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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
55/113

おつかれさん

「おいおい、確かに味方にじゃ無いとは聞いたけどよ……状況はこれ以上悪くならないと思ってたけど、最悪なんじゃないか?」

 タケシが小声で囁く、その通りだな。

 こいつらがどういうつもりでここに来たのか想像もつかないが、俺達に一回戦でやられ、しかもそれが原因でトシキは去りキゾクは崩壊した。

 どうポジティブに捉えても友好的な感じには取れない。

 シュウジは三人程後ろに引き連れただけの少人数の様だ、ゆっくりとこっちに歩を進めながら喋り出した。

「賞金だか何だか知らねぇが、みっともねえ真似しやがって。お前等殆どキゾクのメンバーじゃねえかよ」

 シーンと静まり返っていたがシュウジのその言葉を聞いて騒ぎ始める。

「だったらアンタ達は何しにここに来たんだよ」

「シュウジさんだってこいつらに負けたんだろうが」

「もうキゾクは無いんだ、偉そうに言うんじゃねーよ」


「やかましい!」


 またシュウジの一喝で静まり返ってしまった。

「確かに俺もコイツ等に不覚を取った。汚ねぇ手を使われただの油断しただの言い訳するつもりは無い。負けは負けだ。借りは必ず返す、それだけだ」

 シュウジは俺達の前で立ち止まりカズを睨みつけた。

「だがな、それは今日じゃ無い。路地裏猫(アレーキャット)はなうちの大将が自分でケリを付けようとしてんだよ」

 シュウジは振り返りその場の奴等に言い放つ。

「それを遂に決着の日って時に不粋な事しやがって。テメー等あれだけ世話になったトシキの顔に泥塗る真似してんだぞ、解ってんのか?!」

 暗闇で見えないがカランコロンと何かを地面に落とす音が聞こえる。恐らく今の言葉で戦意を喪失して武器を落とした奴が居るのだろう。

「今日は散れ、そしてトシキのケジメの付け方を見ろ。その後でまだ納得いかねぇなら改めて賞金でも闇討ちでも好きにしろよ」

 数人がその場から逃げ出す様に走り出し、残った奴等もトボトボと歩き出したり呆然と立ち尽くしたりしている。

 このシュウジって奴も相当なんだな、これだけの人数を言葉だけで鎮めちまった。

「さて、今日ここに来たのはそんな下らない事を言いに来たんじゃない。用事があるのはお前だ、シンヤ」

 俺の前で蹲っていたシンヤが立ち上がる。

「このキゾク総長の俺に用事だと?副総長の分際で偉そうに……素直に俺の下に着きたいってなら面倒みてやるぜ」

 もうボロボロだがそれでも虚勢を張るシンヤ、こいつのプライドの高さも半端ないな。

「要件は単純だ。お前、俺の下に付け」

「え……あ、は?」

 余りにも不意を突かれた発言だったのか言葉に詰まるシンヤ。

「お前の賞金も強さも興味は無い、俺達アイアンロッドのチームに入れ。パシリから鍛え直してやる」

「馬鹿言ってんじゃねぇ!俺はトシキに認められた正式な二代目キゾク総長のシンヤだ!今更人の下に付くつもりなんかある訳ねぇだろうが」

「それだよ」

 シュウジがスッとシンヤを指差す。

「過程はどうあれ、お前はトシキに認められた。それだけでお前には男の価値がある」

 凄い殺し文句だな……男の価値があるか。一度は言われてみたいかも。

 だがこの負けず嫌いなシンヤが素直に首を縦に振るわけが無い。

「今更新しいチーム作って何になるんだよ、お前こそ俺の下に付け。キゾクが最強だって事をコイツ等にも叩き込んでやる」

 シンヤが俺達を睨みつける。

「キゾクが最強……それはそれで良い。だけどなキゾクはデカくなり過ぎちまった。肝心な時にトシキを守る為に動けなくなる程にな」

 シュウジがシンヤに近づく。

「アイツの側に居るのは少人数で良い、だがそれはアイツに認められた精鋭じゃ無ければならん。ここからキゾクは生まれ変わるんだ。チームが解散になった時は俺も腸煮えくり返ってたけどな……今は良かったと思ってる」

「あんたの言いたい事は理解した、そして正直言うと嬉しくもある。トシキ、そしてあんたが……俺の憧れた奴等が俺を認めている。だけどな、今の俺はキゾクの総長だ!誰かに尻尾振るうなんて出来るかよ」

 シンヤがシュウジに向かって突っ込んだ。

「それで良い、それでこそだ」


 ドス……


 一閃。二人の身体が交差した瞬間、シンヤの拳を避けざまに自分の拳を深々と相手の身体の中心に突き刺した。

 正に突き刺したと言う言葉が適切な打ち方だ、シンヤが飛び込んでくる勢いと自分が踏み込む力、そして地面をしっかりと踏みしめた脚力。

 その力が集約された拳がシンヤの鳩尾を捉え、その一撃で胃液をぶち撒け身体がくの字に折れた。

 シュウジは倒れこむシンヤをそのまま肩に担いだ。

「それじゃコイツは貰ってくぜ。居場所を教えてくれてありがとな、マサトシ」

「いえ、お安い御用ッスよ」

 シンヤを担いだままシュウジはスッと目線をカズに送る。

「本当はテメェともじっくりと話したい所なんだけどな……今日だけはトシキの顔を立ててやる」

「あ……ははは……」

 引きつった顔で愛想笑いをするカズに背を向けシュウジは暗闇に消えて行った。

 とんでもないな、シンヤは確かにオフェンスは大したことのない奴だった。

 だけどあれだけ拳を叩き込んでも全く怯まなかったシンヤをたった一撃で……

 俺の様に流れに逆らわず受け流してからの攻撃では無く、相手の攻撃を利用し正面から叩き潰す。

 戦い方ってのは色々あるんだなと、改めて感じさせられた一戦だった。

 シュウジという男に圧倒され、奴が去った後もその方向を見ていると男の走り出す姿が視界の隅に写った。偽イクオだ。

「やろう……」

 ここまで来て逃すもんかよ。

 俺は立ち上がり追いかけようと走り出したが、それとほぼ同時に偽イクオが派手に転んだ。

 いつの間にか先に回り込んでいたタケシが足を引っ掛けたのだ。

「い、痛い。何をするんですか。擦りむいて血が出たじゃないですか。早く消毒しないとならないので帰ります。そこどいて下さい」

 喚く偽イクオを無言で見下ろすタケシ。

「くっ」

 只々無言で威圧するタケシの迫力に気圧されたのか逆方向に走り出す偽イクオ、だが既にその方向にはエックスが立ち塞がっていた。

 エックスの姿を見て後退りする偽イクオ、その隙に俺とカズも残りの逃げ道も塞ぐ。

 これで四方を囲めた。誰かが突破されない限り逃す事はない。

「あー、はいはい。俺の負けですよ、あなた達は偉い。凄いで……」

「一つだけ聞いておこうか」

 手をパチパチ叩きながら何かを言いかけた偽イクオの言葉を遮りエックスが口を開いた。

「何故貴様はイクオと名乗った。……いや、名を騙る理由は大体理解している。何故イクオの名を使ったのだ」

「騙るも何も俺の名前はイクオですよ、ただの本名ですがそれが何か?」

 それを聞くと軽く笑いながらエックスがにじり寄った。

「なるほどな。散々イクオの名を利用し、いざとなれば名前を騙った訳でなく本名だと返す事も想定してたか」

「そ、それは……」

 徐々に間合いを詰められ後退りする偽イクオ。

「そんな考えでいる限り、貴様の本名がイクオで有ろうとも貴様はいつまで経っても偽イクオだ……この、バカモノが!」


 バチィィィン


 エックスが思い切り平手打ちを見舞った。

 偽イクオはきりもみ状に回転しながら宙を舞い、雪が積もり始めた地面にブレイクダンスの様にスピンした。

「か、顔が……パパにも叩かれた事のない顔が……」

 只のビンタだがとてつもなく重く、そして痛い一撃だ。少なくともこの冬の寒空では絶対に喰らいたくない。

「あ、あうううう……」

 痛みは凄いだろうが別に気絶をする類いの打撃ではない。ふらふらとしながら立ち上がった。

 そこを後ろかポンとかたを叩くタケシ。

「俺からはこの前の彼女の分だ、女の子を喧嘩に巻き込んでんじゃねぇよ!」

 そう言いながら偽イクオを自分の方に向かせ股間を思い切り蹴り上げた。

「ふぎゅうううう……」

 股間を抑え両膝を地面に付いた。これもまた絶対に喰らいたくない技だな。

 タケシが俺を見て肩に手を置いた。次は俺に行けって事か、ここまでズタボロになってはちょっとやりにくいが一応……

「ああ、大丈夫。俺はそんなに怒ってないからさ」

 近付く俺を見て怯えた表情を浮かべる偽イクオに笑顔で語りかけた。

 両膝を付いている偽イクオの左腕を取り垂直に上げ、肩を両手で押さえつけ勢いを付けて捻るように押す。

「…………!!」

 偽イクオは声にならない声を上げ地面をのたうち回る。

 肩を外してやったのだ。普通身構えて筋肉が硬直してる奴の肩を外すなんて事は有段者じゃ無ければ難しい。

 だがこの偽イクオは筋肉とは無縁のお坊ちゃん、しかも今は股間の痛みのせいか腕には全く力の入っていない脱力状態だった。

 やり方さえ理解していればそんな奴の肩を外す事は簡単だ。

 ジャリっと地面を踏みしめ最後はカズが偽イクオに近付く。

「ちょ……ちょっと待ってくれ、腕が折れたんだ。もう充分だろう。こんな状態の俺にまだ何かするつもりか、この卑怯者」

 此の期に及んでまだ減らず口を叩く偽イクオにゆっくりと間合いを詰める。

 てか、折ってないし。

「オレはな、今迄お前みたいな口だけ野郎を何度も見て何度も見逃して来た」

 後退りする偽イクオを追い詰める様に歩を進めるカズ。

「だがな、そんなオレでも一つ許せない事があってな」

 遂に背中が壁にぶつかり後退りも出来なくなった偽イクオ。

「ちょ……ちょっと待ってくれって、腕が……」

「何が俺には勝てないだ、こっちはただの門弟とは言え一応は道場の名前背負ってんだ。やって負けるならまだしも、戦いもしないで負けを認めちまったら先生に会わす顔がねぇんだよ!」

 ドゴンと鈍い音が響く、偽イクオではなく顔の横の壁を殴ったのだ。避けられた訳では無い、カズがわざと狙いを外して壁を殴ったのだ。

 目を瞑って縮こまっていた偽イクオがそのパンチの軌道が自分じゃない事に気が付き、目を開け安堵の上場を浮かべる。

「これで互いに片腕同士だ、文句無いよな」

「え?」

 安堵の表情が見る見る青ざめていく。

「セイヤアァァァァァァ!」

 左の下段蹴りで内腿を蹴り、バランスを崩した状態の偽イクオに正拳突き。そして回し蹴り。倒れ込む偽イクオを膝で無理矢理起こし、更に追撃。もう滅茶苦茶だ。

 カズが腰を落とし、空手の正拳突きを出す前の構えを取り動きを止めると、偽イクオはどちゃりと糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。

 ここまでボロボロにやられた奴は見た事は無いが、それでも可哀相とは思わん。

 むしろ壁を殴っただけで終らせていたらカズをちょっと見損なっていたかもしれない。それも優しさなのかもしれないが……個人的な意見を言わせて貰うなら、それはもう武道家とは呼べない気がする。

「うし、おつかれさん」

 カズが振り返り俺達に笑顔を向ける。

 俺達は圧倒的な不利の状況から勝利をもぎ取り、皆で笑い合ったが、その数秒後には今日はまだ何も終っていない……むしろ始まってすら居ない事に気が付くのであった。

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