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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
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猫の解散

 アイツが帰ってこないまま、また雪の降る季節に入り始めた。

学校の屋上で空を見上げていると頭上からちらほらと白いものが落ち、地面に落ちて消える。まだまだ積もりはしないだろうが本格的に冬の到来だ、そして冬の到来はあのゲームの始まる時期でもある。


「寒くなってきたと思ったらもう降ってきたか」


 背後から話しかけられる。振り返らなくても誰だか解る、シンゴの声だ。

俺は声の主を視界に捕らえないまま「ああ、そうだな」と頷く。


「出るんだよな?」


 シンゴは何の事とも言わずただそれだけを聞きながら俺の隣のフェンスにもたれかかった。

俺はまたシンゴを見ないまま「ああ」と頷く。


「俺はいつでも行けるぜ、準備しとくからあいつ等に声掛けるのは任せてもいいか?」


 そこで俺は初めてシンゴに目を向けて言葉を返す。


「それじゃちょっと行って来るか、あいつ等に会うのも久しぶりだな」


 んっと背伸びをし、俺は約一年程顔を合わせていない仲間の通う学校に歩を進め始めた。



 と、何か格好つけてここまで来たのにそれは無いだろう。


「悪い、連絡無かったから良いのかなって思っちゃってさ」


 俺の前でしきりに済まなそうに手をこすり合わせるタケシ。


「今四人だから後一人分だけなら空きあるけど、シンゴとでるんだろ?ナオだけ誘うのも悪いし……」

「はぁ、確かに仕方ないか。ずっと連絡も取ってなかったもんな」


 学校を出た後にタケシに電話をして何の用事かは伝えずに久しぶりに会おうとだけ話すとまだ学校に居ると言うのでその足でタケシ達の通うM高にやって来た。

そして今年もゲームに参加しないかと話を持ちかけたら、まさか断られるとは。


「でも四人て中途半端だな、ユタカとヒロシと……後は?」

「いや、実はユタカは俺達のチームじゃないんだ。アイツはプロレス部の後輩に良いのが入ったらしく、その後輩と組んでる。しかももう出場してるぞ」


 俺は言葉も失い口を開けたままの状態で固まってしまった。

俺達の中で一番大人しい奴が(通常時のみだが)まさか参加登録を済ませて最初に出場までしているとは。

しかも部だと?去年は同好会だった筈なのに部に昇進してやがるのか。

プロレスなんて部活として成り立ってるのかもわからん位の知名度なのに生意気な。


「なぁ、ナオ」

「ん?」


 急に真面目な顔になったタケシが俺を見つめた。


「今回出る目的は賞金じゃ無いんだろ?まぁあるに越した事は無いけどさ……前の賞金もこの一年でなんだかんだで使っちまったし」


 去年のゲームが終わり退院した後家に帰ると、確かに賞金は送られてきた。

約束通りに一人百万で計五百万円が。

俺達はカズの事も気掛かりではあったが、取り敢えず一人百万づつ分配しアイツが帰ってきたらその時にまた考えようと話し合ったのだ。


「今回は俺達に任せておけよ、カズの事はきっちり探してくるからよ」

「んー……」


 俺は返事はせずに曖昧な答え方をした。


「ゲームが一筋縄じゃいかないってのは充分理解してるだろうけど、今のSSSゲームは去年のとはまた別モノだぞ」

「なんだよ、俺じゃ怪我じゃ済まねぇよとでも言いたいのか?舐めて貰っちゃ困るな」

「いや、そう言うのとはちょっと違うんだけどな。……んじゃ一回観てきたらどうだ?丁度今夜の十二時からユタカが出るらしいぞ」

「観るったって……」


 俺が言葉を詰まらせるとそれを遮る様にタケシが言葉を被せてくる。


「言いたい事は解ってるよ、だけど百聞は一見にしかずだ。今日の夜あそこの廃ホテルに行ってみろよ」


 タケシが沈みかけた夕陽の方向を指差す。

因みにその廃ホテルとやらは目の前の民家が邪魔をして全く見えない。

でも、確か前火事になってそのまま潰れたラブホテルみたいなのが建っていたような記憶はある。

観に行くと言ってもなぁ、相手がそこに来るかも解らないのに……

俺が腑に落ちない感じで夕陽の方向を見つめて居るとタケシが話しかけてきた。


「最近この辺も栄えて来ただろ?」

「ん、そうだな」


 一年前は一軒しかなかった二十四時間営業のコンビニも数件増え、更にはネットカフェなるジュースが飲み放題の店まで開店し、貧相では有るが旅館の様な宿泊施設まで建ち始めた。

去年のは無かった新幹線がこの町から数個先の駅に通る様になりそれが原因だろう。


「高速道路も近くを通ったし、新幹線も通った。今回の敵はヨソ者も出るぞ。出場するなら気合い入れ直せよな、アイツ等相当無茶してくるぜ」


 夕陽の逆光を受けて影にしか見えないタケシが声を低くした。


「俺はまだシンゴと二人だけだしな、出れるかどうかも……人の心配より自分の事を考えろよ、四人で出るつもりなのか?」

「そうだな、一人増やして賞金アップも捨て難いが中途半端な奴連れて足手まといになられても面倒だしな」


 それもそうか、一人増えて戦力アップは助かるが適当な奴連れてピンチになって逃げる程度の人間じゃ安心して背中も預けられない。


「んで、残りの三人は誰だ?」


 おおよその見当は付くが一応聞いてみた。


「俺とヒロシとマサミっちゃんと、それからマサトシだ」


 あのマサミっちゃんと去年助けてくれた猟犬(ハウンドドッグ)のボクサーか。

よくもまあ、そんなヤンキー臭いのばかりを集めたもんだ。

ヒロシが苦労しそうだな……


「あの後マサミっちゃんも高校に戻って来てな。ま、もう一回一年やってるけど。それからマサトシもウチに入ってきたんだよ、アイツ去年やり合った時まだ中学生だったんだぜ。てっきり同学年(タメ)だと思ってた」


 ケラケラ笑いながらメンバー紹介をするタケシ。だが笑っちまうのも当然かもな、そのメンツならまず簡単にはやられないだろう。

かなり喧嘩慣れしている上に新メンバーの二人も情に厚い。それは去年自分の身も省みず助けてくれた実績がある程だ。


「それじゃ俺はシンゴに断られた事話さないとな、メンバーどうすっかな」


 俺は立ち上がり、尻に付いた砂をパンパンと払った。


「今回は俺達に任せておけって、カズは首根っこ捕まえてでも連れて来てやるさ」


 タケシの笑顔に釣られて俺も笑う。


「期待しとくよ、んじゃまたな」


 背面越しに手を振りタケシと別れた。

しかしどうしたもんか、タケシもヒロシも先に組んでてユタカまで。

他に腕の立つ知り合いは……頭の中に浮かんだのは到底仲間になってくれそうもない男達の顔が浮かんできた。

あの鬼や帝王なんかは目が合った瞬間襲いかかって来そうだしな。

俺って実は友達少ないのかな……取り敢えず今日のユタカの試合ってのを見てみるかな、他にする事も無いし。

あ、そうだ。ユタカが負けたら俺とシンゴをチームに入れて貰うって手もあるじゃないか。

アイツなら戦力的に申し分ないしな。よしよし、今日はそれを期待して観戦しよう。


 俺は久しぶりに再開するもう一人の仲間の敗けを想像しながら家路に着いた。


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