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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
83/113

猫の意地

「はぁ……はぁ……」


 もう何度目のダウンだろうか、サトシは愚直に攻撃を仕掛けその度に返り討ちに会う……それを繰り返し肉体的には勿論の事ながら精神的にもボロボロに見えてしまう。


「ふぅ、もうとっくに立てない位だと思うんだがな。タフな奴だ」


 タケシが手足をブラブラさせ四肢の疲労を和らげる。


「今回ばかりは負ける訳にはいかないんすよ」


 サトシがフラフラになりながら殴りかかると言うより体当たりの形でタケシに突っ込む。当然軽々と避けられ、避けざまにボディに一発入れてくる。


「う……うぇぇぇ……」


 サトシは両膝を付き腹を押さえ蹲った。


「無闇にいたぶる趣味はねぇ、もう終わらせてやるよ……っても別に手加減したつもりも無いんだけどな」

「そうして貰えますか、残念ながらどんなに痛くても退く気は無いんで……きっちり意識奪って貰う方がありがたいですね」


 サトシは尚も立ち上がるが、構えも取らずタケシの方を見てもいない様に見える。


「じゃあな」


 一言そう言うとタケシはよろけながら立ち上がったサトシに向かってダッシュで間合いを詰める、その瞬間を見計らったのかサトシは右手に持っていたトンファーの一本を投げ付けた。

思いもよらぬ攻撃に避けきれず咄嗟に腕を上げてガードする、サトシその隙を突いて背後を取り羽交い締めを仕掛けた。


「やっと……捕まえた」

「まさか自分の一番の武器を投げ捨てるとは思わなかったぜ……んで、どうするんだ?組み技が出来るとは知らなかったが」


 羽交い締めされたまま全く動揺せずに言うタケシ、確かに生半可な組み技じゃタケシに敵うはずもない。あいつは打撃格闘技のイメージが大きいが寝技もそこそこ出来るんだ。


「始まる前、シンゴ先輩が言ってました。自分達も辛いが相手も同じ様に一、二回戦をくぐり抜けてきた……条件は同じだと」

「ふむ、それで?」


 羽交い締めしたままサトシは左手に持ったトンファーを振り上げタケシの腕に向かって叩きつけた。


「ぐっ……」


 飛び散る鮮血、あれは武器を持っているとは言え打撃の出血量じゃない。あいつ刃物でも隠し持ってやがったのか?

俺が思わずリング内に飛び込もうとするのをユイが制する。


「落ち着いてください。いくら負けられない戦いでも僕等にも武道を嗜む者としてのプライドがあります、刃物なんて隠し持ったりしませんよ」


 俺の心情を察したユイが宥めようと話しかけてくる、だがそれならあの出血は一体?


「やはりですね、気を失うほどの出血……あれから数日でその傷が完治する筈が無い。ここを狙っても卑怯とは言いませんよね?」

「ち……あの時の試合見に来てたのか。卑怯なもんかよ、これが卑怯ならお前の体中どこを狙っても卑怯になっちまう」

「言ってくれますね」


 ガスッ!っと同じ場所にトンファーを打ち下ろす、その度に夥しい程の血が流れる。

タケシは振りほどこうともがくがサトシも必死で抑えつけ腕に打撃を与え続ける。

何度も何度も同じ場所を打ち付けられ、ようやく振りほどいた時には見るも無残な血だるま状態だ。


「クソったれ……」


 直ぐさま上着の袖を破り、それで傷口を縛り止血しようとするが血は止まる気配を見せない。

一方羽交い締めを振りほどかれたサトシはやっと立ち上がろうとするところだ。タケシ相手にここまでの大打撃を与えたのは凄いが、ここに来るまでにダメージを受け過ぎた。

ここからどうするんだ……


「その出血量なら時間切れを待てば勝てそうですが、コッチも限界近いんで……攻めさせて貰いますよ」


 はぁはぁと荒い息をさせながら左手に持ったトンファーを右手に持ち替えて構えを取った。


「そりゃありがたい、とっととかかって来い」


 サトシはタケシが喋り終わるか終わらないかのタイミングでダッシュで間合いを詰め、その勢いを利用しての渾身のフック。狙いはやはり出血場所の左腕だ。

 タケシはその攻撃を見切りスウェーで躱しながら右拳でカウンターを返そうとする。

しかしサトシは右フックの軌道を変えボディブロー、深々とトンファーの柄が突き刺さった。


「げほ……」


 タケシは無防備な腹に思い切り攻撃を喰らい身体をくの字に折り曲げた。

タケシのディフェンスは一流だ、普通に仕掛けたらフェイントを入れたとしても見切られてしまっただろう。

 だが右腕に深い致命傷を負った今ならば……そこを狙われるという概念と、そこを打たれたらマズイと思う危機感が判断を鈍らせる。


「はぁぁぁ!」


 動きの止まったタケシにここぞとばかりにラッシュを仕掛ける。

ボディを打たれ足を止められたタケシは避ける事も出来ず防御で耐え凌いでいたが一瞬の隙を突きカウンターを一発入れて間合いを空けた。


「なかなか倒れてくれないもんすね……」

「トンファーを一本捨てたのはミスだったな、徒手空拳に慣れていないお前の拳は軽いんだ。文字通り攻撃力半減ってとこだ」


 お互いに息が上がり押せば倒せそうな雰囲気だが、どちらもまだ目が死んで無い。

タケシの言葉を聞き、またトンファーをグッと握り直しタケシに突っ込んだ。

その瞬間、目を疑う光景を目にした。またしてもトンファーを投げ捨てたのだ。


「ぐっ、まさかもう一本まで……」


 虚をつかれたタケシの顔面に当たり直ぐさま視線を戻すがその時には既にサトシは間合いの中だ。


「負ぁけられないんだよぉぉぉ!」


 ダッシュで突っ込みスピードを緩めることなく体当たり、もし避けられたらとか反撃されたらの可能性を考えてない正に捨て身の一撃だ。


「ぐぶぅ」


 タケシは交通事故に遭ったかのように数メートル吹き飛び地面に横たわる。


「はっ…はっ…はっ…」


 サトシは吹き飛んだタケシを見ると投げ捨てたトンファーを拾った。


「ち……やってくれたな……」


 タケシが倒れたまま首だけを起こし辛そうに喋る。

そして自分の懐ををまさぐり玉を取り出した。


「敢闘賞だ……くれてやる、だが次はこんなに優しくねぇからな」


 寝ながら玉を投げ捨てると、サトシはそれを上手い具合にキャッチした。

そしてその場にへたり込む。


「か……勝てた……」


 やってくれた。この一勝はでかい、相手のリーダー格を打ち破る事は流れを掴む意味もあるが相手に与えるプレッシャーもあるはず。

一敗も出来ないという追い詰められた雰囲気から逆にこっちが追い詰めた気にさえなってくる。


「勝って来たぜ……」


 ズタボロになりながらも笑顔で戻って来たサトシをユイが受け止める。


「良くやってくれた……流石だよ」

「へへ……見直したかよ」


 本当に良くやってくれた、これで後二勝。光明が見えてきた。

依然負けられない戦いには違い無いが、ここでもう一勝出来れば完全に優位に立てる。

 コンディション的にはユイの方が良いだろうが次は俺が出る。

シンゴだって自分の体調を鑑みないで最初に出たんだ、ここで俺が後輩に任せちまったらアレだ……恥ずかしい!


「ユイ、最後は任せるぞ。次は俺が行く」


 サトシを抱きとめたまま驚いた表情を浮かべ、俺を見上げるユイ。

後はボクサーとテコンドーか、どっちもキツイな……マサミチなんかはヒロシにも勝ったことがあるんだもんなぁ。

 でも、やるっきゃ無い。先輩としての意地ってもんがあるもんな、シンゴ。

俺は後ろで横たわっているシンゴを見ながら決意を固めた。

筋肉痛でビキビキ言う体を動かし前に出ようとするとマイクからの奇妙な声でそれを遮られた。


「この試合、私が預からせて貰おうか」


 ミッキーの声ではない、驚き実況席の方を見るとミッキーがマイクを奪われ慌てふためいていた。

そのマイクを奪った男が……いや、実際男か女かも解らない。そいつは黒いフルフェイスのマスクを被り体も黒いマントで覆っていたのだ。そいつがマイクを放り投げるとリングにユックリと向かって来た。


「今日の試合はこれまで、見に来て頂いた観客の皆様には申し訳ない」


 そいつはリング中央まで来ると今度はマイクを通さず肉声で叫んだ。……この声?

それまで何事かと固唾を飲んでいた観客もこの言葉をキッカケに騒ぎ出す。


「何なんだお前は!」

「引っ込んでろ、マスクヤロー」


 ブーイングの嵐の中、マサミチもそいつに近付き文句を言う。


「お前、何の権限が合ってここに居るんだ。ここはお前みたいな奴が立って良い場所じゃねぇんだよ、失せろ」


 観客からマサミチに拍手と賞賛が贈られる、しかしそいつは全く怖じ気づく事も無いようだ。フルフェイスで表情は読めないが立っている姿がそれを醸し出している。


「ならば君がここから追い出してみれば良いだろう、猟犬(ハウンドドッグ)とは吠えるだけで噛み付く度胸はないのかね?」


 次の瞬間マサミチは右の回し蹴り。速い、やはりテコンドーの蹴りは他の蹴りとは訳が違う。ノーモーションから最短距離を一気に走る……蹴りに重点を置いた格闘技は伊達じゃない。

しかしマントの奴はその蹴りを受け流しながら自分も反転し、カウンター気味に後ろ回し蹴り。マサミチの後頭部の辺りにヒットした。

 その一発で膝から崩れ落ちるマサミチ……あのマサミチが一撃で?しかもあれは空手?

まさかアイツは……

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