ける。


「タケシ、本当に止めなくて平気か?」

「ああ、最後の……本当にか細い可能性だがまだ残ってる。アレが水じゃ無くウォッカならな」


 まさか凍えてるからって火を点けるとかじゃ無いだろうな……そんな事したら火傷で入院コースだぞ。


「ヒロシ!俺の声が聞こえてるなら上を向け」


 ガクガクと震える身体を押さえつけながらタケシの声に反応し上を向くヒロシ。その目線の先にはオカマの水鉄砲が向けられている。


「オヤスミ」


 オカマの言葉と共に水鉄砲が発射されヒロシの顔に直撃した。


「さっき言われた通り勝負が着いたらコレ以上やる気は無いわ、死なれても面倒だしね。早く家にでも連れて帰ってお風呂でも沸かしてあげなさいな」


 ケラケラと笑いながらヒロシの胸倉を漁る、玉を探しているようだ。

俺達もヒロシを助け出そうと駆け寄ったその瞬間オカマが叫び声を上げる。


「いだだだだ、何よアンタ、離しなさいよ」


 胸倉を漁っていたオカマの手首をヒロシがかっしりと掴んでいる。


「もう勝負は付いてるのよ、とっとと家に帰りなさいよ。ダサい男ね」

「ダサい?」


 突如手首を引き寄せ、立ち上がりながらオカマの顔面に膝蹴りを放った。


「はぶぁっ」


 うっお……痛そ、アレ鼻折れたんじゃないか?いや、それよりもヒロシは何で急に動けるように……

その問いに答えるかの様にタケシが喋りだした。


「よし、うまい事行った。ヒロシは酒が異様に弱いんだ、匂いを嗅ぐだけでも酔っ払うくらいにな。しかも酔った後は凶暴になる」

「はぶ、ちょ……まっ……」


 目は虚ろなままのヒロシが地面にオカマ頭をガンガンと叩きつけている、既に動かなくなっているのに辞める気配すら無い。


「お、お前もう十分だろうが!良い加減に……」


 相手チームからの援軍が駆けつけヒロシの腕を掴むとオカマを離しそいつの喉を掴み、そのまま地面に叩きつけた。


「うげ……」


 その一撃で動かなくなったそいつを一瞥するとまた戻り、グッタリしているオカマにまだ続けるつもりか胸倉を掴む。


「おい、ヒロシを止めるぞ。今度はコッチがやり過ぎだ」


 タケシの声にハッとし、リングに駆け寄りヒロシの肩に手を掛けた。


「ヒロシ、もう十分だ。いくら何でもそれ以上やったらカッコ悪いぜ」

「カッコ悪い?」


 急に肩に置いた手を引っ張られ顔面に衝撃を受ける。

鼻からドバドバと血が流れ落ち、アッと言う間に地面に積もった雪が赤く染まる。


「うわ、ナオもやられた!」

「三人で一気に飛び掛るぞ、手負いだと侮るなよ!」

「承知した……私もあの閃光の膝蹴りは受けたくはない」


 シンゴ達の会話で何となく理解した、俺は膝を喰らったのか。マジかよ、殆ど見えなかったぞ。




 結局暴れるヒロシを取り押さえる事は出来無かったが何とか疲れさせ眠った所を捕らえ、ここから一番近いタケシの家に行き風呂にぶちこんだ。

風呂に入ってる最中吐いたりと色々あったが特に身体に異常は無いようだ。

 玉はオカマとヒロシが喉輪の一撃でノックアウトした奴からちゃっかり入手してあったらしい。

色々あり過ぎるほどあったが、とにかくこれで二回戦突破だ。もう一回勝てばジャッジメントに手が届く……

 あのヘルメットも約束通りアユミを送り届けてくれたようで何の問題も無いが、逆に不気味だ。

 この前は邪魔をしておいて今度は協力、何を考えているのかさっぱり解らない……強いて言えばあいつがジャッジメントの一員ならば上の命令で邪魔したり協力したりという場合もあるかもしれない。去年のヒデさんの様に。

 俺はヒロシにやられた鼻を押さえながら眠りに落ちた。


 あのヘルメット……次に会う時には少しは謎が解けるのか。

しかし次に再開した時には新たな謎を引き連れてやってくる事になるのだった。

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