猫の質疑応答
「じゃんけんぽん、あいこでしょ」
「よし、ここは行かせて貰いますよ先輩」
サトシとシンゴが次の出番を奪い合いジャンケンをしていた様だ。
「ち、デビュー戦から出番無しとはシマらねぇな」
シンゴが不満そうに舌打ちをする。しかしジャンケンに勝ったサトシはもっと肩透かしを喰らったみたいだ。
リングの上にはヨウイチを担ぐ様に相手のチームメンバーが集合していた、その中の一人がサトシの前に出て喋り出す。
「お前等は四人って事はこの後二回勝ったとしても最後にヨウイチさんを倒したナオってのが出てきたら勝ち目は無い……うちらの敗けだよ」
そう言うとサトシに向かって玉を投げつける。
サトシがコロコロと転がる玉を拾うとシャドウドラゴンの奴等はヨウイチを連れてリングを降りて去っていく。
「えー……どうやらシャドウドラゴンの方々はリーダーのヨウイチ選手を討たれた事により戦意喪失した模様です。この試合チーム猫の勝利です!」
ミッキーの勝利宣言を聞き歓声があがる。
「何だか俺には勝てるけどナオ先輩にはどうせ勝てないから棄権すると聞こえたんですが……」
「うん、事実そう言ってたね」
ユイがにこやかにサトシに言う。
「っのヤロウ、ちゃんと勝負しやがれ」
サトシがまた向かって行きそうになるのをシンゴが止める。
「ま、良いだろ。今日はまだメインイベントが残ってる」
シンゴが目線をミッキーに送る、当のミッキーは逃げる素振りも見せずマイクで終わりの挨拶をしている。
サトシもそれを見てしぶしぶながら頷く。
「まずは僕が正面から向かいましょう、みなさんは逃げられないように四方から近寄ってください」
ユイの提案に皆無言で頷き四方に散った。ミッキーてのがジャッジメントとどんな関係なのかは解らないが多少なりとも情報は入るはず、カズの居場所が知れれば良いが……
帰り始めている観客に紛れ、俺とシンゴとサトシが後方と左右を取り囲む。それを確認するとユイがミッキーに近寄り話しかけた。
「こんばんは、少し話たい事が有るのですが構いませんか?」
「え?はいはい、何でしょう……ってユイ選手!今日は素晴らしい試合をありがとうございます。話ですよね、何なりと!」
ユイの手を両手で握り締め興奮した様子で返してくるミッキー。慌てふためいて逃げ出すか、もしくはこんな感じでもジャッジメントの一員ならかなりの使い手かと警戒していたのだが……
「えっと……ミッキーさん、貴方はジャッジメントの人なのですか?カズさんの居所を知っているのなら教えて頂きたい」
想像よりもずっと軽いノリで返されたユイは面食らうも冷静を取り戻し質問を投げかける。俺たちも逃げる様子は無いと判断しミッキーに近付いた。
「ジャッジメントってあの都市伝説の?カズさんの居所って路地裏猫のカズさんの事ッスか?……ちょっとここじゃ何なんで少し着いて来て貰っても良いッスかね」
俺達はミッキーに促されるままホテルの廃墟の一室に案内された。廃墟ではあるが壁も穴だらけの上に簡易ランプも備え付けてあり明るさは問題ない。
隣からは話し声も聞こえ、さっきまでここで観戦していた観客もまだ帰っていないようである。慣れれれば居心地が良いのかも知れない。ちょっと怖いけど。
「ここにマイクとかアンプとか置いてるんスよ。誰も盗む奴は居ないと思うッスけどね、野ざらしにしとく訳にもいかないもんで。……汚いところですけど少しは落ち着いて話せると思うッス、それで一体オイラに何の話が?」
逃げるどころか住処に案内されてしまった。完全に毒気を抜かれてしまい一瞬何の話をするのかも忘れてしまった。
「じゃあ単刀直入に言う。俺達は昨日の試合を見に来てたんだ。その時お前は俺達ですら知らない今日の試合を言い当てた。どこの誰にそれを聞いたんだ?お前は何者だ?」
シンゴがポケットに手を突っ込んだまま間合いを詰める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいッス。シンゴさん、そんな怖い顔で近付いてこないで下さいよ。知ってる事は全部お話しますから」
両手を前に突き出しへっぴり腰でシンゴを宥めようとするミッキー。
「えっとまずは何者と言われましても、普通の高校生ッス。M高の一年ッス」
タケシ達の後輩かよ。
「そもそもオイラは只のSSSゲームのファンでして、趣味で実況中継みたいな事をやらせて貰ってて。そんな事をしていたらある時家に手紙が届いたんス。中を見ると次の対戦カードの内容がかかれてました。簡単な選手のプロフィールも添えられて」
つまりコイツは何も知らない。そんでジャッジメントに良い様に使われているだけだと。
「どう思います?」
サトシが考え込むようにミッキーを見つめながら聞いて来た。
「嘘は言ってなさそうですが、例え嘘だったとしてもそれを見破るだけの情報もありませんね」
ユイが呟く、同意見だな。コイツが嘘を吐くタイプには見えないし、嘘だったとしても問い詰めるだけのネタも無い。
「ならもう一つ聞かせてくれ、このゲームは町全体を使ったサバイバルゲームだ。何でこの場所で戦うのが当たり前になってるんだ?」
シンゴが口を開く、シンゴもミッキーが嘘を吐いてるとは思ってなさそうだな。表情も柔らかくなってる。
「それは去年からあったビーフの戦い方でいくつかの場所があったんですが、簡易とは言えここにリングが作られたせいでビーフの戦う場所はここって暗黙の了解になってしまったんですよ。今はチキンで戦うとブーイングの嵐ッスよ」
「作られたって一体誰にだよ。戦いを斡旋するような悪趣味な事しやがって」
俺は思わず悪態を吐くとあっけらかんとミッキーが教えてくれた。
「え?知らなかったんですか?ミスターエックス選手ですよ」
身内かよ。何だか三人から冷ややかな目で見られている。別に俺のせいじゃないだろう。
「んんっ、そうか、急に色々と聞いて悪かったな。ジャッジメントと関係が無いなら良いんだ。今日の事は忘れてくれ」
居心地が悪くなった俺は咳払いをしてこの場を収めようとしたがミッキーが逆に喰い付いて来る。
「いえ、そんなのは全然いいッスよ、それよりも最初カズさんの居場所とか言ってましたよね?路地裏猫のカズさんの事ですよね。あの人行方不明にでもなっちゃったんですか?」
俺達は顔を見合わせる。聞くだけ聞いてこっちは何も話さないのも感じ悪いし……と言う事で去年の話を聞かせる事にした。
………
………
………
「なるほど、それでカズさんはそのまま行方不明に。それで皆さんはカズさんの居所を掴むためにそんな目に合ったのにまたこのゲームに参加したわけッスか……超燃えるッスね。そしてタケシ選手やエックス選手も同じ気持ちってわけッスか」
ミッキーは俺達の話を聞き感心し、感動しながら聞いていた。SSSゲームのファンってのも本当みたいだな。中学の時に既にゲームの観戦にきていたらしい。
「しかし改めて聞くとジャッジメントってとんでもないですね、ナオ先輩達が全員まとめて簡単にやられちゃってるんですもんね」
ユイがさらりと傷口をえぐる。
「なぁミッキー。ゲームのファンってのは理解したがもう関わらない方が良いんじゃないか?その対戦表を送ってきている奴は確実にジャッジメントに間違いないんだし」
ミッキーはそう言うサトシに向かって手を広げ制した。
「オイラは残念ながら身体が弱くて格闘技の道は断念せざるは得ませんでした。ですが気持ちは一人前の男のつもりッス。そいつらがオイラになんかしてきたとしても笑ってやられてやりますよ」
ニカッといい笑顔で返すミッキー、てかやられるんかい。
「まぁ別にあいつらがミッキーを利用してるんだとしたら変な事される理由は無いしな。大丈夫だろう」
無責任に言い放つシンゴだが言われて見ればその通りか。
「長話しちまったな、そろそろ帰るとするか」
何時の間にか人の気配は消え、廃墟はシーンと静まり返っていた。その静寂にみんなちょっと恐怖を感じたのかそそくさとその場を去ったのだった。