猫とオカマ
それからユイ達は学校にも現れず、話す機会も無く時が過ぎた。
そして俺達がメットヤローに翻弄されてから数日後、翌日には参加登録を済ませたタケシと愉快な仲間達は早くも試合を組まれていた。
「先日乱入者により引き分けによる敗退を喫してしまったタケシと愉快な仲間達チームですが、早くも再試合を望んで頂けました。対戦相手は県外からの挑戦者、チームダイヤモンドタートルズの方々です!」
どっちも名前がダッセェ……名前だけ聞くと酷い試合になりそうだな。
でもタケシ達が一回戦の……しかも県外からの無名の奴等に負ける事も無いだろう、今回は余裕だな。俺もいつまでもダラけている訳にもいかんし、チームメイト探さないとな。
大分動く様になった腕を回しながら思いを巡らせた。
「アナタがそちらのチームのリーダーかしら?結構タイプよ」
会話を聞いてるだけなら女の子の積極的なアピールだが、肝心の喋っているのがバリバリに厚化粧をした男だ。
本当に気持ち悪い。オカマって奴か、テレビでしか見た事ないぞ、都会って怖ぇな……県外って情報だけで都会かどうかは知らんけど。
タケシも気持ち悪そうにそいつと距離を取りながら対応する。
「あー……そいつはどうも、ルールは一対一でいいか?」
「うーん、アタシ暇じゃ無いのよ。アナタとはゆっくり楽しみたいんだけどね、ゴメンね〜。全員纏めてかかっていらっしゃいな」
オカマは乱戦を要望した様だ、五対四だがタケシ達ならそれでも余裕だろうな。ヒロシはともかく他の三人は多対一にも慣れている喧嘩屋の集まりだ。
「わかった、それで構わねぇぜ。早速始めようか」
リング上ではトントン拍子に話が進んで行き、今にも始まりそうな雰囲気だ。
両チームのメンバーもリーダーの会話を聞きリングに集まり始めた。
すると急に背後から話しかけられた。
「ナオさん、やはり見に来てたんですね、お一人ですか?」
聞き慣れない声に振り返るとそこに居たのは……えーっと、誰だっけ?……あぁ、マサトシの仲間だ、一年前に偽イクオに襲われた時に助けてくれた内の一人だ。
「おお、久しぶりだな。あの時はありがとな、助かったよ」
「挨拶はいいです。それより時間がない、もう始まっちゃいます、良いですか?今から俺等マサトシを援護する為に乱入します。その後何があってもナオさんは関わらないで下さい」
ん?どういう事だ?
俺が意味が解らずクエスチョンマークを飛ばしていると口早に説明してくれた。
「今回ジャッジメントを誘き寄せる為に人数制限のルールを破るつもりなんです。もしそれで変な事になったらナオさんまで巻き込まれる事になります、なのでこの件とは無関係でいて下さい」
「いや、それヒロシに止められてたぞ。ジャッジメントが出て来たら出て来たで面倒な事になるって」
「ええ、なのでヒロシさんとタケシさんには黙って今回の作戦を強行します、いざって時はあの二人も巻き込まない為に……」
とんでも無い事考えたな、ジャッジメントを誘き寄せるか。直接の面識があれば腰も退けるんだがコイツ等見た事無いんだろうな。
「そんな訳で失礼します、もう始まっちまいますんで……」
「お、おい、待てよ。そんな簡単に……」
俺の声を聞かずに走り出しライトの届かない闇に溶け込んだ。
幾ら何でも甘過ぎるだろ、ジャッジメントは関係無いからってタケシとヒロシは帰って良いよなんて言う訳無いんだ。
ヒデさんとかトシキが来るならまだ話は通じるかも知れないがカツマってのが来たら本当にどうなるやら……いや、やっぱトシキが来てもヤだな。
「さーて、早速始めるのは同意見なのだけど、その前に紹介したい人達がいるのよ。みんな出てらっしゃい」
考え込んでいるとオカマが声を張り、観客の中から二十数人が凶器を持ち立ち上がった。
急に横の男が立ち上がり観戦に来ていた女の子が悲鳴を挙げる。
「これはどういうこった?」
「言ったでしょ、アタシ暇じゃ無いの。アンタ達馬鹿じゃ無いの?要は勝てば良いのよ、こんなもん律儀にルール守って五対五でやるから負けちゃうのよ……さ、始めましょうか」
これがマサトシの仲間の言ってた作戦?いや違うな、相手も同じ様にルール破ろうと仕掛けてきたんだ。
「おい、無粋な真似すんじゃねーよ、引っ込んでろ」
ガコッ!
リングに近付こうとする乱入者に対して観客の一人が声を上げると問答無用でバットのフルスイングを喰らった。
「田舎者は黙ってなさいな、怪我したくなかったらね」
コイツ等無茶苦茶しやがる。改めて都会って怖ぇな……
でもこれは良いかも。コイツ等がルール破ってジャッジメントに粛正されたって知ったこっちゃ無い。それでジャッジメントの誰かが来るならカズの居所を聞き出すチャンスにもなる。
ただ、ヨソ者に俺達の町で我が物顔でこんな事されるのはムカつくけどな……今は我慢だ。
一人が惨たらしく顔面にバットを喰らうのを見て見に来ていた半数以上が悲鳴を上げながら逃げ出す。パニック状態だ。
「おい、好き勝手やってくれんじゃねーか」
そこで声を出したのがマサトシの仲間の猟犬だ。自分達を助けてくれる思いがけぬ援軍に沸き立つ観客。
「何よアンタ達、しっかり武器まで準備しちゃって。ただの観客じゃ無いの?」
猟犬は七人程度、まだ数の上では圧倒的に有利なオカマは焦る様子すら見せない。
「まあな、只の観客じゃねぇな。とある理由でここに居たんだがお前等のお陰で手間が省けたぜ、一応感謝するが目的の為にここで潰れて貰うぜ」
「ふふ、構わないわよ。四人が十人ちょいに増えたところで……どうせこのゲームに関わりそうな連中は潰すつもりだったのよ。こちらこそ手間が省けたわ」
一触即発……互いの目線が絡み合い、沸き立つ観客と逃げ出す観客が辺りを賑わせる。
「さ、みんな。やっておしまい」
オカマの一言で武器を持った奴等が手当たり次第に暴れ出した、それを見てヒロシ達と猟犬も飛び出した。
「おい、コッチ向けよ。お前の相手は俺がしてやる」
ポケットに手を突っ込んだままオカマに近付くタケシ、雑魚は任せて自分は親玉を狙うつもりか。
俺はどうするべきか……手を出すなと言われて居るが一般市民も狙われてるのに動かないってのもカッコ悪いよな。
俺が悶々としていると見覚えのある大男がズンズンと歩を進めながら近くに居るものを敵味方関係無しに絞め落としているのが目に付いた。
最悪だ、よりによってこのオッサンが来たのか。騒ぎになってて気がつかなかった……
てか、早過ぎる。もうここに来てるなんて。
その大男はサンボの動きを駆使し、背後からスッと近付き一瞬の内に締め落とすを繰り返している。カツマだ、一番話が通用しないのが来ちまったな。
タケシもカツマの存在に気が付きそっちを見つめている、その目線に釣られオカマもカツマを目視した。
「な、何者よアレは。アンタの仲間……って訳じゃなさそうね」
先程オカマの仲間に対して張り合っていた奴もカツマの手にかかって居るのを見てそう呟いた。
「おい、お前カツマつったか?あんたにゃ聞きたいことがあるんだ。ちっとツラ貸せよ!」
「威勢の良いボウズじゃのう。カツマさん……だ、目上の人には敬意を払わんかい」
タケシはオカマを無視してカツマに近付こうとしたが、余りの迫力に流石のタケシも二の足を踏む。
「ち……本当は五回戦まで勝ち抜いて正面から堂々とぶっ倒してやるつもりだったんだけどよ、こうして会っちまったら退けねぇよ!やってやんぜ!」
タケシは尻込みした自分に喝を入れる様に太腿に拳を突き立てた。