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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
44/113

節操の無い奴

 タケシは両手を顔の高さまで上げていつものキックボクシングの構えに戻した。

 そして一歩踏み込んでからの左のローキック。

 マサトシは打って来られると同時に半歩後ろに下がり蹴りを避け、後ろに下がった以上の速さで間合いを詰めガードの隙間からアッパーでタケシの顎を跳ね上げた。

「なんだよ、ボクシングの弱点ってのは足元の攻撃の事か?意外と素直な奴だな」

 左ジャブを数回打った後に右のストレート、的確にガードの薄い場所に打撃を加える。

 タケシも必死に反撃するが手数の差が圧倒的だ、三発打たれて一発返すのがやっとのようだ。

 すると突如パンと耳に響く音が鳴り響いた。

 タケシが目の前で手を叩いたのだ。

 一瞬怯むマサトシ、そしてタケシはその一瞬を見逃さなかった。

 猫騙しをした手を拡げたと同時に飛び膝を放ち見事顎に命中させた。

 普通は飛び膝なんて大技を顎に喰らえばその一発で戦闘不能になってもおかしくないのだがボクシングの構えが直立気味で顎の位置が高かったこと、そして猫騙しに怯み多少なりとも下がったのが原因で致命傷を避けたようだ。

 タケシはダウンしないマサトシの首を両手でしっかりと挟み左右に身体を揺らしながら膝蹴りの乱打を浴びせる。

「う……ぐ……ぐぐ……」

 膝蹴りを喰らいながら押し退けようとするが、首の後ろで両手をガッチリ組んだタケシを引き離す事が出来ない。

 そこで離す事が難しいと悟ったマサトシは逆にタケシを抱き寄せた。

「ちっ」

 軽く舌打ちをし、タケシの方がマサトシを突き飛ばした。

 突き飛ばしたのとほぼ同時にマサトシのストロークの短いアッパーが頬を掠める。

 ほんの一瞬離れるのが遅れていたら掠るだけでは済まなかったはずだ。

 タケシが距離を空けるとすかさずマサトシが間合いを詰め、この戦いが始まった頃から続けているジャブからのストレートを当ててきた。

 余程この動きを修練したのであろう事が伺える、まるで吸い込まれる様にガードの隙間に拳を滑り込ませてくる。

 打撃戦では不利なタケシがまたも猫騙しの構えで両手を広げる。

 しかし今度は両手を広げたガラ空きのタケシの胸に左肩でショルダータックルを決めた。

「そんな奇策何度も掛かるかよ」

 マサトシはそう言いながらさっきの膝のお返しと言わんばかりに肩と頭を胸に押し付けながらボディを打ちまくる。

「ゲボッ」

 タケシが肺の中の空気を全部吐き出させられたような声を上げ身体をくの字に曲げる。

 密着してのボディを続けてきたマサトシだったが、大きく体勢を崩したのを確認すると半歩下がり、踏み込む力と共に強めのパンチを放とうとした。

 しかし今度はタケシがボディ攻撃が止んだ瞬間を見計らい密着している左腕を取り、自分の全体重を乗せうつ伏せに押し倒した。

 そのまま腕を背中の方に締め上げる、脇固めだ。

「おい、ボクシング続けたいならギブアップしろよ。このままやったらぶっ壊れんぞ」

 息を切らしながらも腕は緩めずタケシが話し掛ける。

「んんん……んぁ!」

 マサトシは脇固めを極められた状態から背面越しに頭突きを放った。

 丁度鼻面に当たり腕の力が緩んだ隙に転がりながら脇固めから脱出した。

「んの……無茶な外し方しやがって」

 鼻を押さえながら憎々しげにマサトシを睨み付ける。

 一方マサトシは脱出したとはいえ左肩を痛めたみたいで辛そうに肩を押さえている。

 脇固めは本来関節技だが、立ってる高さから体重を乗せて地面に叩きつけられてはそれ以上の効果があったに違いない。

 だがマサトシはそれでも立ち上がりファイティグポーズを取る。

 数秒顔を合わせたまま動かない両者だったが、先に仕掛けたのはタケシからだった。

 中距離からのいきなりの浴びせ蹴り、勿論いくら奇を狙ったとしても当たる訳が無い。

 そしてタケシはそのまま仰向けに倒れた状態で寝ながら蹴りを出し続けた。

 見た目はちょっとアレだが想像以上に嫌がり間合いを空けるマサトシ。

「節操の無い奴だな、猫騙しに首相撲に関節技にアリキックかよ」

「これが本命だよ、ボクサーはこれが苦手なんだろ?」

 ボクサーは寝ている相手に攻撃を仕掛けられない、これは昔有名な格闘家が編み出した対ボクサーの戦法である。

「ま、そうかもな」

 そう言いながらマサトシは背を向け歩き出した。

「おいおい、まさか帰るとか言わないよな?」

 背中を向けているが寝ている為直ぐに仕掛けられないタケシが挑発する。

 マサトシは一切喋らずに机を持ち上げた。

「やべ……」

 次の瞬間、無言でその机を放り投げた。


ガシャーン!


 高く放り投げられた机は無残にバラバラに砕け散る、間一髪転がりながら机の直撃は避けたが避けた所を思い切り蹴り飛ばされた。

「うげほっ」

 壁に激突し嗚咽を漏らすタケシ。

「ちょっと甘いんじゃないか?ここはリングの上じゃないんだぜ」

「確かにな、俺の考えが甘かったみたいだ」

 ゲホゲホ言いながら言葉を返すタケシ。

「まぁでも、ちょっと思いついた事がある。節操なくて悪いがもう少し付き合って貰おうか」

 そう言い捨てると今度はなんとボクシングの構えを取った。

「お前が大した男だってのは認める。だがそれでも、……舐めんなよ」

 同じ構えを取られたのが気に入らないのか、はたまた自分の打ち込んでいる格闘技を馬鹿にされた気分なのかマサトシは今まで以上のダッシュで間合いを詰めダース単位の攻撃を仕掛けてきた。

 対してタケシの攻撃は左ジャブは避けるまでも無いのか、そのまま顔面で受け、右の大振りのパンチはしっかりと避けられて避け様にカウンターを貰う。

 今ままでは打撃戦は不利だったが、それでも数発は返してはいた。しかし今は完全にやられ放題だ。

 何を思いついたのか知らないがこれは悪手だ、堪らずカズが野次の様な声援を飛ばす。

「何を出来もしない事やろうとしてんだよ、お前ボクシングなんか知らないだろうが」

 タケシはカズを見ようともせず、またもボクシングの構えで仕掛けた。

 またジャブはわざと受け、大振りの攻撃はカウンターを貰う。その繰り返しかと思った時、事態は好転した。

 タケシのジャブで顔を打たれたマサトシが小さく悲鳴を上げた。

「目打ちか!」

 カズが声を漏らした。

 目打ちとは拳法の技の一つで目潰しの様に指を眼球に突っ込むのでは無く手首のスナップを効かせて文字通り目を打つ技である。

 この技の利点は指を眼球に確実に当てなければならない目潰しと違って、目の周辺にヒットさせれば数秒程ではあるが視覚を奪える事、目潰しに比べ難易度は格段に下がる。

 そしてもう一つは目に指を突っ込むという覚悟が必要無い点だろうか。

 プロの格闘家でも相手の視覚を一生奪うのは気が引けてしまうものではないだろうか。

 そしてボクサーとは格闘家の中でも動体視力がかなり鍛えられている。殴られている最中でも目を瞑らず自分の顔に当たった拳を見続ける程だ。

 その拳を見続ける習性がこの目打ちを喰らってしまった原因であろう。

 普段グローブを付けて戦っているだけにマサトシには想像も付かない攻撃だったはずだ。

 タケシは身動きの取れないマサトシの方足を取り、もう片方の足も払い押し倒す。

 そして右足に絡み付く様にまとわり付き関節を捻り上げる。アンクルホールドだ。

「うああぁぁぁ!」

「今度は頭突きじゃ外せないぜ、ギブアップしろよ」

「だ……れが、うぁぁ」

 マサトシは悲鳴を上げ続けタケシは徐々に力を強め右足が異様な方向に向き始める。

「やっぱギブアップはしないか、なら仕方ないな」

 タケシは諦めた表情を浮かべた。

 カズを含めギャラリー全員が目を背ける。

そして……


 タケシは立ち上がった、マサトシの悲鳴は止んでいる。

 目を背けた全員がマサトシの足は破壊されたと思った、だが事実は違っていた。

「何の真似だ、俺はギブアップした覚えはないぜ。手加減でもするつもりか?ふざけんなよ!」

 タケシは足を壊す前に技を解いたのだ。

「それはコッチの台詞だ、お前の方こそ後半足使わなかっただろうが。フットワークを使われたら俺にお前を捉える術は無かったんだよ」

「それは……」

 マサトシがタケシの右足を指差す。

「それギブスだろ、実際お前も蹴りは左足しか使って無かった。別に手加減なんかした覚えはねぇ。同じ 条件で戦っただけだ」

「なるほどな、なら俺が今技を解いたのも文句言われる覚えは無いよな。これで貸し借り無しだ。立てよ、決着付けようぜ」

 タケシは座ったままのマサトシに対し構えを取る。

 マサトシはタケシを一度見上げ、そして目を伏せた。

「いや、俺の負けだ」

 決着は唐突に付いた。

 それもゲームが始まってからの戦いで初の降参での決着だ。







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