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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
84/113

猫の裏切り

 騒いでいた観客はマサミチがやられた一瞬の攻防を見て静まり返ってしまった。

無理もない、表情も読み取れないフルフェイスの不気味で危険な奴を野次るのは勇気がいる。

 だが自分の試合を邪魔された俺達まで黙って居る訳には行かない、相手の出方を伺いながらジリジリと間合いを詰める。


「お前が何者か知らないけどな、こんな事してタダで済むと思ってんのか?ゲームを取り仕切ってる奴等はチーム登録していない人間の参加を嫌う、第三者のお前が乱入して来たらそいつらも動くぜ……そして仲間をやられた俺達もお前をこのまま返すつもりは無い」


 まず動いたのはタケシだ、油断も合っただろうがマサミチを一撃で倒す手練れ。迂闊には間合いに飛び込まない。


「ジャッジメントの事ですね……裏ルールその一。ゲーム不参加の人間が何処で誰と戦おうが関係無い、小学生とだろうがヤクザとだろうが好きにしたらいい、それが自分の意思ならばな」


 フルフェイスが不気味に呟く、この台詞どこかで聞いた事があるな。


「なるほど、自分の意思ですか。それならばジャッジメントに粛正される心配は無さそうですね。ならば貴方の意思とは何ですか?どんな理由が合って僕達と敵対するのですか」


 前の試合で体力を使い果たしたタケシを気遣ってかヒロシが前に出るとフルフェイスがヒロシに向き直った。


「確かに今の現状では敵対と見なされても仕方が有りませんが、私は貴方方と事を構えるつもりは有りませんよ。こちらのマサミチさんは掛かってきたから迎え撃ったまでの事」


 今度は俺達の方を振り返り話を続けた、どうやら背後にも気を張り詰めている様だな。今の体で迂闊に飛び込んだらマサミチの二の舞になりそうだ。


「私の意思は……このまま試合が終わるまでの約三十分何もしないで頂きたい、それだけです」


 何だ?何を言ってるんだ、こいつ何が狙いだ。


「お前、この人数相手に何ふざけた事言ってんだ?勝手に出てきてはい解りましたとでも言うとでも思ってんのか?おい、一時休戦だ、コイツ黙らせようぜ」


 タケシが我慢の限界と言った雰囲気で俺達に提案する。俺も同じ気持ちだ、素直に言う事を聞く気は無い。コイツの正体は気になるが、それはやった後にヘルメットを剥ぎ取ってやればいい。


「そうですね、私もこれだけの手練れを八人も相手に簡単に言う事を聞いて貰えるとは思ってませんよ。例え殆どの人が半死半生のこの状況だとしてもね」


 この野郎こっちのコンディションも見抜いてやがるのか。

シンゴはダウン、サトシとタケシは今やり合ったばかりで戦力にはなれないだろう。

ヒロシだって楽勝に見える内容だったが、それでも一試合をこなすのは気力も体力も相当擦り減らす。

 情けないが俺も今の体じゃ痩せ我慢した所で五分持つかどうか……マサミチもやられてしまった現状頼りになりそうなのはユイとボクサーのマサトシの二人だ。


「別に私は貴方方と思いは違えど敵対するつもりも有りません。……そうですね、こんな提案はどうでしょう?今ここで戦闘不能のマサミチさんが居ます。頭部にもう一撃与えたら彼は二度とテコンドーが出来ない体になるかもしれませんよ?」


 コイツ、本気でやる気か?マサミチを人質に取ってこの場の全員を掌握するつもりだ。

俺が更に動きを制限されると意外な所から声がした。


「……やるならやりやがれ。これでも格闘技やってる身だ、一生モノの怪我くらい覚悟してんだよ。ヒロシ達のお荷物になる位なら喜んでやられてやるぜ」


 マサミチだ。両膝をついたままで動く事は出来ないみたいだが、意識はしっかりしているらしくハッキリとした口調で喋っている。


「らしいですよ、中途半端な脅しは止めてやるならやれば良い。ただし、その場合貴方には相応の覚悟をして頂きます」


 ヒロシが戦闘態勢に入り近付いた、他のみんなも同じ様にジリジリと間合いを詰める。

俺も背後から少しづつ距離を詰める、後二歩程で射程内だ。


「ふむ、どうやら貴方達の覚悟を甘く見ていた様ですね。ならばこちらも奥の手を使いましょう」


 その言葉を聞きユイとサトシが近付いていく。


「バカ!不用意に近付くな、何を隠し持ってるかわかんねぇんだぞ」


 俺の声を聞き二人が振り返る、何か様子がおかしい。

明らかにフルフェイスの間合いの中だと言うのに背を向けて俺の方を見ているのだ。


「おい、お前等何してんだ。離れろ」


 俺の言葉を無視し、フルフェイスがユイ達に語りかける。


「ご苦労様でした、玉を……」


 ユイはスッとさし出された手のひらの上に五つの玉を置いた。

何してるんだ?何故あいつ等が玉を……


「クソ、テメー等ぁぁぁ!」


 そのやり取りを見た途端にマサトシが拳を握り締め飛び出した。

しかし近付く前に木刀とトンファーがマサトシに襲い掛かり間合いを開けさせられる。


「ちっ……」


 流石ボクサーの動体視力、二人の攻撃は空を切った。だがもう一度近付く事は難しいと感じたのか間合いの外で軽いフットワークを続ける。


「お前等何のつもりだ、裏切るのかよ?」


 マサトシがフットワークを刻みながらユイ達を怒鳴り散らす。裏切る?あの二人が?

ユイとサトシは黙ったまま俯く、俺と目を合わすのを避けている様だ。


「おい、メットヤロー。最初からその二人を抱き込んで玉を持ってこさせるのが目的だったのかよ……意味わかんねぇぞ、ここまでして何が目的だよ」

「単純な事です、このまま試合時間が終了したら引き分けで両者失格。それだけですよ」


 爆発寸前のタケシに対し冷ややかな対応をするメットの男、二人のやり取りを聞いても頭に何も入ってこない……本当にユイ達は裏切ったのか?


「わかんねぇ奴だな。目的は何だって聞いてんだよ、俺達が失格になってお前に何の得があるんだって聞いてんだ」


 メットの男は沈黙したままだ。代わりにヒロシが口を開いた。


「このゲームに参加者以外が関わる理由ですか。観客じゃ無いのならば……貴方はジャッジメントの一員って所ですかね」


 こいつがジャッジメント?確かに俺達の邪魔をする奴等の心当たりなんてそれくらいしか思い当たるフシが無いが……


 ヒロシの問いに対しては何も答えず、代わりにユイとサトシに話しかける。


「君達は先に退いて下さい。特にサトシ君、君は走るどころか歩くのもやっとでしょう。早めに撤退して貰わないと困りますね」

「わかりました……」


 軽く口惜しそうな表情を見せた後、ユイと共にこの場を去ろうとするサトシ。


「先輩、すいません。恩を仇で返すこの所業……腹を切って詫びる所存です。ですが今は……今だけは見逃してください」


 ユイが俺に一言言った後に一礼し、サトシもその横で頭を下げた後に立ち去ろうとした。


「おい、行くな!お前等が何でこんな事をするんだ、またリョーコちゃんでも人質に取られて脅されてるのか?だったら今言え!何とでもしてやる」


 俺の言葉に一瞬ピクッと動きを止めたが、そのまま振り返らず闇に消えていった。

残るはこのメット男。ユイ達をみすみす行かせてしまったのはこいつの存在が邪魔をしたのが一番の理由だ、こうなったらコイツだけでもとっ捕まえて話だけでも聞かせて貰う!


「ちっ、ナオ。あいつ等には明日学校でちゃんと話を聞いとけよ。俺等の所にも顔を出させるように伝えとけ……一回シメてやる」


 タケシの言葉を聞きメットの男が口を開く。


「それは好きにして下さって結構ですよ。双方の同意があるならば拳で語るのも必要でしょうしね。男ってのはそんなもんです……さて、私ももう退散させて貰うとしましょう。この場にはもう用事はないのでね」

 

 メットの男がマントの下で身構えるのが解る、何かをするつもりだ。

だがタケシ、マサトシ、ヒロシと俺で四方を囲んでいる。逃がすもんかよ。

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