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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
70/113

猫とヨソ者

 次の日の深夜、俺達は遂に試合会場のリングに足を踏み入れた。


「皆様、お待たせ致しました。今宵の出場チームは猫対シャドウドラゴン……そしてその猫を率いるのは、まさかと言うべきかやはりと言うべきか路地裏猫(アレーキャット)のリーダー、ナオ選手その人であります」


 ミッキーの紹介に湧く会場。正直ちょっと照れる。


「偶然対戦相手を言い当てた訳じゃありませんもんね。やはりあのミッキーはこのゲームの何らかしらの情報を持っているはずですね」


 ユイが実況席を見ながら呟く。


「そうみたいだな。ま、今日も堂々とここに居るって事は逃げるつもりは無さそうだ。まずは目の前の対戦相手をどうにかするか」


 シンゴの提案にユイとサトシが神妙に頷く。


「チームシャドウドラゴンの方々は……どうやらまた他県からの参戦のようですね。手元の資料にも情報は御座いません、あのナオ選手相手にどんな戦いぶりを見せるのか期待させて頂きましょう。では各チームリーダーのルール提示をお願いします」


 ミッキーがシャドウドラゴンの紹介を終えると一人の男が前に出てきた。リングを照らすライトの逆光で顔は解らないがそこそこいいガタイしてやがる。前に出てきたって事はこいつがチームリーダーか。

それを確認すると俺の背中をシンゴがパンと押した、行ってこいという事か。

 俺がそいつとに近付こうとするとミッキーの実況が続く。


「しかし残念なのはメンバー登録にはナオ選手の他にカズ、ユイ、サトシ、シンゴ選手となっているのですがカズ選手の姿が見えません、病欠でしょうか?」


 ミッキーの実況に会場が騒つく、カズが居ないのがそんなに不満かよ。

名前だけ書いといたのは失敗だったかな……

そう思ったがどうやら騒ついた原因は別の所に有ったようだ。


「ユイってあのS中のユイか」

「間違いない、木刀持ってやがる」


 そんな声が聞こえ、あいつも有名だったんだな。頼もしいじゃないかと思った次の瞬間、会場がブーイングに飲まれた。


「テメェいつぞやはよくもやってくれたな」

「無事帰れるとおもうんじゃねぇぞ!」

「タバコがなんだとか因縁つけて、いきなり木刀で襲ってきやがったのは忘れてねえぞ」

「ボコボコにやられちまえ、クソ野郎!」


 あぁ、悪名で名が売れてるのか。

 さっきまでの歓声が嘘のように会場中を敵に回してしまった……

するとユイが俺の肩に手を置き前に出た。


「貴様等がどこの誰かは知らんが僕は自分に非のある生き方をした覚えはない。文句があるなら今からでもここに降りてこい、相手をしてやる」


 しばしの沈黙の後更に大ブーイング。


「このクソガキ上等だ!」

「俺が相手してやらぁ!」


 あーあ……こりゃもう収まらんな。どうすんだよ。


「皆様落ち着いて下さい!物を投げないで下さい!リングにはお近付きにならない様にお願い致します!」


 ミッキーが必死に場を収めようとするが暴動寸前の観客は収まる様子を見せない。

すると対戦相手のリーダーがよく通る声でその場を鎮めた。


「おい、少し黙れ。お前等がこのガキにどんな感情を持ってるのかは良く解った。だがな、こいつは俺達と喧嘩しに来てんだよ。吠えるだけで噛み付く度胸のない奴らは黙って見てろ……心配しなくともお前等の代わりにグチャグチャにしてやるからよ」


 観客から拍手と賛辞の言葉がそいつに贈られる。


「頼むぜ、ヨソ者の兄ちゃん」

「半殺しにしてやってくれー」


 こいつ大した奴だな、アッと言う間に観客の心を掴んで味方にしちまいやがった。

相手がヨソ者なのに、何だこのアウェイ感。

 この男の言い知れぬカリスマ性に戸惑いつつも俺はそいつとの間合いを詰める。

そして俺はそいつの顔を見て更に困惑した。


「お前……イクオ?どうしてこんな所に」


 神童イクオ……エックスの憧れの人にして、強く優しく正に少年漫画の主人公の様な男だ。


「お、知ってるのか。さっきの実況を聞くとお前もなかなかの有名人らしいな。……お前四天王って知ってるか?」


 言ってる事が支離滅裂だ、記憶喪失にでもなったのか?


「俺の事忘れたのか?一度やり合った事も有るだろ。ナオだよ、お前と同じ四天王って呼ばれてた……」


 すると目の前のイクオがクックックと笑い出した。


「なるほどな、俺をイクオと呼んで俺を四天王と言うって事はやはりあいつが四天王のイクオか。更にお前も四天王の一人か。大収穫だぜ」


 もう我慢出来ないと言った感じで腹を抱えて笑い出すイクオ。


「ああ、悪い悪い。意味わかんねぇよな。俺はヨウイチ、イクオの双子の兄だ。ちっとばかし家が嫌になってな……中学の時に家を出たんだ。そんで久しぶりに帰ってみたらあいつが神童とか呼ばれてるとはな」


 こいつがイクオの双子の兄貴?確かに顔はソックリだが雰囲気が違いすぎる。


「名前を聞いてまさかとは思ってたんだが、本当にあのイクオが神童か。そんでお前が鬼殺しのナオか……今四天王狩りしててな、帝王とやらはもう潰したんだよ。お前で二人目、終わったらイクオに会いに行って三人目。あと一人鬼のトシキってのでコンプリートだな」


 今何て言った?俺を潰すつもりなのは解る、そんで自分の双子の弟をもターゲットにしてる異常差も理解したが帝王を潰した?

 あのワタルをやったのか、こいつが。


「お前帝王をやったって?」

「ああ、中々頑丈な奴だったな。アレと肩を並べるお前も楽しませてくれるんだろうな」


 またクックックと含み笑いを漏らすヨウイチ。改めて見るとイクオとは違う。


「本当は一番にお前とやりたいんだが、この会場の雰囲気でアッチのガキが出ないと暴動でも起きかねないからな。タイマン勝負だ。二番目に出て来いよ」


 ヨウイチはそう言うと俺の胸を指でトントンと押し背を向けて自陣に帰って行った。

それを見届け、俺もみんなの元に戻った。


「あいつ口だけじゃ無さそうだな、あの手の輩は勝ち抜きで全員自分でやるって言いそうだがワタルと同じ四天王だからか体力を温存してナオと戦うつもりだな」


 シンゴがヨウイチを睨み付けた。


「ですね、少なくともワタルという人の実力を知りそれと同じ肩書きを持つナオ先輩を過小評価してないように見えます」


 サトシもそれに同意した。


「勝ったにせよ負けたにせよ、その帝王とやり合ったのは嘘では無いって事ですね。まぁ良いです、兎に角最初は僕が出て彼等の実力を見ましょう。手下を見ればその上に立つ人の実力も解るもんです」


 そう言うとユイは木刀を包む布の紐を解き、その刀身を露わにした。

その木刀をくるりと反転させ逆手に持ち替えリングの中央に歩を進めた。

既に相手はリングインしている。ユイはそいつとの間合いギリギリで歩を止め正眼の構えを取った。


「木刀ね、それじゃあ俺も獲物を使わせて貰おうかな」


 背後から長い鉄パイプを取り出し肩に担ぐ感じで構えた。


「どうやら試合のルールは一対一のポイント制となった様です。では、猫対竜の一回戦第一試合開始して下さい!」


 ミッキーの掛け声と共に相手が鉄パイプを振り下ろし薙ぎ払い、縦横と反撃の隙も無いほどの猛攻を繰り出した。

ユイはそれを半歩づつ下がりながら冷静に木刀で受ける。

ギィンギィンと木と鉄が弾く音が響き、ユイに対しての会場のブーイングも聞こえる。


「さっきまでヘラヘラしてた奴が試合が始まると同時に別人の顔になりましたよ」


 息もつかせぬ程の攻撃に防戦一方のユイだがサトシは一切焦る様子もみせずに言った。

見るとヨウイチは確かにユイの一挙手一投足を見逃さないかの様に見入っている。


「テメェいつまで縮こまってやがるんだ、やる気あんのか?」


 防御し続けていたユイではなく相手の方が肩で息をしている。

そんなもんだ、防御よりも攻撃の方が体力を使う。考えも無しに闇雲に鉄パイプを振り回していたらガス欠も早い。


「貴方はその程度の人ですか。どうやら見込み違いだった様ですね」


 そう言うとユイは下から斬り上げ鉄パイプを弾き飛ばし、返す刀で肩口に斬りつけた。

言葉も発さず首の辺りを押さえ蹲る男。

ブーイングを飛ばしていた観客も余りのレベルの違いに黙ってしまった。


「先刻言った通りだが、僕は自分に非のある生き方をした覚えは無い。文句が有るなら闇討ちでも果たし状でも好きな様に挑んで来い。いつでも相手してやる」


 ユイは会場にそう言い放ち俺達の所に戻って来た。

間違っては無いんだろうが何でそんな言い方するかな……これ以上敵を増やしてどうすんだか。


「クックック、お前良いな。俺も是非とも立ち会ってみたいもんだぜ。だが今日は先客があるんでな。次会える時を楽しみにしてろよ」


 静まり返った観客を余所に、ヨウイチが前に出ながら喋りだした。


「随分と余裕ですね。僕としても貴方の様な輩を相手にするのは望むところですが、貴方の次の相手は僕の憧れた人が友と呼び仲間と呼んだ人です。更にその次の事を考える余裕は無い筈ですよ」


 ユイはそう言うと踵を返し俺達の元に帰って来た。


「へぇ、鬼殺しだけじゃなくそいつの仲間か。四天王だけじゃなく他にも面白そうな奴がいるんだな。まぁいいや。まずはお前だよ、とっとと始めようぜ」


 ヨウイチは指でコイコイと俺を呼んだ。何だかどんどんハードルが上がってないか?

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