やる
「おーっす、見舞いにきたぞ」
「三人で入院なんて何があったんですか?」
この二人はタケシとヒロシ。入院してから一週間が過ぎ、クラスメイトの誰も来てくれなかったが家族とカズ以外初の話し相手が来てくれた
こいつらは学校は違うのだが、カズの家で顔を合わせるうちに仲良くなった奴等だ。
今はもう辞めてしまったようだがカズと同じ空手道場の同門だったらしい
「うーん、どこから何を話したらいいのやら……」
俺がどう説明しようか悩んでいるとカズも病室に入って来た
「お、二人とも来てたのか」
俺とは違い腕を折っただけなので今はもう自宅療養で充分のようだ
こっちは足なので行動が制限され、とても退屈な入院生活だ
「今来た所です、何があったのか教えて下さいよ」
ヒロシは気になって仕方が無いようだ
「そうだな、二人にも話すよ。だけどその前にナオに確認しておきたい事がある」
カズの聞きたい事は解っている、これからやるか辞めるかを聞いて置きたいのだろう
俺は質問を聞く前に「やる」と答えた
「そうか、一応言っておくけどもう百万くらいじゃ割に合わないんだぞ?」
「勝手に辞めたらシンゴに怒られそうだからな」
俺はわざと明るく答えた
「そうだな、んじゃオレも付き合うよ……よし、説明するか」
カズが二人の方に向き直った
「その百万てのでピンときた、SSSゲームだろ?」
タケシがズバリ言い当てた
「良い勘してるな、取り敢えず確定してる事実だけ話すよ」
ヒロシはさっぱり解らないという顔だが、タケシは存在は知って要る様だ。
そこそこの規模で噂になっているし別段不思議な事は無い
「まず賞金が本当にでる保証はないが参加してる方はマジって事と、イタズラにしてはかなり手が込んでるって事だ」
「なるほど、そのマジな連中にやられたのね」
「簡単に言うとそんな感じだよ……そんで、五人で一チーム構成だったんだが舐めすぎて三人で参加で二回戦敗退さ」
ヒロシが深く溜息をついた
真面目な奴なので刺激が強かったのだろうか
「そこで本題だが二人も参加してみないか?空手も辞めて鈍った身体には厳しいゲームかもしれないけど……」
「シンゴさんの無念もありますし僕は別に構いませんがチーム登録は平気なんですか?」
意外にもヒロシの方は乗り気の様だ
「チームの方は一回負けたらもう終わりだ、だから新しいチームで再登録する」
「問題なさそうだな、俺も付き合う」
タケシも普通に承諾した
俺やカズはまだしもシンゴの状態を見てもやると即答出来るのは凄いな、道場でシゴかれた賜物だろうか
「ちなみに鈍ってはいないぞ、空手辞めてからキックに行ってるからな」
「僕も今はカポエラしてます」
「え?カポエラ?あの逆立ちするの?」
あまりの聞きなれない言葉に思わず聞き直してしまった
「バカにしてますね、最近はカポエラ教えてる所多いんですよ」
「いやバカには……」
「何にせよ心強いな、もう一人心当たりないか?出来れば体の丈夫な奴がいい」
少し考えた後にタケシが
「プロレス同好会のユタカってのがいる、普段は喧嘩なんてからっきしだけどマスクすると人格変わるんだ」
「なんだそれは……まぁ良いや、強そうだし多少変人でも聞いてみてくれ」
タケシの話によると学園祭でバンドをやる時にマスクを被せ無理矢理ボーカルをやらせてからその人格が生まれたらしい
「とにかく、これでメンツと復習は完了だな。ここから先は勘と予測でしかない、思う所があったら意見聞かせてくれ」
カズ以外の三人が頷く
「まずかぐや姫って二回戦で当たった奴等の会話からの推測なんだが、送られてくるメッセージに相手の事はチーム名とメンバー名くらいしか情報無かったよな?」
「ああ、それ以外の事は発信機の送り返す場所とか試合開始の日時くらいしか書いて無かった」
俺は答えた
「奴等オレ達が二回戦だと知っていた、しかし良く一回戦勝てたなとか言ってたから不戦勝とまでは知らないと思う」
「更にこれで三回戦みたいな事も言ってたから恐らく初戦は初戦同士、二回戦は二回戦進出同士なんだろう」
「なるほど」
言われてみると極自然な組み合わせだが、言葉にしてみると全く解らなかった事に徐々に輪郭らしきものが見えて来た気がする
「それからオレ達が奇襲を受けた件だが、始まってからの発信機は覚えてるか?」
「確か真ん中に俺達がいて町の外れに相手の玉が五個あったんだったかな」
「そう、つまり奇襲を仕掛ける四人と町外れで玉を守る一人で分担してたんだ。そして運が悪くオレの家は町のど真ん中、敵が待ち構えてるすぐ横でのんびりしてた訳だ」
「そりゃお前等が悪いわ、今から喧嘩が始まるかもってのにまったりし過ぎだ」
タケシが正論で口を挟んだ
「まあ、その通りだな。甘く見過ぎてた。だけどもう一つ運悪いのが一回戦が不戦勝だったって事だな」
「なるほど、うまく行き過ぎての油断ですか」
「うん……でも代償は高かったがもう油断はない、引き締めて行こう」
「ルールは解った、後は退院待ちでいいのか?」
タケシはやる気満々のようだ、仮想の敵を見据えてシャドーをしながら言った
「そうだな、後は時期を待ってくれ。オレは出来るだけ情報集めてみる」
カズは片手でも出来るのは情報収集だと弁えたのだろう、左腕を摩りながら言った
「では僕は道場で技を磨いてきます」
ヒロシも燃えているようだ、意気揚々と出て行った
「俺はユタカに話してくるよ、んじゃ」
タケシも出て行った
「ちょ、俺は?俺は何かすることないの?」
「腹筋でもしながら早く治せ、ばい〜」
そう言ってカズも居なくなった
腹筋か……よし、やってやらぁ!
「おおおぉぉぉ!!」
勢い良くドアが開き看護婦さんが入ってきた
「ちょっと何してるんですか!」
「………ごめんなさい」
ちなみにカポエラは正式にはカポエイラと言います。
ですが、実際にカポエイラをしていた友人もカポエラと呼んでいたのでそうしました。
雰囲気をふいんきって言うみたいなもんですかね。
正式名称よりもそっちの方が知れ渡っているようです。
これからも台詞の中ではカポエラと呼ぶと思いますがご了承下さい。