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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
42/113

貰えるもんなら病気でも貰うぞ

 病院に到着するな否や俺はヒロシに促され、直ぐさまカズ達の元に向かった。

 たまに軽いスパーリング位はするが、さっきの様子を見るととても軽い感じでは無かったように思える。

 二人が無事なのは良かったが、この忙しい時に一体どういうつもりなのだろうか。

 曲がり角を曲がるとそこに居た二人組が三人組になっていた、真ん中に居るのはユタカだ。

 どうやら病院に向かうユタカが偶然二人を見つけ止めてくれたようだな。

 俺は小走りに三人に近付き声を掛けた。

「おい、一体どうしたんだよ?」

「ちょっとな、それよりユタカから聞いた。ヒロシに何があったんだ?」

 明らかに仏頂面のカズが質問を返してきた。

「そうだな、まずはヒロシの所に行こうか。あいつも交えてそこで話すよ」

「てことはそんな重傷でも無いんだな、取り敢えずは安心か」

「ん……まぁ喋るのは問題無いと思う」

 敢えてここではどんな状態かは話さず俺達四人は病院に向かった。


 ヒロシの病室は前俺が入院した部屋だった、町で唯一の病院ではあるが所詮は田舎の病院、部屋数もそんなに多くは無いのだろうな。

 中に入ると別れてから十分ちょっとしか経っていないのに、ヒロシは既にミイラ状態であった。

 思っていたよりもずっと酷い姿のヒロシに皆が駆け寄る。

「おい、意識あるのか?」

「しっかりしろ」

「ヒロシ!」

「うるさいな!そんな大声出さなくても聞こえてますよ」

 見た目の雰囲気で返事が返って来るとは思っていなかった三人が後ずさる。

「思ったより酷かったみたいだな、そんな包帯ぐるぐる巻きにされて」

「そんな事ありません、むしろ軽かったです。ただのヒビでした。この病院が大袈裟過ぎるんですよ」

 俺の問いにヒロシは吊り上げられた足を揺らしながら答えた。

 俺の時は完全に折れて入院だったのにギブスと松葉杖だったのだが、この差はなんだろう。

「ま、とにかくコッチは問題ありませんが、タケシ達は何してたんです?携帯も通じない上に道端で喧嘩してたらしいじゃないですか」

「ああ、そういや携帯電源入れるの忘れてたな」

 カズは悪びれする様子も無くあっけらかんと言い放った。

「何で切るんだよ……」

「そりゃ切るだろ、病院行ってたんだし」

「真面目か!今時病院で携帯切る奴何ていないから!……タケシは?」

「ああ、俺基本男の電話出ないから」

「もうヤダこいつ等……」

 泣きそうな顔のユタカである。ヒロシが大変だと走り回りながらカズとタケシにも何度も助けを求めたのだろうな。

 今ユタカがマスクを被っていたらジャーマンの餌食になっていた事だろう。

「電話は解りました、喧嘩の方はどうしたんですか?」

 ヒロシの問いかけに顔を見合わせ二人同時に言った。

「こいつが本当に馬鹿でさ……」

 また顔を見合わせる二人。

「まぁいいや、どうせならシンゴも呼んでくるから先に話しててくれ」

 そう言い残し病室を出たカズ、自然とタケシにみんなの目線が集まる。

「えーっと、まずここで診察が終わってシンゴも交えて昨日の話を聞いて……んでカズと飯でも食うかと病院を出たんだよ」

 タケシが今日の事を語り出した。


 病院を出て直ぐに女の子にぶつかって転ばせてしまった。

 その子は恐らくは高校生だろうが、この辺では見掛けない制服だったらしい。

 女の子はごめんなさいと慌てて立ち上がろうとしたが、スッと手を差しのばし助け起こすタケシ。

「良いもん拾っちゃったな、確か拾った人は一割貰ってもいいんだよな?」

「落とし主がくれるって言うならな」

 タケシの軽口に呆れ顔で返すカズ。

「あ、ありがとうございます。すいません急いでるので……」

「いやいや、こっちこそごめんね。怪我は無い?」

 手を離さずに答えるタケシ。

 するとその手を急に引き剥がされた、その女の子にでは無い。その子を追いかけて来たであろう三人組の柄の悪い男達の仕業だ。

「やっと捕まえたぜ、手間掛けさせやがって。とっとと来い!」

 三人組の一人が乱暴に女の子の左手首を引っ張る。

「おい、なんなんだお前ら」

 連れて行かれそうになる女の子をタケシが引き留める。

「お前等こそなんだ、こいつの関係者か?だったらこの女の代わりにお前がやられるか?」

「あー、別に関係ないよ。今ここでぶつかっただけだ。勝手にしてくれ」

 タケシを押し退けカズが間に入ったが、タケシは引かない。

「関係ない事あるかよ。おい、その子を離せ」

「お前な、偶然ぶつかっただけの子相手に余計な事に首突っ込むんじゃねーよ。女絡みだとすぐこれだ」

「あのな、この状況でよくそんな冷たい事いえるな。こんな不細工共に連れて行かれたらこの子どうなるか解らんだろうが」

 三人組を無視してカズとタケシがお互いの胸倉を掴みあった。

「ちっ、もういいよ。好きにしろ」

 そう言い残し、掴んだタケシの服を離しカズは三人組の間を通り過ぎようとした。

 しかし、ここまで煽って素通りは出来ない。

「おい、何お前だけバックレようとしてんだ……」

 一人がカズの肩を掴んだ瞬間、振り向きながらの右フック。こめかみを打ち抜いた。

「お、おまっ……」

 カズに気を取られたその隙に女の子を捕まえていた男をタケシが背後から殴り飛ばす。

 残った一人はたった一発づつで仲間がダウンした現状を目の当たりにして狼狽える事しか出来ない。

 そこをカズが上段蹴りで顔面を、タケシがハイキックで後頭部を同時に捉えた。

 言葉も発さずその場に座り込んだ。

「仕掛けるのが遅いんだよ」

「お前が早すぎるんだよ、大体あの場合女の子を人質に取ってる奴から狙うのが定石だろうが……っと、君平気だった?」

 さっきと同様にしゃがみ込んだその子に手を差し伸ばすタケシ。

「あ、ありがとうございます……強いんですね、助かりました」

「いやー、大したこと無いよ。一人で大丈夫?不安なら家まで送ろうか?」

 ここぞとばかりに畳み掛けるタケシ、女の子は少し怯んだ様子を見せたが思い直したように返答した。

「そうですね、それじゃお礼もしたいですし家にいらっしゃいませんか?」

 一も二もなく飛びつくタケシ、後ろでおいおいと言う顔をしているカズが目に浮かぶようだ。

 道中も二人は言い争いが絶えなかったらしい。

「タケシが女絡みで動くとロクなこと起こらないんだよな」

「だったら帰れよ、俺一人でお礼されてくるから」

「それじゃ折角さっき助けたのに台無しになるだろうが」

「どういう意味だよ、お前俺を何だと思ってるんだ」

「……スケベ」


 十分ほど歩いた頃であろうか、カズとの口論に飽きたタケシが女の子に話しかける。

「この辺じゃ見かけない制服だよね、君どこの人?」

「隣町ですよ、この辺では珍しいですか?」

「うん、見たこと無いよ。そんな可愛らしい格好してたら狙われちゃうのも当然かもね。そういや何であんなのに絡まれてたの?」

タケシの質問に若干表情を曇らせたが、無理に作った様な笑顔で答える。

「全然わかんないです、急について来いって言われて怖くて逃げ出したんです」

そこでカズも会話に参戦してきた。

「君さ、この辺の子じゃないんだよね?さっき家って言ってたけどどこに向かってんの?」

「あ、えーっと……こっちに仲良くしてる友達がいるのでそこに行こうかと」

「なるほど……」

「おー、友達もいるんだ。その子も可愛いの?」

 とことん疑うカズと能天気なタケシ、対象的な二人である。

「この先ですよ、もうすぐそこです」

「楽しみ楽しみ」

 先に進もうとする陽気なタケシの肩を掴み動きを止めるカズ。

「友達の家も近いんだよね、もう一人で平気だよな?オレ達やっぱ帰る事にするよ」

「え、もう本当にすぐそこですよ」

「おい、カズ……」

 物理的にタケシの口を抑え黙らせるカズ。

「いや、お礼何てされる程の事でも無いし気にしないで。それじゃ気をつけてね」

 タケシの首の後ろを掴み引きずる様に来た道を戻り始めるカズ。


「汚ねぇな、そうやって自分はガツガツしてないんだアピールして次に会った時に襲い掛かる作戦だな?」

「んな事考えるか!あの子おかしいだろ、あの辺民家なんか無いはずだぞ。林の中には別荘くらいあるだろうけど、この時期に避暑地に来る訳無いんだし」

 暫く歩いた場所でカズとタケシが話し込んでいると、不意に叫び声が聞こえて来た。

 間違いなくさっきの女の子の声だ。

 走り出そうとするタケシを引き留める。

「落ち着けよ、絶対おかしいって。こんなの罠に決まってるだろ」

「罠がどうした!俺は女の子から貰えるもんなら病気でも貰うぞ!」

「あのな……」

「M高の万年発情期男の名に恥じない俺の生き様をみせてやる!」

 そう言い残すとタケシはカズの手を振りほどき叫び声の方向に走り出した。

「いや、その名を恥じろよ!」

 カズは目一杯突っ込んだがそこにはもうタケシの姿は無かった。




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