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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
91/113

猫とフェンシング

 今日は特に冷えるなと思っていたら雪が降って来た。

水分を含んだ大きめの雪だ。

これは根雪になるな。毎年こんな感じの雪が降るといつ迄経っても道に雪が残り段々積もっていくんだ。

 空を見上げていた目線を下に降ろし自分の相手を見据える。


  オカマは右手に細身の剣を持ち手首を揺らすだけでその剣先が鞭の様にヒュンヒュンと人の目では到底見切れない程にしなっている。

 フェンシングってやつだな。針の様に細い武器で戦う剣術、テレビで見た事がある程度の知識しかない。当然戦闘経験は無い。

 同じ剣術でもユイの木刀と違い打撃では無く斬撃だ、幾ら細いとは言え急所に刺されば痛いでは済まないだろう、失明や……下手したら死も有り得る。

  いつもなら刃物を出されたら多少なりとも怯むものだが今はそれが無い、妹を危険な目に合わせた張本人にそのツケを払わせる。

恐怖よりも不思議な高揚感の方が優っているのだ。


「おし、行ってくるぜ」


  冷えて動きにくくなった指をパキパキと鳴らしながらリングに上がろうとするとそれを止められた。


「アナタが相手なのね、アタシは別にそれでも構わないんだけどヨーちゃんの予約が入ってるのよね……そっちの彼はジュンちゃんだし。どう、良ければアナタが相手になってくれないかしら?」


 俺を無視し後ろに居るヒロシを指差した。


「僕ですか、今回はナオさんに任せるつもりでしたがご指名ならば仕方ありませんね」

「受けてくれるのね、嬉しいわ〜」


  勝手に話が進んでいるが俺は納得してないぞ。


「おい、俺の立場も考えろよな。妹があんな危険な目に遭わされて引っ込んだままで居られるかよ、予定通り俺にやらせろ」

「良いじゃ無いですか、ナオさんさっきタケシと暴れたんだし……それにエックスの言葉を借りるならナオさんの家族は僕等の家族も同然ですよ」


 ぬぅぅぅ……さっきはありがたいと思っていた言葉なのにタイミングが違うだけでこうも感じ方が違うとは。


「それに合気道が対武器用の格闘技なのは知ってますがアレは相性悪いんじゃ無いですか?」


  そうなのか?確かに経験は無いけどどれも似た様なもんじゃないのか。


「お待たせしました、ご指名通り僕がお相手致しますよ」


  言葉に詰まっている俺を差し置いてとっととリングに上がるヒロシ、何か悔しい。


「アナタの流派ってカポエイラよね?初めて見……」


  ヒロシはオカマが話し掛けてるのを無視し、いきなり回し蹴りを繰り出す。躱しきれずに鼻先を擦りポタポタと血が流れ落ちた。


「貴方の様な下衆と語る気はありません。やる気が無いなら結構、こっちはこっちで勝手にやらせて貰います」

「この……!」


 口元を抑え若干鼻声で怒りの声を出すが、ヒロシはそれすらも聞き入れずに回し蹴りからの後ろ回し蹴り、更にもう一回転し下段の後ろ回し蹴りを放ちダウンを奪った。


「うっ」


 尻餅を付き動きの止まった所に倒立したヒロシが膝を振り下ろす。

単純に踏み付けるよりもストロークが長くなり文字通り全体重がオカマの脛にのしかかる。


「ああぁぁぁ!」


 更に悲鳴を上げるオカマに対し、一切の躊躇も無く開いた口の中に蹴りをぶち込んだ。


「うわ……エグいな」

「あれがカポエイラの本気か、仲間同士じゃ使えない技ってのもあるもんだな」


 ヒロシとも何度も寸止組手(マススパーリング)で手合わせをした事がある、だがあんなのは初めて見る戦い方だ。


「ここからだな……」


 後ろからシンゴが呟く、その言葉通りにオカマは間合いを開け構えを取った。

剣を右手に持ち体を半身にさせ、只でさえ長いリーチがより長く感じる。

 端で見ている俺達よりも、実際対峙しているヒロシはもっと懐が遠く感じる事だろう。事実始まってからあれだけ猛攻を続けていたのに急に動きが鈍くなった。


「あれはやり難いな」

「ああ、剣先で観察されてるみたいだ」


 タケシとシンゴがリングを見ながら言う。

ヒロシがオカマの回りを回るがオカマは冷静に剣先をピタリとヒロシの方向に合わせ向きを変える。

 このままでは埒があかないと感じたのかヒロシは半歩下がり前方宙返りをしながら動回し回転蹴りを仕掛ける。


「ぐあっ!」


 空中に居るヒロシが小さく悲鳴を上げ、地面に落ち右脚を押さえている。

 飛んで居るヒロシの足を狙い刺したんだ、当然刺したままならあの細い剣では体重を支えきれず折れる。刺した瞬間に引き抜き、また間合いを開けたんだ。


「シッ!」


 しゃがみこんでいるヒロシに向かって剣を突く、何とか躱すがそのすぐ後に放った蹴りを喰らい後ろに転がる。


「フフフ、最初は不意打ち気味にやられたけど一度間合いを開けちゃえば素手のアナタに負ける要素は何も無いのよ」


 オカマはまたヒロシの方向に剣先を定めピタリと動きを止めた。


「スピード、リーチ、そして攻撃力……どれを取ってもアタシに勝てるモノは無いわ。命乞いしてご覧なさい、少しは手加減してあげるわよ」


 さっきヒロシが言ってた意味が解ってきた、合気道は対武器でより効果を発揮する格闘技。

だがあのフェンシングと言う武術はスピードが桁違いだ、見て反応するのはかなり難しい、加えて攻撃方法は決して踏み込まず、常に体重を後方に置きつつの突き攻撃。相手の勢いを利用するのも難しそうだ。

 ヒロシは無言で立ち上がり、若干リズムを早めたジンガを始めた。


「フフフ、好きなだけ掛かっていらっしゃい。存分に相手してあげるわよ」


  ヒロシの動きに合わせてゆらゆらと剣先を揺らす、完全に動きを捉えられている。飛び込んだらさっきの二の舞だ。


「どうしたの?来ないならこっちから行くわよ……シッ!シッ!シッ!」


  オカマは摺り足でジリジリと間合いを詰めながらギリギリの射程から突きを繰り出す、気に食わないオカマだがやってる事は巧い。

 武器の最大の利点であるリーチを活かした射程外からの攻撃、これをやられると徒手空拳は理不尽なまでに手も足も出ない。

 そしてさっきの様に文字通り肉を切らせて飛び技を繰り出しても空中にいる相手に対して刺して抜くという動作をやってのける相手では分が悪過ぎる。どうしたら……


「フッ!」


 防御に徹していたヒロシが急に攻めだした、突きを躱すと同時に側転で相手の射程内に飛び込む……しかしオカマは直ぐに体を引き飛び込んで来るヒロシを迎え撃つ構えを取った。

 攻めては居たがいつ仕掛けられても良い様に体重は後方に置いたままだったんだ。

普通武器を持つと攻撃力に自信ができ、必要以上に踏み込んでくる人間が多い。

 だが武器対素手の場合はこうして踏み込まずこちらの射程の外からチマチマやられるのが一番嫌なのだ。

このオカマはそれを知っている、人の嫌がる事を愚直に行う……残念ながら格闘技とはこれが出来る奴が強い。

  オカマは側転で襲い掛かるヒロシに狙いを定め、満を持して突きを放つ。しかし……


「んなっ」


  オカマは完全に捉えた筈の攻撃を外した……ヒロシは側転で間合いに入る振りをして片手で倒立したまま動きを止めたのだ。

 オカマの攻撃は空を切りバランスを崩す、対して一瞬倒立したまま動きを止めたヒロシが動き出す。

逆立ちのまま右足で顔面を蹴り降ろし、左足で剣を弾き飛ばした。


「はぐぅ!」


 また鼻を蹴られ今度はボタボタと鮮血が雪の上に広がる。


「そんな馬鹿な、アクロバットをしながら途中で止まるなんて……」


 俺達はヒロシの動きを見慣れているせいか気にしてなかったが改めて見ると凄い事なんだな。

逆立ちの状態で蹴るのもだが片手で倒立や側転を途中で止めたりとその動きは捉えどころが無い。


「武器も無くなったらこれまでですね。だがこれで終わりにはしませんよ、アユミちゃんを人質に取った事を後悔させてやります」


  ヒロシは弾き飛ばした剣を踏み付けながらしゃがみ込んでいるオカマを見下した。


「くっ……フッフッ。まさか武器を取った位で勝った気になってるのかしら?少し早いけど奥の手を見せてあげるわよ」


  そう言いながらオカマはゆっくりと立ち上がり懐から何かを取り出した……あれは水鉄砲?百円ショップとかに売ってるやつだ。


「それが奥の手ですか。まさか硫酸入りとか言いませんよね」

「そんなグロい事しないわよ、銃は剣より強しってね。さぁ、掛かっていらっしゃい」


  オカマは水鉄砲を構え自信満々の表情を浮かべる。一体何を考えてるんだ。

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