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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
65/113

猫の後輩

 夜中の十二時、場所はホテルの廃墟。

それだけ聞くと一人で行くのも躊躇う程のホラーな雰囲気だが、いざ辿り着くとそのイメージは一変した。

軽トラの後ろを改造した様な屋台ではラーメンの匂いが漂い、仮設テントからはビールや飲み物が売られ賑わっている。

もう営業していないとは思えない程ライトアップされたホテル内部には何人もの人影が下を見下ろしている影が見え、その見下ろす先にはホテルの駐車場の真ん中にリングの様に四角く設置されたマットが敷いてある。


「マジかよ……」


 俺は余りの想定外の光景に口を開けたまま棒立ちしてしまった。


「あ、ごめんなさーい」


 後ろから誰かにぶつかられ、振り返るとそこにはコーラとポップコーンを持った二人組の女子高生。

俺はその顔のまま軽く会釈して道を譲った。

なーにあの人変な顔しちゃってとか聞こえてきたが断じて俺の事では無いと思い込みながら歩を進める。


 数歩歩くと中央の丁度良い所を見渡せる場所にパイプ椅子があったので、そこに腰を下ろし一息付いた。


………

………


 いやいやいや、まさかこんな所で喧嘩するのか?観客どころか出店まで出てるじゃねーか。

祭りか?!

しかもあんな女の子まで見に来れる内容じゃ無いだろう、この一年で何があったんだよ。


「さぁ、今宵もお集まり頂きました皆様。燃え上がる準備は出来てますか?いよいよ開戦の時間です。 今夜も皆様の心の声をお届けするのはミキオことミッキーが務めさせて頂きます!」


 混乱する俺を更に追い討ちを掛けるかの様に夜の廃墟にマイクの声が響き渡る。

実況中継?ホントかよ……


「おおおおぉぉぉー」


 そのミッキーとやらの声に呼応して周りの観客も盛り上がる。

いつの間にか隣や後ろのパイプ椅子にも人が座り、俺は知らない人間に囲まれていた。


「では、選手入場です。……今日も私達は伝説を見る。去年の覇者、路地裏猫(アレーキャット)最強の男が率いるチーム折れぬ魂の入場だー」

「わぁぁぁぁー」


 マイクでの紹介が終わると凄まじい歓声と共に、ホテルの一角から見慣れたマスクの男が両手を挙げながら三人の男を連れ中央のリングに近付いていく。


「スターかアイツは……」


 歓声に応え、たまに観客と握手をしながらリングに到達するとそこでガウンを脱ぎ捨て腕組みをしながらホテルの方に目を向けた。

あぁ、ガウンの下はやっぱり上半身裸だ。相変わらずみたいだな。


「続いて入場するのは、何とこれまで折れぬ魂と三戦三引き分け。実力はほぼ互角と言われているダイスケ率いるチーム虎だー」


 ミッキーの紹介で廃墟から見慣れぬ男達がリングに近付く。

ガタイは悪くない、ムキムキに鍛え上げた筋肉ではなく必要な部分を必要なだけ鍛えた理想的な体格だ。


「さぁ、まずは両リーダーによるルール指定を行ってください。ミスターエックス選手、ダイスケ選手前へ」


 エックスとダイスケと呼ばれた男がリングの中央に立ち睨み合っている。


「今度と言う今度は決着付けさせて貰うっスよ、ルールは一対一(タイマン)の勝ち抜け戦でどうっスか?こっちもあんたらに合わせて四人で良い。もし二対二になれば代表戦だ」

「承知した」


 エックスは一言だけ返すと背中を見せて悠々と自陣に戻って行った。

何だあの王者の風格はよ……


「ルールが決まったようです、では一回戦第一試合、代表者前へどうぞ」


 エックスが自陣に下がり代わりに一人の男が出てきた、黒髪の爽やかな青少年。

喧嘩とは無縁な雰囲気の健全な人に見える。

対してダイスケが下がった方からも一人の男が前に出てきた、こちらはいかにもと言った雰囲気。

頭には捩り鉢巻きの様なものをして、茶髪でダルそうな服装だ。

体格的にはどちらも中肉中背。見た感じでは互いに徒手空拳、技術の勝負になるな。


「こんばんは、ナオ先輩も来てたんですね」


 今から始まるという時に横から声を掛けられた、見上げるとそこには布袋に包まれた木刀を携えた男が立っていた。

中学の時、カズの後輩で今年からうちの高校に入ってきたユイだ。

ユイは俺と目が合うと軽く会釈をし隣に座った。さっきまで知らぬ奴が座ってた気がするが……


「先輩は出場しないんですか?」


 試合が始まるマットの上に目を向けながらユイが話しかけてくる。


「出るつもりだったんだけどな、アイツも他の二人も別の奴と組んじまいやがって……冷たい奴らだよ」


 俺も目線はマットの上に向けたまま、エックスを指差しながら答えた。


「僕と同じだったんですね、僕もシノさん達に声を掛けたのですが違う人と組むからと断られてしまいまして」


 ユイが今マットの上で組み合った奴に目を向けながら呟いた。

シノって確か去年ユイと試合した時にエックスとやり合った奴だったな。

言われてみれば、シノは見当たらないがエックスの隣に居る二人は見覚えがある。身体はあの時より格段に成長した様だがリョウコちゃんが人質に取られた時の試合でユイのチームメイトだった奴等だ。

あの時は遠目でやられてる場面しか見てなかったが改めて見ると中々の面構えをしている。

ユイのチームメイトって事は高一なのだろうがとても年下には見えないな。


「シノさん、頑張って下さいね」


 ユイがリング上の男に声を掛けると片手を振って返してきた。

ん?シノ?あの爽やか青年が?


「なあ……シノって去年俺達と戦った奴だよな?あれがそうなのか?」

「ええ、そうですよ。確かに見違えましたね。高校に入ってからどんな鍛錬を積んだのでしょうか、良い身体に仕上がってますね」


 いや、そこじゃ無くて単純に見た目が別人過ぎるだろう。

去年はただのどチンピラだったのが、ここまで厚生するもんかね……格闘技に目覚めると人生観変わるって聞いた事あるけども。


「えと……エックスの今のチームメイトはユイの仲間だったんだよな?ちょっとどんな奴等か聞かせてくれるか?」

「ええ、お安い御用ですよ。今リングに上がってるシノさんは去年僕と組んでいた時は凶器を多様する喧嘩殺法が得意の人でした。ですが、高校に入ってファイトスタイルが一変してしまった様でして……」


 当のシノはまだ観客に両手を振り応えて居る。

すると背後を見せた隙を見計らって背中を思い切り蹴り飛ばされた。


「いつまでやってんだよ、もう喧嘩は始まってるだろうが」


 シノは背後から蹴りを喰らい、そのまま四つん這いになり、辛そうに頭を振っている。

頭部にはダメージ無いはずだが?

観客からはブーイング、汚ねえぞーと野次が飛ぶ。


「ああ?喧嘩の最中にケツ向けるのが悪いんだろうが」


 ドスの効いた声で観客を一喝し、辺りはシーンと静まり返る。

言い方はともかく正論だ、喧嘩の最中……しかもリングの上に上がってる状態で隙を見せるなどシノが甘すぎるんだ。


 四つん這いになっているシノの腹を二度三度と蹴り上げる。その度に苦痛の声を上げた。

しかしシノは四度目の蹴りを受け止めた。

 そしてしっかりと足首を掴んだまま仰向けになり、更に相手の膝の裏に打撃を加え押し倒し自分もまた相手を巻き込みつつうつ伏せになった。

相手は完全に片足をロックされた状態で全体重を掛けられ、潰れた蛙のような声を出した。

 すかさずシノはうつ伏せになっている相手の両膝の裏を踏み付け、背後から脇腹に一撃。怯んだ隙に足を器用に引っ掛け両手首を背後から引っ張り上げた。


「いだだだだだ」


 相手は悲鳴を上げるが見た目がそんなに緊張感が伺えない。え、なにあれ。痛いの?

痛がっている方が上にいるという珍しいタイプの関節技みたいだ。


「おお、これはロメロスペシャルだ!実戦でこれを使うとはシノ選手なんという技術か」


 ミッキーが技の説明をするが聞いても良く解らん。


「た、助けてくれ……いだだだだ」

「ギブか?」

「誰がそんな、うぐぐぐ」


 シノが身体を揺する度に相手が顔を歪める。見た目はともかく本当に痛いんだな、アレ。

するとここで相手のチームメイトが我慢仕切れず飛び出した。

 しかしそれも想定内と言わんばかりにこっちからも一人飛び出し、シノに攻撃を加える前にダッシュの勢いを使いながら膝を蹴り抜いた。

あれは洒落にならんな。互いにダッシュした勢いで正面から膝を蹴られたら普通は折れる……


「今出てきて蹴当てを放ったのがケースケと言います。彼はどこかの道場に入門した訳では無いのですが、独学でジークンドーを使います」


 堪らずもう一人も飛び出すが目の前の巨体に気圧されて動けなくなった。


「最後に出て来た大きいのがヒロキです。彼は中学の学生相撲の横綱でした」


 あいつが一番ヤバそうだな。あんなの後輩でも敬語使っちゃいそうだ。そもそも顔がオッさんじゃないか。

二メートル程の長身に加え横にもデカイ。

その巨体をググッと丸め相撲の仕切りの構えをする。異常な迫力だ、まるで牛が地面を蹴って今から突っ込む合図を送っているかのような……

 ヒロキが両拳をトンッと地面に付いたかと思うとその瞬間間合いを詰めていた。

ヒロキの迫力に身動き取れなかった相手だが、自分に巨大な何かが突っ込んで来た事によって身構えた。

 しかし折角身構えたにも関わらずヒロキの放った攻撃は仕切りからのローキック。

相手は蹴られたら勢いで横に回転し頭からマットに突っ込んだ。

 正面からぶちかましが来るとしか考えてなかったのかガラ空きの下段に攻撃を喰らい、なす術もなく意識を失ったようだ。


「あれは蹴りではなく相撲の足払いらしいです」

「マジか?刈る蹴りにはとてもみえなかったが」


 ユイが説明してくれたが納得はしていない、明らかに今の蹴りは打撃系格闘技のそれだ。


「ふむ、こうなってしまっては勝ち抜けという訳にもいかんな。どうかな、大将戦で決着を着けるというのは」


 自陣からゆっくりと前に出たエックスがダイスケに向かって話しかけた。


「舐めやがって。上等っスよ、やってやろうじゃないっスか!」


 圧倒的有利にも関わらず、敢えて大将戦を申し出たエックス。何考えてるんだ、コイツは。


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