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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
59/113

アイツ等を助ける役目、譲ってやるもんか

 俺は何度も街で暴れているトシキの喧嘩を見たことがある。そして実際やり合うのもこれで二回目だ。

 冷静になった今の頭なら何となくだがトシキのやりそうな事が想像つく。

 まず、コイツは受けでは無く先に攻める。今まで見てきた中で先手を打たれたのを見たことがない。

 そして、その一発目の攻撃は利き腕では無く左のジャブだ。

 トシキは格闘技の経験は無い。喧嘩の場数と恵まれた体躯、そしてセンスのみでこれだけの強さを持っている。

 だが逆に幾ら強くても日々の鍛錬は実戦と筋トレぐらいのはず。

 格闘技の鍛錬をしているならば別だが、素人ならば切り込む手はあるかもしれない。

 俺はいつもの様に重心を後ろ足に掛け、受けの構えを取って待ち構える振りをした。

 トシキが間合いのギリギリから攻めるか攻めないかのフェイントをかけてくる。

 俺はそれに惑わされぬように足下に注意を払う。

 トシキが予想通りに左から来るという前提だが、この間合いギリギリの一歩前から仕掛けるならば必然的に左足から踏み込んで来る筈だ。

 フェイントに気を取られぬようトシキの左足に全神経を注ぐ。

 そして意を決したトシキは左足を踏み込み間合いを詰めようとしてきた。

 このタイミングだ。

 俺はトシキが仕掛ける瞬間に逆に間合いを詰めた。

 自分が仕掛けるつもりだったのが、逆に仕掛けられて一瞬躊躇するトシキ。

 そして踏みとどまり拳を振るう。これを待っていた、素人が不意に仕掛けられ咄嗟にする行動の多くは利き腕での大振りパンチ。

 俺はこれを屈んで避け、避けざまにトシキの顎先目掛けて同じ起動のパンチを振り抜いた。

 ガスッと鈍い音、間違いなくクリーンヒットだ。

 だがダウンは取れず二、三歩下がって踏み止まった。

 満を持しての渾身の一撃だったのに倒せないとは……ヒョロ長い見た目によらずタフな奴だ、俺は追撃のため一足飛びで間合いを詰めた。

 だが俺の体はトシキに届く前に止められた。

「げふ……」

 さっき飲んだポカリが喉の上まで上がってくる感覚。

 一瞬何に止められたのか解らなかったが一歩下がり理解する、蹴りで止められたんだ。

 打撃格闘技の基本だ、飛び込んでくる相手を前蹴りで止める。

 だが驚くべきは蹴りを出す技術では無くそのリーチだ、手でさえ完全にこっちの間合いの外なのに蹴りまで使えるなんて。

 涙目になりながら必死に込み上げてくるモノを抑えた。

 一気に畳み掛ける予定だったのにいきなり止められてしまった、俺は全然効いてないと思わせる為に軽いフットワークを踏み体を上下に揺らした。

 俺のダメージを知ってか知らずかトシキが攻めてくる。くそ、まだ胃液が込み上げて来てるってのに……

 まるで鞭の様に襲いかかって来るトシキの乱打を手の甲で払い退ける。

 速い……と言うよりも受けにくい。

 勿論速いのもあるが、拳を突き出して来たと思うと返しの時に後頭部に打撃を与えようとしてきたり、フックの後に同じ手で裏拳を混ぜて来たりと目で追うのがやっとの連打だ。

「う……げ……」

 顔面に来る突きに気を取られ過ぎてボディがガラ空きになってしまった。

 トシキはその隙を見逃さずに腹に一撃を決めてきた。

 たった一撃で体をくの字に折られる。駄目だ、体を起こさなければ……頭では解っているのに体が言う事を聞いてくれない。

 体を折られ下げた顔にトシキの膝が下から襲いかかって来る。

 ヤバい、動け動け動けぇぇぇぇ!

ガッ!

「ちっ……」

 俺の顔面に膝を決めたにも関わらず、憎らしそうに舌打ちをし、数歩下がるトシキ。

「いっ……てぇ……」

「痛いで済んじまうのかよ、お前のその打撃に対しての勘の良さは天性のもんか?」

 トシキの膝が俺の鼻を捉える瞬間、咄嗟に顎を引き膝をおでこで受け止めたのだ。

 かなり痛いが鼻をへし折られるよりずっとマシだ。

 トシキは間合いを広げたままだ、ピンチの後はチャンスとか良く聞くけど全くチャンスなんか見えないな。

 あの蛇みたいにクネクネ動く腕を掻い潜って自分の間合いに入る、まずはそうしないと外からなぶり殺しだ。

 多少の被弾は覚悟して飛び込むか……俺は意を決し、雄叫びと共にトシキに突っ込んだ。

「うらあぁぁぁ」

 それに対しトシキは冷静に半歩づつ下がりながら俺に一方的に打撃を加える。

 くそ、届かない。飛び込んだら飛び込んだ分下がられ、その際に数発ぶち込まれる。

 多少の被弾は覚悟していたが、これじゃただボコられてるだけじゃないか。

 ふとトシキの後ろのカズ達の戦いが目に写る。

 ワタルのパンチを避け、避けた勢いで横に回り込み正拳突きを数発放ち、またワタルの攻撃を避けて同じことを繰り返している。

 カズに気を取られているワタルの頭上に倒れた自動販売機を利用し高く飛び上がったタケシが現れる。

「後頭部は守れよ、責任取らねぇからな!」

ゴッ!

 あれだけカズの正拳を受けてもビクともしなかったワタルだが、後頭部に肘を打ち下ろされ若干体が揺らぐ。

 その揺らいだ隙にエックスが思い切り助走を付けたドロップキックを放つ、ワタルの巨体が地面に倒れた。

 倒れはしたがダメージはさほどでも無いのか直ぐさま立ち上がる。

「この人神経通って無いのかな、オレもう限界だぞ……」

「同感だ。恐竜みたいだな、コイツ」

 戦闘の最中に会話するカズとタケシを尻目にエックスが突進し、ワタルと正面からガッシリと組み合う。

「く……ふふふふ……ハーッハッハ」

 ワタルは大笑いしながら組み付いたエックスを力任せに押し切り、鳩尾の辺りに膝を入れ脇に頭を挟み込んだ。フェイスロックだ。

 それを見てカズとタケシが走り出す。

「そっちが気になるか、まぁ当然だよな。だが安心しろよ、お前を片付けたらワタルの面倒は俺が見てやるからよ」

 トシキが話しかけてきた。

「お前の考えてる事は解るぜ、間合いに入れれば……とか、そんな感じだろ?」

 お見通しか。そりゃそうだろうな、百戦錬磨のこの男だ。自分の長所は当然把握して、その長所を最大限に引き出す戦い方も心得ているだろう。

 だがトシキの取った行動は俺の予想外の事だった。

「そんなに甘いもんじゃ無いって事も教えてやらねぇとな」

 そう言いながらゆっくりと俺の方に歩み寄り、遂には顔がくっつきそうな程近付いて来たのだ。

「な、何を……」

「さ、第二ラウンドだ」

 トシキは肘を繰り出してきた。

 この至近距離ではトシキの長い腕は逆に短所にもなり得る。腕を折り畳んで肘と外からの軌道のフックを織り交ぜてきた。

 舐めやがって、明らかな手加減をされて頭に血が登る。

 俺の相手ぐらい自分の間合いじゃ無くても余裕ってか!上等だ、意地でも本気出させてやる。

 俺はトシキの肘をガードし、空いた右拳を顔面に叩き込む。

 当たる!この間合いなら俺の攻撃は簡単に届く、対してトシキは明らかにやりにくそうに肘を出してくる。

 全部の攻撃を弾くことは無理だが、少なくともフックは当たる気がしない。軌道が丸見えだ。

 コイツがワタルの相手をしてくれるってのは有難いが、仲間が死に物狂いでこの場を任せてくれてるんだ。

 アイツらを助ける役目、そう簡単に譲ってやるもんかよ!

 俺はトシキの顔面に何度も拳を叩き込む。このまま押し切ってやると考えた瞬間下から顎を跳ね上げる肘を喰らった。

 ほんの一秒にも満たない時間だったが意識が飛ぶ、だが退くもんか。

 トシキが手加減してわざわざ俺の間合いで挑んで来てるのに……ここで退いたら俺は一生コイツに勝てない。

 奥歯を食いしばり後ろ足に力を入れ、拳を返す。

 負けねぇ!俺は絶対に勝つ!

 攻撃の手を緩めること無くトシキが話しかけてきた。

「なぁナオ、お前は何故今もこうして戦っている?痛い思いして怖い思いして……それでも何で戦える?」

「そんなの知りませんよ、怖いのも痛いのもゴメンだけど俺はここに辿り着くまでに仲間を犠牲にして来てる。そして今も後ろでは一緒に戦ってるダチがいる。それなのに俺だけ休んでる訳には行かないでしょうが!」

 拳と言葉をトシキに返す。

「仲間の為か、じゃあその仲間がいつか居なくなるとしたらどうする?少なくともカズはお前と別の道を選ばされる可能性があるぞ」

 トシキは両肘の連打から左のボディアッパーを俺にねじ込みながら尚も問いただしてくる。

「それも知りませんよ、あいつが何処に行こうがどんな道を選ぼうが……それでもダチに変わりは無い!」

 俺も渾身のボディブローを突き立てトシキにお返しした、トシキはよろめきながら数歩下がる。

「なるほどな、その気持ちが本物なら俺が言うことはもう何も無い。最後の喧嘩の相手がお前で良かったぜ」

「は?一体何を……」

 そこで俺の携帯が鳴り出した。

 こんな夜中に携帯が鳴る理由は一つしか思い当たらない……試合終了の告知だ。

 まずい、玉を一つも取ってない。ここまで来て引き分けの両者失格!?

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