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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
66/113

猫の八百長

 エックスはリング中央まで歩を進めると、そこで腰を引き左手を下に右手を頭の上の辺りに置き構えを取った。

組んで来いという合図なのだろうが、対してダイスケは両手で顔をガードする打撃系格闘技の基本的な構えだ。

当然組みに行くような愚策は行わない、前に出ている手を目掛けて蹴りを放つ。

 威嚇のつもりだろうか、放ったダイスケも当たるとは思っておらず軽いジャブ程度の速いだけの蹴りだ。

エックスも軽く手を引いてそれを避ける。


「なかなかの蹴りを出すがまだまだだな。同じ空手でもお前よりも軽い体重(ウェイト)でお前よりも重い蹴りを出す奴を知っているぞ」

「とことん舐めやがって……」


 余裕を見せ付けるエックスに激昂し上段蹴りからの後ろ回し蹴りを繰り出すダイスケ。

エックスの言う通りなかなかだ、バランスも悪くないし蹴りの後のフォローパンチもちゃんと出している。

その動きだけで単に運動神経の良い奴が蹴りを使っているのではなく、しっかりとした所で空手を学んだというのが伺える。

 その連撃を避けエックスも構えを変えた。組んで来いの構えでは無くダイスケと同じ様な打撃系の構えだ。

それまで避けるだけだったエックスが構えを変えた瞬間に戦い方も変えたようだ。

ダイスケが右の上段蹴りを放つとそれを上段受けでしっかりと受け止める。と、同時に左の下段蹴りを放ち軸足を蹴り飛ばす。

片足で立っていたダイスケはガクッと膝を付いた。

 ダメージは然程では無いだろうが完全に蹴りに合わせられた、今の一連で打撃戦でもエックスが格上と認識するには十分だ。


「くっそ!」


 立ち上がり同時に拳で顎を狙う、座った状態から立ち上がりアッパーカット。

当たれば大打撃だがそんな大振り当たるものでも無い。

エックスはその腕を掴んで自分の方に引き寄せた。そしてその勢いでラリアート。

ダイスケはダウンし後頭部を打ち付けた様だ。ラリアートを喰らった喉の辺りでは無く後頭部を抑え転がり回っている。


「いつもそいつとは寸止組手(マススパーリング)をしていてな、素早くトリッキーな蹴りには慣れているのだよ」

「俺より速い蹴りだと……どこのどいつだよ!」


 四つん這いになりながら後方にいるエックスの鳩尾辺りを狙って蹴りを放つダイスケ。

エックスはその足首を掴んで受け止め、足を捻るようにし、仰向けにさせた。

ダイスケの股の間をドンと右足で踏み付けクルリと回転する。

 そして足を絡め自分も仰向けになる、いつの間にかダイスケの足は数字の四の形に固められていた。

プロレスに疎い俺でも解る。足四の字固めだ。


「生憎とそいつは行方不明でな、私も居場所を探してる最中だ!」

「うああぁぁ」


 エックスが足を絡めたまま腹筋をする要領で起き上がり勢い良くマットに倒れ込む、その振動の度にダイスケは悲鳴を漏らす。

 もうあれは逃げられない、勝負は決まったと思った時にダイスケのチームメイトの最後の一人が飛び出し、エックスに蹴りを見舞った。

流石エックス。不意の攻撃にも関わらず十字受けでしっかりとガードし、固めていた足を離し転がって間合いを空けた。


「何しやがるんだ、これは俺の喧嘩だぞ!」


 助けて貰ったダイスケが食ってかかる勢いで味方に怒鳴り散らす。だがそいつは一切怯む様子も見せない。

 対してエックス側の味方はさっきの乱入とは打って変わって全く助けに行く素振りを見せない、リングの外で声を出し煽っているだけだ。


「ダイスケさん、もう今回でこのゲーム四回目なんですよ。三回戦まで進んではこいつらに止められ続け……これ以上時間掛けたらあの人が黙って無いですよ。こんなふざけた奴にタイマンなんて必要ないです、最悪このマスクだけでも潰しましょう」


 エックスを真ん中に挟んで、ダイスケを助けた男が必死に説得した。

エックスはどちらから仕掛けられても良い様に背後を警戒しつつ間合いを計っている。


「……そうだな、どの道これ以上時間掛ける訳にはいかないんだ。とっとと賞金を頂く為にはタイマンに拘ってばかりもいられないな」


 眼の色を変えたダイスケが自分の間合いのギリギリの位置から蹴りを繰り出す、ダイスケの味方も前に気を取られた瞬間を見計らい攻撃を仕掛ける。

やり方は汚いが非常に上手い。間合いギリギリから仕掛ける事で反撃するには一歩踏み込まなければならない。

そして完全に前後を挟んでいるので一方に集中する訳にも行かない、多対一の戦いに慣れてやがる。

 しかしこの状況でもシノ達は動かない、観客からはブーイングとシノ達を煽る声が響くがそれでもリングに入らず声だけの援護しかしないでいる。

なす術もなく徐々に体力を奪われていくエックス、足元がふらついたのを好機と見たかダイスケが叫ぶ。


「動くなよ!」


 ダイスケはダッシュで間合いを詰めて来たがエックスを素通りし、味方の膝の辺りに蹴りを当て、その反動で肩まで駆け上がる。

その場からバク宙をし、オーバーヘッドキックの要領でエックスを襲う。

エックスが振り返った時にはダイスケは頭上にいた。しかしそれをもエックスは身を半歩引いて避ける、最早見えてもいなかった筈だ。

 本能か、このゲームで戦い続けた経験が活きたのか完全に死角からの攻撃を避けたのだ。

エックスは避けた瞬間に地面に着地する前のダイスケの腰を空中でキャッチし、その勢いで自分の後方に投げつけた。

 ズン……と重い音が響き辺りが静まり返る。


「決まったー、ジャーマンスープレックスだ!」


 沈黙を破ったのはミッキーの興奮した声だった、その声を聞きエックスは掴んでいた腰を離す。ゴロンと何も言わず転がるダイスケ。


「だ、ダイスケさん!」


 仲間が何も言わず転がっているダイスケに駆け寄るが意識を失っている様で全く動かない。


「さぁ、勝負あったようだな。石を渡して貰おうか」


 ダイスケに駆け寄った男に腕組みをしたまま見下ろし言い放った。

仲間が全員やられ、万に一も勝ち目がない事を悟ったのか目線を落とし素直に石を渡しダイスケを担ぎリングの外に降りていった。

 代わりにリングインしたシノ達三人、エックスを含めた四人で手を繋いで四方の観客に手を挙げて応えている。


「おめでとうございます。チーム折れぬ魂の皆様、圧勝でしたね。今まで三回に渡り引き分けていた相手にこれだけ圧勝ですと最近巷で噂になっている八百長が真実味を帯びてしまいそうですが……その辺はどうお考えでしょうか」


 実況席からリングに上がりマイクを向けるミッキー。八百長の噂なんかあるのか、だが今の戦いを見せられたら当然の疑問だな。どう控え目に見ても今の相手と三回も引き分けるのは不自然だ。


「先輩はどう見ます?」


 不意に隣のユイが話し掛けてきた。


「わざと引き分ける理由は分からんけど、確実に何か企んでるな」


 目線をリングに向けたままユイの質問に答えるとユイも「ですよね」と返した。


「む、そうだな……八百長かどうかはここに居る一人一人が判断してくれれば良い。君達の心は熱くなったか?偽物の戦いで君達は燃え上がる事が出来るのか!」


 おおおおぉぉぉーと、湧く観客。


「確かに。有り難う御座います。そう言えば過去の三戦とも三回戦での引き分けでしたね、今回の戦いの内容が前のものであれば四回戦進出でしたのに。とても惜しく思います」

「だが勝負は時の運とも言うからな。こればかりは仕方あるまい……では、皆さんご唱和ください。んー……エーックス!」


 リングの中央で両拳をクロスし頭上に掲げた。そのポーズに合わせて観客達は飛び跳ねながら同じ様にエックスのポーズ。


「では皆様、本日の試合はこれにて終了です。最後に今日のゲームを盛り上げてくれた両チームの選手達に熱い拍手を宜しくお願い致します」


 ミッキーの声に呼応して割れんばかりの拍手が辺りを支配する。

いくら周りに民家が無くても騒ぎ過ぎじゃ無いだろうか……

 しかし、かく言う俺も自然と拍手をしていた、何だろう、この完成したショーを観た後のような充実感は。


「明日はチームタケシと愉快な仲間達対チーム朱雀の対戦になります、どちらも初参戦のチームのようです。どうか皆様帰り道はお気を付けてお帰り下さい」


 タケシと愉快な仲間達か……ダサい名前付けたな、アイツ等。明日も眠く無けりゃこようかな。


「さて、帰るとするかな」


 俺がポツリと呟くと神妙な趣きのユイが話し掛けて来た。


「あの……先輩。僕達とチームを組んでくれませんか?」

「え?」


 まだ収まらぬ拍手の中、ユイの驚きの提案が俺を呼び止めた。

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