四天王襲名
「偽猫に偽イクオに……さしずめそのトモノリって人は偽物のナオさんて所ですかね」
トモノリは俺の名を騙った訳では無いが、俺の代わりにトシキを倒したと吹聴したのだからそういう事になるのかな?
「更にジャッジメントに裏ルール、ついでにカズの過去話。昨日は盛りだくさんだったんですね」
完全に他人事の様に俺の話を聞いて楽しんでいるかのようなヒロシである。
今日はカズは全身打撲で病院に行ったらしく学校を休んでいた、タケシも足の事で病院に行くので向こうで落ち合い一緒にシンゴの見舞いに行ってくると言っていた。
きっとカズも今頃タケシとシンゴを相手に同じ話をしている頃だろう、俺はカズもいないので直接M高に赴きヒロシに昨日の話をしに来たのだった。
今日のヒロシは眼鏡を掛けている、きっと学校では掛けているんだろうな。ヒロシはその眼鏡を中指でクイッと上に上げながら言う。
[後気になるのはそのオッサンの言う僕とカズがジャッジメントの候補とか……生憎僕も思い当たるフシはありませんね。そもそもオッサンの知り合いなんて居ませんし」
カズと同じ感想か、やはり向こうが勝手に何らかの条件を見出して二人に目をつけたって事なのだろうか。カズとヒロシに何か共通点があるのかも知れないがサッパリ思いつかない。俺は考えても答えの出そうに無い問題を先送りにし、話題を変えた。
「ユタカはまだ戻って来ないのかな?」
「うちのレスリング部は苛酷で有名ですからね、一度ランニングに出たら一時間は戻ってきませんよ」
ヒロシは校門前の花壇のレンガに腰掛けながら空を見上げて呟いた。
まだまだ冬は真っ盛りだが空は青く日差しも暖かい。夜はそのまま気を失ったら二度と目覚める事はないんじゃないかと言うほどに寒いのだが昼間は過ごしやすい気候である。
俺もヒロシに釣られて何気なく空を見上げるとふっと視界が遮られた。
「だ~れだ?きゃはは、何してんの?人の学校まで来ちゃって」
振り返るとそこには姫が立っていた、ヒロシ達のクラスメイトだったな、居ても不思議じゃないか。
「ナオ君達またやらかしたみたいね、昨日の事もうニュースになってるよ。あんた達見てるほうが月九ドラマみてるよりずっと面白いわね」
口元に手を置いてケラケラと元気良く笑う姫。俺は人生初のだーれだをされた喜びを悟られない様に冷静に聞いた。
「昨日は確かに色々あったけどニュースって?」
「外部サイトの掲示板でね、ユタカ君以外の四人とキゾクのシンヤって人がウォンテッドされてるよ。一人十万だってさ、誰が出すのか知らないけど」
あっけらかんと衝撃発言をする姫。
「えええ、僕もですか?何で?昨日は参加してないのに……」
「きっとチーム猫が狙われてるんだろうね、ユタカ君は顔隠してるんでしょ?賢いよね、きっとこうなるって解ってたんだ」
ユタカの覆面は別にそんな意味じゃなくアレが無いと戦えないだけなのだが……それは置いといて猫が狙われるだけでなくシンヤってあの赤髪もか?どういうことだろう。
姫が俺の疑問を感じ取ったかのように説明してくれた。
「今日の朝カキコミされてたのはね、昨日の夜トシキとタイマンをした。負けはしたがあいつは俺を認めキゾクを任せると言ってくれた、本日よりこのシンヤがキゾクを仕切るって、あったのよ」
ふむふむ、事実そうだったな。タイマンして相手にもならなかったけどそれでも認めると言ってはいた。
「当然そんなの嘘だ、信じられるかって反感もあって一番許せないって思ってるのがトシキがキゾクを抜けた後に派生してできた別チームの人達なのよ。トシキの名を継ぐのはおれだ~って言いたいわけ」
ふんふんと頷く俺とヒロシ。
「小さいのも入れるともっと沢山に分かれてると思うけど、その中でも大きいのが三つあって、一つはキゾクをまだ名乗ってるシンヤって人の所ね。もう一つはメタルロッドって所、アタマはシュウジって人らしいよ」
シュウジって確か一回戦の時カズと戦ってた奴だったか?副総長とかトシキが言ってたような……
「そして最後の一つがハウンドドック、通称猟犬って呼ばれてる人達のチームだよ。そこは誰がリーダーって決まってる訳じゃなく自分が一番強いって思ってるのが集まっちゃった所みたいね。んでその猟犬を筆頭に元キゾクメンバーはシンヤをやればウチが一番だーってなっちゃったみたい」
うーん、納得は出来るがそれなら何で猫まで狙われる羽目になったのだろうか、こう言っちゃ悪いがやるなら俺達の関係ない所で目一杯やって欲しいものだ。
ヒロシも同じ事を思ったようで姫に聞いた。
「そこまでは解りましたが、その話の流れで何で猫まで狙われたんでしょう?」
一呼吸の沈黙を置いて姫が答えた。
「あれは確実に煽ってる奴がいたね、そもそも何故トシキはキゾクを抜けた?トシキをやったのは誰だ?チーム猫ってのはどこのどいつだ。流れるように話が進んでいったもん。一人で二役も三役も演じてそう話を持って行った人がいるわね、確実に」
そう聞くと思い当たるフシがある、昨日の事に詳しくて猫に恨みをもったのが……偽イクオかトモノリか、あるいは両方だろうか。
「完全に僕はとばっちりじゃないですか。ナオさん、ネットなんて出来なくなるくらいにちゃんとトドメ刺しといてくださいよ」
ヒロシが頭を抱え込んだ。
その言葉に少なからず後悔した。確かにあの偽イクオはゴミクズで相手にする価値は無い人間だったが、怖いという記憶を叩き込む程度にはシメておくべきだったか。
そして姫は立て続けに話を付け足した。
「んでそのカキコミから四天王も代わっちゃったのよ、新四天王襲名おめでとう。ナオ君。こんなに大物になるんだったら優勝も夢じゃないね、バックだけじゃなく洋服もねだっちゃおうかな~」
姫は身体をくねらせながら甘えるような目で見上げてきた……え、新四天王?俺が混乱していると代わりにヒロシが代弁してくれた。
「え?ナオさんが四天王になっちゃったんですか?どうしてそんな事に」
「どうしても何も四天王の一枠はトシキを倒したトモノリって人がなってたでしょ?その人が嘘吐きで本当に倒した人が出てきたなら当然そうなっちゃうでしょ」
言われてみれば当然なのかもしれないが急にそんな風に名が売れる事になるなんて……確かに思い返してみると今日学校でクラスメイトの何人かはよそよそしかったような気がする。
「異名みたいのもあったよ、鬼のトシキ、神童イクオ、帝王ワタル、んで鬼殺しのナオだってさ、かっくい~」
キャハハと笑いながら語る姫、俺は急な襲名で怯む反面嬉しくもあった。こんな有名人になるのなら彼女とかできるかもしれない。
「これから大変そうですね、ナオさん」
俺の内情を知らないヒロシがぽんと肩に手を置いた。俺は喜んでいるのを悟られないように、まあなと曖昧な答えを返した。
そんな会話をしていると俺達の前にけたたましい音を立てたバイクが数台停まった。高校の校門前に停めるにしてはかなり趣味の悪いバイクだ。乗っている奴等も明らかにソッチ系の人達である。
「ようヒロシ、こんな所にいるとはな。中に探しに行く手間が省けて良かった」
その中の一人がヘルメットを取りながらヒロシに話しかけてきた。
「マサミチ君……久しぶりですね、もう学校には来ないと思ってましたよ。復学するんですね?」
「いや、生憎と学校に用事があって来た訳じゃねぇよ、用事があるのはお前だ、ヒロシ。お前の身柄預からせて貰うぞ、一緒に来い」
マサミチと呼ばれた男はヘルメットをバイクのハンドルに引っ掛けヒロシに近付いて手を掴んだ。
「何なんですか急に、そんなの素直に行く訳がないでしょう?大体学校にも来ないでこんな人達と一緒になって何をやっているんですか!?」
ヒロシは握られた手を振り払った。
「こんな人達なんて言い草ないだろうが、コイツ等は俺の友達だよ。今俺はハウンドドックってチームにいてな……知ってっか?」
振り払われた手をポケットに突っ込みながらマサミチが語った。ヒロシは無言でマサミチを睨み返す。
「ま、いいさ。お前が素直に言う事聞くとは思ってないしな。実力でやらせてもらうぜ」
ヒロシとマサミチは顔がくっつきそうな距離で睨みあっている。