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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
58/113

絶対にそれは無い

 落ち着け……落ち着くんだ。

 俺はこいつに一度勝った、そして俺はあの時よりもずっと強くなっている。

 カズを殴り飛ばし、尚も間合いを詰めようと近付くトシキを見据え、自分に言い聞かせるように念じた。

 俺が意識を集中していると、トシキは俺の間合いの外から拳を繰り出してきた。相変わらずとんでもないリーチだ。

 トシキは様子見のつもりか、左手のジャブのみで攻撃を仕掛けて来ている。

 それを開手で叩き落す。スピードは流石だがパワーはワタルに比べたら断然劣る、これくらいなら対応出来る。

 徐々に下がりながら受けていると背中に何かがぶつかった、エックスの背中だ。

 エックスもワタルの攻撃を受け止めているようだ、背中越しに衝撃を感じる。

 これ以上下がれない俺に更に攻撃を加えるトシキ、避ける訳にはいかない。

 避けたらエックスにそのまま流れ弾を当てる事になってしまう、エックスもそう考えてワタルの攻撃を受けているはずだ。

「お前もそのうちケリ付けてやりたかったんだがな、今日は先約がある。失せやがれ」

 トシキが手を緩めること無く話し掛けてくる、だが話している相手は俺じゃない。俺とエックスを挟んでワタルに声を掛けているようだ。

「奇遇だな、俺もお前に会いたかったが先に借りを返したい奴が目の前に居るんだ。邪魔すんなよ」

 ワタルもエックスに攻撃しながら返事を返す、どうやらこの二人は顔見知りみたいだな。

 考えてみれば当然か、この天上天下唯我独尊を地で行く二人が今までぶつかってないと考える方が不自然だ。

「邪魔すんなはこっちの台詞だ。目障りになる様ならお前から叩き潰すぞ、ワタル!」

 更に拳のスピードが上がる、腰を入れてない早いだけの攻撃じゃ受け流して体制を崩す事も出来ないが、これだけ力が入ってくれば……

 俺がタイミングを見計らっていると首の後ろの襟をグイッと引っ張られた。

 重心を後ろに置いていた俺はなす術もなくエビ反りの状態になった。

 その刹那、俺の目の前でワタルの剛腕とかぐや姫のバットがぶつかる。後ろに引っ張られていなければこの攻撃にサンドイッチにされていたところだ。

「悪い、助かっ……」

 俺を助けてくれたのは当然エックスだ、お礼を言おうとすると上からバットを振り上げているもう一人のかぐや姫。

 咄嗟にエビ反りのまま足を上げ靴の裏でバットを受け止めた。

 そして今度は思い切り背中を突き飛ばされた。

 また、何かの攻撃から庇ってくれたのだろうがそれを確認する暇は無い。

 背中を押されたせいでトシキが目の前だ。

 このタイミングで仕掛けて来るとは思っていなかったのかトシキは多少面喰らった顔をした。当然だ、仕掛けた俺ですらその気は無かったのだから。

 だが、偶然だろうと何だろうとここまで接近出来たのにこの機を逃す訳にはいかない。

 背中を押された勢いを使ってトシキの腰の辺りに飛び付く。

 初めてやった時もこうやって無理矢理マウントポジションを取っての力押しだ、またこのまま決めてやる。

 だが俺は前の時との違いを忘れていた。トシキは組み付いた俺の胸倉を掴み目線の高さまで持ち上げた。

 突如、背中に衝撃を受ける。

 背後を振り返るとかぐや姫の一人がバットを構えていた。

 俺がトシキに掴みかかったのと同じタイミングで更に背後からかぐや姫も仕掛けて来たのだ。

 狙いはトシキの方だったのかも知れないがトシキは屈んでいる俺を立たせ、盾代わりに使いやがったんだ。

 頭に喰らった訳では無いから致命傷では無いし意識もある……だが即座に動ける程軽いダメージじゃ無い。どうする。

 考える間も無くトシキに投げ捨てられ地面に転がる俺。

 トシキは地面に寝転んだ俺に目も向けずかぐや姫に殴りかかる。

 俺が甘かった、この乱戦状態で例えマウントを取ったとしても他の奴等の的になるだけだ。

 バットを振りかぶるかぐや姫に対し、トシキはバットでは無くそれを持っている手首を押さえる。

 知っているのか本能か、その行為は対武器の合気道の基本動作だ。

 左手で振りかぶる手首を押さえ、大きく円を描く様にその反動で右拳をかぐや姫の鳩尾に決めた。

 ドスンと重たい音が響き軽く宙に浮き、後退りした。あんな凄いボディブローを決められてダウンしないのは大したもんだが、恐らくもう動けまい。

「く……うぅ、く、ふ……はははは」

 強烈なボディブローを喰らい、後退りしたにも関わらず全く効いていないとでも言いたげにかぐや姫の男が笑い出す。

 笑いながら自分の上着を捲し上げ、腹の部分を見せる。その見せ付けた場所には数冊の雑誌……ズボンに雑誌を挟み込んでいたのだ。

「メットにバットに腹には漫画本かよ。そんなに怖けりゃ家で大人しくしてやがれ」

「くひひひひひ」

 トシキの言葉に笑い声で答え、かぐや姫はバットを振り上げ突進してくる。

 トシキは向かって来る相手の顔面を……すなわちヘルメットの部分を思い切り殴り抜いた。

 二度、三度と殴り続けるが効果が有るとは思えない。証拠にかぐや姫は抵抗もせずに、只々殴られて大笑いしたままである。

「うらああぁ!」

 数十発は殴っただろうか、トシキは首の後ろを持ちヘルメットに向かって膝蹴りを決めた。

「うぐあああ」

 すると全くダメージが無いと思われたかぐや姫が地面に転がり悶え始めた。

 あれは首に来たんだ、顔面のダメージは無くともそれを支える首は無防備な状態。余裕を見せてわざと殴られていなければ耐えられたかも知れないが急な衝撃でムチウチにでもなったに違いない。

 悶え苦しむかぐや姫を尻目に俺の方に向き直るトシキ。

 自動販売機の逆光で表情は読めないが手から血が滴り落ちている。

 普通ヘルメットなんか思い切り殴ればそうなる、膝だってただでは済まない筈だ。

「待たせちまったな、さぁ続けようか」

 すると今度はトシキに向かってエックスが吹き飛んで来た。

 トシキはフッと後ろに下がりそれを避けるとエックスは派手な音を立てて自動販売機にぶつかり、ズルズルと地面にへたり込んだ。

 それを追い掛ける様にワタルも突進し、トシキに剛腕を振るった。

 トシキは咄嗟にその腕を受け止め後ろに下がる。

「退けよ、邪魔すんな。お前の相手はそのマスクにトドメ刺してからしてやるからよ」

「邪魔はどっちだこのヤロウ……」

 一方的に横槍を入れてきたワタルだが、ワタルとしてはエックスにトドメを刺そうとしたら間に割って入られた気分なのだろうか。

 一束触発の二人が睨み合っていると、ガシャンと大きな音を立てて更に一人が参戦しようとしてきた。

「テメェ!上等な事してくれたじゃねぇか。覚悟は出来てんだろうな」

 タケシが倒れた自動販売機の上に立ち、ワタルに向かって吠えた。

 良かった、無事だったんだな。

 よし、俺もそろそろ行くか。呼吸を整え立ち上がりトシキを見据えた。

 すると後ろから声を掛けられた。さっきトシキにやられたかぐや姫である。

 バットを杖代わりにし、ヨロヨロと立ち上がる。

「なぁ鬼殺し、ここは一時休戦しないか。一緒に組んでトシキとワタルをやっちまおうぜ。俺達が組めばいくらあの化け物共だって……」

 意外な言葉だった。だが確かにあの二人のどちらかに同じ事を言ったとしても答えは解りきっている。

組むなら俺達だろうな。だがコイツはシンゴの仇、いくら今が窮地だとしてもコイツ等と組むなんて……

「テメェ等とだけは絶対にそれはねぇよ!」

 俺の口から出た言葉では無い。カズが横から飛び蹴りを繰り出しながら言い放ったのだ。

「お前等覚えとけよ、手が空いたらメットひん剥いてシンゴに土下座させに行かせるからな」

 息を荒立てながらかぐや姫にトドメを刺したカズが俺に向き直る。

「まさかとは思うが休戦受けるつもりだったとか言わないだろうな」

「見くびんな、今まで寝てたくせに俺の台詞取りやがって……もう動けるのか?」

 ちょっとだけ悩んでいた事は黙っておこう。

 俺は平静を装いながらカズに気にかける言葉を掛けた。

「ああ、死んだ爺ちゃんにまだこっちに来るなって怒られた。もう大丈夫だ」

 うん、それ全然大丈夫じゃ無いな。

「テメェの相手は俺だ!コッチ向けよコラァ」

 カズと話していると後ろの方からタケシの叫びが聞こえてくる。

「タケシよ、無事なのは喜ばしいがそいつの相手は譲れんな。準備運動は終わりだ、覚悟して貰おうか」

 自動販売機にもたれていたエックスもゆっくりと立ち上がった。

「良いぜお前等。まとめてかかってこいよ!」

 トシキとやり合う寸前だったワタルは二人に向き直り戦闘体制を取った。

 そして相手の居なくなったトシキは俺の方に歩いて来た。

「トシキさん……」

 カズが前に出る。

「やっと邪魔者が居なくなったと思ったら今度はお前かよ」

「いえ、もうそんな気はありませんよ」

 カズはトシキの横を素通りした。

「オレは何とかこのゲームに勝とうとトシキさんとナオのタイマンを避けて来ました。だけどナオはうちらの大将です。こいつが負けるならうちらの負けです。ジブン等はもう邪魔しませんし、あのワタルにも邪魔させません」

 カズは俺に向き直った。

「ナオ、勝てよ。俺の憧れた先輩に。そしてトシキさん、今まで色々お世話になりました。今よりオレは……オレ達はあなたの敵になります」

 トシキに頭を下げるカズ。そしてワタルの方に向かって行った。

「おら、帝王様よ、お前の相手はコッチにもいんぞ」

 その背中を見つめているとトシキが口を開いた。

「お前は友達(ダチ)に俺は後輩に、あんな事言われたらお互いチンケな喧嘩はできねぇよな」

「……そっすね」

「行くぜ」

「はい」

 不思議と落ち着いている。

 あれだけ怖かったトシキが今にも襲いかかって来るというのに。

 俺は構えを取りトシキを迎え討つ準備を整えた。

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