百万じゃ安い
カズの家に着くとタケシとヒロシ、そして見知らぬ男が一人、計三人がコタツでくつろいでいた。
「ただいま、シンゴの見舞いとナオの迎え行って来たよ」
カズはそう言いながらコタツに入る
俺も初対面の男に軽く頭を下げ「どうも」と一言言いながらコタツに座ると、彼もその挨拶に対してにこやかな笑顔でどうもと返してきた。
うん、普通に好青年だ。人柄も良さそうだし優しそうな……しかし、どうにも頼りになりそうな雰囲気では無い。これから何をするのか本当に解っていてこの笑顔ならば、それはそれで只者では無いのかもしれないが。
「んじゃ改めてユタカ、こいつが話ししてたナオだよ。んでナオ、彼がタケシの連れて来たユタカだ」
カズが手をお互いに向けて紹介してくれる、さっきやった軽い会釈をもう一度する。何となく気まずい……
「ま、最初はぎくしゃくするだろうけどそのうち気安い仲になるだろ。今日は顔合わせ程度で十分さ」
妙な空気を察したのかタケシが場を変えた。
「そうだな、仲良くなるのはこの後いくらでもなれる。早速登録しちゃっていいかな?」
それぞれが頷く中、ユタカが遠慮がちに言う
「あの、俺はその場に居るだけで良いとタケシに言われて来ただけなんだけど本当に良いのかな?」
「ああ、大丈夫大丈夫。な?」
タケシが俺とカズに「任せろ」とでも言わんばかりに目で合図を送ってくる、その目配せに気が付いたカズが
「うん、その辺はタケシに任せてあるから安心して良いよ」
「それを聞いて安心したよ、じゃあ頭数だけの手伝いになるけど宜しく」
ユタカの返答を聞き、カズがタケシにこれでいいのか?と目で送っている
タケシは満足そうに頷いた、こいつ等のアイコンタクトの精度は感心したが、これでは戦力に数える事は出来そうも無いな
「あ、登録前に僕もちょっと確認しておきたい事があります」
ずっとボーっと話を聞くだけのヒロシが会話に参加してきた
「ん?なに?」
「最初ナオさん達三人はバットで襲われたと聞きました、つまり武器の使用も有りなんですよね?」
「うん、そういうことだな。武器の使用どころか何でも有りってくらいだ」
カズが答える
「そうなると拳銃や日本刀持ってこられる場合もあるんじゃないでしょうか?幾らなんでもそんなのに勝てる気全く無いですよ」
「それじゃ試合に勝っても警察に捕まるだろ、まぁバットも十分犯罪だけどさ」
タケシがごもっともな意見を述べた、そしてカズもそれに続けて言った
「そうだな、その質問のついでにオレが調べた情報から推測される事も話しておくよ」
みんなの視線がカズに集まる。
「また、ただの推測だし大した情報でも無いんだけどな。まず大前提として百万じゃ安いって事だ」
???
「安い事は無いだろ?実際その大金の為に体張ってるんだから」
俺はカズの言ってる意図がさっぱり解らず反論した
「勿論オレ達みたいな高校生からしたら大金だ、だけどな、この町に住んでない余所者にしたら百万は安すぎるんだ」
???
カズの言ってる意味がまだ解らない、いくらこの辺が田舎だと言っても都会と物価が変わるほどの田舎じゃないぞ。
「このSSSゲームはつい二、三年前から始まったらしいのだが、その開催日は冬の間だけらしい。特に観光名所も何も無いただの田舎町にはホテルなんて洒落たものも当然無い」
「なるほど、余所者がこのゲームに参加するのはリスクが高すぎるんですね。この地方で野宿なんてして雪でも降ったら物の例えではなく命に関わりますしね」
ヒロシの答えにさらにカズが付け足した
「大げさに言うと五百万なら、それこそプロの格闘家とか軍人とか来てもおかしくないけど、一人二十万の為に五人で真冬のキャンプはしないだろう」
「へ~、不親切なホームページでその部分だけは助かったな」
俺は率直な意見を述べた、それに対してカズは何か思う所があるのか腑に落ちない顔つきで答える
「う~ん……そうなのかな」
そして今度はタケシが
「つまり対戦相手は顔見知りって事か」
「絶対にそうとは言えないけど、その可能性は高いだろうな」
俺はゾッとした。この町は田舎でそんなに人口も多いわけではない。
勿論コンビニもあるし学校は一クラスしかないとかそこまでの度を越えた田舎ではないが、それでも町の人はどの人も一度は見たことがある程度の人達である。
その中にこの前のかぐや姫の連中やこれから戦うであろう人間が混ざっているのだ、改めて考えると恐ろしいゲームである
「よし、そんな訳で今度こそ登録するぞ、心の準備はいいな?」
俺以外の三人が頷く
「チーム名猫、メンバーはナオ、カズ、ヒロ、タケ、ユタ……と送信」
無事送信したようだ
「登録してからどれくらいで試合が決まるんだ?」
タケシがコタツに潜りながら聞いてきた
「前の時は登録した次の日に俺の家に小包が届いてその中に明日が試合ですってメモがあったな」
俺が答えるとヒロシが
「てことは早ければ明後日ですか、何だか緊張してきましたよ」
今度はユタカが「時間は?」と聞いてきた
「確か一回戦が十二時で二回戦が夜中の二時だったっけ?」
「ええ?そんな真夜中なんですか?困りますよ!?」
みんながヒロシを見つめる
「次の日学校遅刻しちゃうじゃないですか」
「…………」
ユタカとタケシの話によると、ヒロシは皆勤賞を狙っているらしい
そして次の日、運命の小包が届いた