一年前
S中に戻ると校門前でいつもの様に腕組みをし空を見上げるエックス。その横で道路の真ん中で大の字になって倒れているシノ、校門にもたれ掛かって座っている……確かヒロキとケイスケと呼ばれていただろうか?二人が座っていた。
「エックス、無事みたいだな」
俺は堂々と空を見上げているエックスの背中に声を掛けた。
「ナオか、リョウコ嬢も一緒という事はそっちも無事に済んだようだな」
エックスはゆっくりと振り向きながらリョウコちゃんを確認しそう答えた。
「シノさん、大丈夫ですか?しっかりしてください」
倒れているシノに駆け寄り声を肩を揺らしながら声をかけるユイ、目は開いているし意識を失っている訳では無いようだ。
「心配するな、手加減はしてある」
「お前がやったんかい!」
エックスの何の悪びれも無く言った言葉に即座にカズの突込みが入った、これにはユイ達も苦笑い。
「ふ……ざけやがって……次はねぇからな……」
息も絶え絶えに声を絞り出すシノ、本当に手加減したんだろうな。
「相変わらずいい根性だ、この辺の奴等の掃討が終わったら返す刀で私に向かって来たぞ」
「ま、みんな無事で何よりだ。寒いし眠いし帰るとするか」
カズがポンと膝を叩き立ち上がるとユイがそれを呼び止めた。
「カズさん、今日は有難う御座いました。それで……あの……」
「なんだ?どうした?」
巧く会話を切り出せないユイにサトシが助け舟を出す。
「ユイはさっきのトシキって人とどんな関係なんだって聞きたいんだよ。ユイだってそんなに鈍くは無い、あの人がキゾクのトシキって事くらいは勘付いてるぞ」
「ん、まぁ隠してるつもりもないしな」
「ユイの目的は不良を全滅させる事だ、んで当然その頂点に立つ奴は最終要目標だ。カズさんがキゾクに入ったのも奴に脅されてとか考えていた、だけど今日のカズさんとのやり取りを見てそんな感じにも思えなかった。ユイはトシキって人を敵と認識して良いのかと聞きたいんだ」
サトシの代弁を聞きユイも補足した。
「更に今日はあの人は恩人でもあります、幾ら狙っていた首だとしてもあの場で剣を向けるような無礼な真似はできません。ですがこれは僕のケジメでもあります、次出合った時は僕はどうしたら……」
「ちょ、ちょっと待て。キゾクのトシキってあのトシキさんか?そんな大物も一緒に居たのか?」
シノが倒れた体を半分起こし興奮気味に聞いてきた。
「お前も知ってるのか?」
「知ってるも何もこの町に住んでて知らないほうがおかしいだろ。悪の巣窟キゾクを纏め上げた男にして四天王の一人……あ、そっか今日のトモノリって奴がトシキさんを倒して四天王に登り詰めたって話だったな。じゃあそのお礼参りで今日来てたんだな?」
サトシの質問も軽く受け流しながら、シノはトシキの姿を想像し更に興奮を高めていった。
「あ、あのトモノリってのは偽者だぞ。自分がキゾクをやったって言いふらしてただけの雑魚だ」
カズがアッサリとシノの妄想を断ち切る。
「ついでにあのイクオ君も偽者だぞ、あんな肉の付き方は似ても似つかん」
エックスの発言にカズはやっぱりという表情になった。確かにあんなのが神童と呼ばれる筈も無いか。
「そ、そうか。そうだよな、あのトシキさんがタイマンで負けるなんて事自体おかしいと……」
「ああ、それは本当やったのはコイツな」
カズが俺を指差しながらシノの妄想をまたもアッサリと断ち切る。
「ちょ、それ言っていいのかよ。秘密にしておくんだろ?」
俺は当然の反応でカズを問い詰めた。シノは俺を見ながら固まっている。見ると後ろのヒロキとケイスケも驚愕の表情で俺を見ていた。不良に取ってトシキのネームバリューは相当のものなんだろうな。
「仕方ないだろ、今日の一件でかなりの人数がオレ達がゲームでキゾクに勝ったチーム猫だとバレちゃったんだし……どうせ数日中には町中に広まるだろうな」
カズはどうしよと呟きながら項垂れた。言われて見ればそうか、その事実を知ってる中にはトモノリだっているんだしな。あの嘘吐き男がどれだけ話を盛るかと思うと頭が痛くなる。
「こんな一番地味な先輩がトシキさんを……信じられねぇ……」
シノは口を開けたまま、まだ俺を見ている。一番地味ってなんだよ。
「んで、話が反れたがオレとトシキさんの関係か?ガキの頃から付き合いのある先輩だ。それだけだよ」
「そんな事を聞いているんじゃありません、一年前あの人と何が合ってキゾクなんかに入ったんですか」
カズの少しずれた言葉にピシャリと軌道修正を施したユイ、それを聞いてカズは一年前の出来事を語り始めた。
一年ほど前、当時俺達は中学三年生。もう数ヶ月で高校受験を控えたカズだったが、それよりもずっと深刻な問題を抱えていた。
ここS中学の回りには、他に三校の中学校があり計四校が割と近場に立ち並んでいた。当然近いとは言え一駅二駅は離れているのだが……
当たり前の様にどの学校にも不良はいる、そしてまた当たり前の様に校外で出会うと喧嘩に発展もする。それだけなら極々当然の風景であり特別問題視する事では無いのだが事はそれだけでは収まらなかった。
四校それぞれが対立し合いついには一般生徒、更には女生徒までもが傷害を受ける事態にまで発展し、カズの通うS中の生徒も同じ事をやり返す泥沼化状態と化していた。
それを聞いた一般生徒は学校に来なくなり学級閉鎖も度々行われていたようである。警察沙汰にはしたくない学校側もやむなく停学処分を言い渡したり集団下校を徹底したりと防護策を講じるが全く役には立っていない。停学も集団下校も中学生にしては異例の事だがそれでも焼け石に水状態であった。
今年の学生が卒業すれば事は多少鎮圧されるかと考えられ、なるべく刺激をしないように時が経つのを待っていた在る時、事態は急激な変化を見せた。しかも最悪の方向に。
何の脈絡もなく他の三校が手を組みS中の生徒達が一方的に狙われる事になったのだ、カズは今でもその原因は解らないらしい。
三校が手を組みだしてから一週間もせずS中の不良達は一掃され、最後の防衛とも言われる人間がやられてしまい最早歯止めは効かなくなっていった。
授業中にも他校の生徒が暴れ回り、教師の車なども壊され……これは今年の卒業まで待つ事なんて出来ないと感じたカズはそこでやっと動き始めた。
生徒会長として、自分の最後の仕事はこの事を鎮圧する事だと感じたらしい。……え?生徒会長?
「は?お前生徒会長だったの?」
話の途中だったのだが思わず声が出てしまった。
「どこに喰いついてんだよ、そこはどうでもいいだろうが」
どうでも良いっちゃあ良いんだが。何とも似合わない……エックスを見るとカズを指刺しながら爆笑していた。
「俺がカズさんと出合ったのもその頃だったんだろうな。初めて出合った時俺は他校の不良に絡まれて殺されてしまうんじゃないかと思っていた所をカズさんが助けてくれたんだ」
今度はサトシが喋り始めた。
「何だよ情けねぇな、お前ならそこらの不良に負けないだろ?」
俺はサトシの意外な告白に横槍を入れた。するとサトシは首を振って答えた。
「あの頃の俺は武道経験どころか友達と殴り合いの喧嘩すらしたこと無かったですからね、人に殴られるのも怖かったけど殴るのも怖かった……」
そんなもんかもしれない、程度にもよるが生まれて初めての喧嘩は重要だ。人を殴る、この行為を一回もやっていない人間はいざという時に動く事は出来ないだろう。
「ま、そんな時カズさんに助けられて、それから頻繁に部活中のカズさんに会いに行くようになったんです」
そしてサトシが語り始めた