表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
57/113

絶体絶命

「むうううん」

 右手を受け止めたエックスが逆に手首を掴まれ振り回された。

 左手は俺が押さえているからそれを片手でやっているのだ。

 エックスを振り回し後方にいるカズとタケシを弾き飛ばす。

 両手の空いた影の男は改めて俺に向き直り、今度は両手で押し込んで来る。

 なんて馬鹿力だ、とても耐え切れない。

「誰かと思えばお前かよ、いつか会えると思ってたがこんな再会とはな」

 影の男が不意に話しかけてきた。

 月明かりに照らされ影の男と目が合う。俺はこの男を知っている、俺もいつかは再会する事があるとは思っていた男だ。

 突如頭突きをされた、咄嗟に俺も額で受け止める様に頭突きを返す。

 が、体を押し込まれ上から仕掛けるのと下から迎え撃つのでは勝負にもならない、俺は遂に両膝を付かされた。

「シャイニングウィザァァァード!」

 横からエックスが妙な事を叫びながら飛び膝を顔面に見舞った。

 しかし、男はそれでも怯まず膝を受けながらエックスを捕まえた。

 そして、まるでヌイグルミの様に軽々とエックスを回転させ、頭を地面に向けさせた。

 ヤバい、コイツの馬鹿力で頭から地面に叩きつけられたら……

「ふん!」

 しかし咄嗟にエックスは両足で首を挟み後方に投げ飛ばした。

 投げたとはいえダメージは無さそうだ、男はくるんと前転し受け身を取った。

「たかが四人相手に膝付かせられるなんて初めてだぜ、お前やるな。流石そいつの……ナオの仲間だな。さっきのメット野郎共はてんで歯応え無かったのによ」

「おいおい、膝付くとかラオウみたいな事言い出したぞ。ナオの知り合いか?」

 後ろから戻ってきたカズの声が聞こえる。

「知り合いって程でも無いけどな、こいつはワタル。噂の四天王最後の一人だ」

「こいつが……納得の化け物っぷりだな」

 タケシに同意だ、確かにコイツの顔には見覚えがある。半年程前に駅でタイマン張ったあの男だ、だがこのガタイはなんだ。成長期にも程があるだろう。

 殆ど別人の様になったワタルの体を改めて見る。

 身長は最早二メートル行ってるんじゃなかろうか、トシキ以上の高さだ。

 そして体の作りが違いすぎる。イクオの様にミチミチに締まった筋肉では無さそうだがとにかくデカイ。胸板も腕も俺達の倍は有りそうだ。

「んでワタルさんや、あんたはかぐや姫のメンバーなのか?それともゲームとは無関係なのか?」

「かぐや姫?ゲーム?なんの事か知らないがあのメット野郎共もお前等も喧嘩吹っかけて来たのはそっちだろうが」

 カズの質問を興味無さそうに返す。只の通りすがりって事かよ。

「あー、なるほど。ちなみに人違いなんで、すいませんって訳には……」

「いかねぇな」

 カズの言葉を遮りこっちに歩み寄って来る。

「くそ、何なんだよ今日は。忙しいってのに次から次と厄介なのが来やがって」

 タケシが構える。

「ナオ、お前コイツにタイマンで勝ったんだよな。何とかしてくれ」

 カズも両手を上げ構えた。

「集中しろ!来るぞ」

 エックスが前に出ようとするとそれまでゆっくりと歩いていたワタルがダッシュで間合いを詰めてきた。

「くそっ」

 カズがカウンターで中段蹴りを決める、ドスンと重い音が響くがダメージを受けた様子は無い。

「お前、軽いな」

 ワタルは自分の腹にある足を掴み、振り回した。

「う、あわああぁぁ」

 カズが片足を掴まれて振り回され、叫び声を上げる。

 ワタルはタケシにそれをぶつけるつもりだったのだろうが、ヒョイと避けカズは自動販売機の側面に激突した。

「この、調子に乗んなよ」

 タケシが飛び蹴りで仕掛けるが、それを喉輪で捕まえられた。

「ゲホッ」

「後頭部だけは守っておけよ。責任取らねぇからな」

 そう言うとタケシの喉を片手で掴んだまま、俺に突進してきた。

 いくら何でもタケシごと打つ訳にも行かない、ガードする俺を弾き飛ばしワタルはそのままスピードを緩めず自動販売機の正面にタケシを叩きつけた。


 ガシャーン……ギギ……ズシーン……


 正面から激突したタケシは3台並んでいる自動販売機の一台をも倒してしまった。

 自動販売機ってそんな簡単に倒れちゃうもんなのか……バチバチと引き千切られたコードが火花を散らす。

「タ、タケシ!」

 近付こうとするエックスの前にワタルが立ち塞がった。

「どけぇぇ」

 珍しくエックスが打撃戦を仕掛ける、正拳突きからの下段蹴り。カズに引けを取らない鮮やかな連携だ。

 だがワタルは打たれても怯まず、打ち下ろしの右を繰り出した。

 この上背と腕力からの打ち下ろしは、単純だが十分必殺の一撃に成り得る。

 エックスはしっかりとガードしたが、そのガードの上からでもダメージを殺しきれていないようでその場で立ち止まる。

 動きの止まったエックスにワタルの追撃が迫る、今度は左のアッパーだ。

 俺はその拳に手刀を当て拳を止めた。

 ワタルは俺を憎らしげに睨み、その一瞬の隙にエックスは足にしがみ付き何かを仕掛けようとした。

 しかしワタルは倒れない。仁王立ちするワタルの足にしがみ付いているだけの状態だ。

「何のつもりだよ」

 ワタルは片足に人一人がしがみ付いているにも関わらず、エックスごと俺に蹴りを入れてきた。

 堪らず俺達二人は吹き飛び自動販売機にぶつかる。

「くそ、規格外過ぎる。こちらの全ての攻撃を単純な腕力でねじ伏せてくるとは」

 背中を思い切りぶつけたエックスが憎らしそうにワタルを睨む。

「何とかならないのか?昔アイツとやった時とは別人だ。こんな化け物じみた奴になってるなんて」

 俺も背中をさすりながらエックスに聞いた。

「……一つ試す価値のある事はある。寝技に持ち込めば何とかなるやも知れん」

 エックスがワタルを睨みながら小声で語りかけてきた。

「寝技なら何とかなるんだな?」

「これは柔道の言葉だが、寝技にまぐれ無しと言ってな。寝技のノウハウを知らない者が腕力だけで逃れる事はほぼ不可能だ」

 ワタルが寝技を知っていたらヤバいが、知識が無ければ何とかなるか。確かに試す価値はあるな。

「それにこの体格差では寝技でないと対抗できん。寝技でも体格は重要だが立ち技の体格差に比べたら遥かにマシだ」

 なるほど。

「だが一つ問題もある。奴は倒れんのだ。さっき蟹バサミを仕掛けたがモノともしなかった。体幹の良さはイクオ君並みだ。ナオよ、奴からダウンを取れるか?」

 エックスが小声のまま俺の目を真っ直ぐ見つめて来た。

「や……やったろうじゃねぇか」

 たった一度のダウンを取るだけなら何とかなるかも……いや、やってみせる。

「ダウン取れば良いんだな……」

 不意に後ろからカズの声が聞こえた。

「カズ、気が付いたのか」

 いつの間にか立ち上がり俺達のすぐ後ろにカズが立っていた。

 だが何とか立っただけだな。頭から流血しているようで顔面血だらけだ。

「あんな一発だけで終わってたまるかよ。それより良い手がある、あのな……」

 そこまで言うとカズが真横に吹き飛び、光の届かない自動販売機の裏側に消えた。

 そしてさっきまでカズが立っていた場所に長身の男が姿を現した。

「よう……逢いたかったぜ」

「トシキ……さん」

 最悪だ、折角立ち上がったのに不意打ちでまたカズがダウンしてしまった。しかも作戦を聞く間もなく。

「お、また乱入者か。いいぜ、今日はとことん付き合ってやるよ」

 背後からワタルの声が聞こえる。だがトシキから目が離せない、目を逸らしたら()られる。そんな気分にさせられたのだ。

「テメェ等、これは一体……?」

 更にかぐや姫の残り二人も到着してしまったようだ。金属バットを地面に擦るカラカラという音が響く。

「ふん、お前らは下がってろ。どうしてもってなら相手してやるから暫くそこで座ってろよ」

 トシキが指をパキパキ鳴らしながら近付いて来る。

「お前もどっかで見た事あるツラだな、今日はいい日だ。また会いたいと思っていた奴等に次々と出くわす」

 背後からワタルの重量感のある足音も近付いて来た。

「トシキ!路地裏猫(アレーキャット)!それからそこのデカイのは帝王ワタルか?面白れぇ。ここで全員打ち取ってやるぁ!」

 かぐや姫の奴等、好き勝手言いやがって。こんな状況じゃ無ければ喜んで相手してやるのによ。

 俺はエックスに助け船を求めた。

「エックス……ちょっと手を貸してくれないか?」

「コッチも忙しくてな、自分で何とかしろ」

 エックスから返って来た答えは無慈悲なものだった。

 前方の戦闘民族、後方の世紀末覇者かよ……しかもヒロシは入院、カズとタケシはダウン。絶体絶命の大ピンチだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ