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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
32/113

粛清

「ごめん、ごめんなさい!もう許してください!」

 キャンキャン喚くトモノリを一発殴ったらもうこの様だ。しかもダメージを狙った殴り方ではなく、上から脳天を振り下ろす形の……いわゆる親父のゲンコツの殴り方だ。

 後からダメージが残るわけでもなし、脳震盪を狙ったわけでもない、ただただ痛いだけの攻撃である。そんな一発を喰らっただけで殴られた頭を押さえながら土下座している、コイツ本当に駄目な奴だな。何でこんな所まで来たんだろうか。俺はあまりの情けなさを見て哀れになってしまった。

「もういいよ、少し静かにしてろ。今からあっちが始まるから」

 俺は小屋の真ん中で指をポキポキ鳴らしながら赤髪に近付くトシキと、そこから奥に見えるカズとフードの男……偽イクオに目をやった。

 すると目を離した隙にトモノリの方からガコッと鈍い音がした。振り向くとそこには土下座をした顔面を下から蹴り上げるサトシの姿があった。

「先輩は良いかも知れませんが俺は納得出来ませんね、要らないんなら俺が貰いますよ」

「ぞ、ぞんな……」

 蹴り上げられた顔面から涙と鼻血を垂らしながら俺に助けを求めるような目で見るトモノリ、だが知った事じゃないな。俺は無言でカズ達の方に目線を戻しサトシに後ろ向きのまま軽く片手を挙げた。

「うわああぁぁぁ」

 俺はトモノリの悲鳴を尻目にカズ達を見つめた。


「俺には勝てませんよって言ってるのに無駄な事する人ですね、今からでもアッチの人と同じように土下座でもすれば見逃してあげますよ?」

「さっきからグチグチと……お前の勝てないってのは口喧嘩の事か?良いからとっとと始めるぞ」

 トモノリとは違い全く動じる様子も無く、そして動こうともしないイクオに業を煮やしたカズが間合いを詰めようとした。珍しいなカズから仕掛けるのは。アイツは相手の動きを見て考えるタイプなんだが、余程ムカついてるらしいな。

「おっと待ってください、始めるって何をです?俺は喧嘩とか下らない事はしないんで」

「…………は?」

 イクオの余りにも意外過ぎる言葉に明らかに動揺し、タイミングを逃すカズ。実際ちょっと躓き掛けた。

「え、じゃあ勝てないってのは本当に口喧嘩でって事?」

 振り上げた拳の目標が急に無くなりオロオロしだすカズ。

「いえ、普通に喧嘩しても俺には勝てませんよ。ただそんな下らない事はしないってだけで」

 カズは腰に左手を当て、右手で頭を掻きながら言う。

「えっとつまり、君は喧嘩したら強いんだけど喧嘩はしたくないと」

「したくないってより貴方の為を思って言って上げてるだけですけどね」

 カズは溜め息を一つ吐き大股でイクオとの間合いを詰めながら言った。

「ああ、もう良いよ喋らなくて。黙って殴られてろ」

 カズが射程内に入った辺りでまたイクオが喋りだした。

「ちょっと待てって……」

 そう言いながら金的を蹴ろうと足を振り上げるイクオ。だがそんなもの当たる訳が無い。カズは足を内股にし蹴りを両足でガードした。見た目はちょっと格好悪いがこれも空手の防御法の一つである。

 本来金的というものは生まれた時から防衛本能が働き自然と守ろうと身体が動いてしまうものだ、目に何か飛んできたら咄嗟に目を瞑ってしまうのと同じ本能である。勿論フェイントを入れて虚を突いたり人の反応よりも早いスピードで攻撃すれば当たるが。

 あの偽イクオにはそんな技術は無いし、油断でもしているならまだしも間合いに入って警戒している人間の金的をいきなり蹴り上げるのは幾らなんでも悪手すぎる……

「今のはわざと受けられるように手加減してあげたんですよ、もう辞めといたほうがいいのが解ったでしょう」

 喋り方は余り代わってないが少し焦った感じがする、本人は当てる気で行ったのに余裕で止められちゃったからな。カズもさぞ逆上しているだろうと思ったら今度はカズが意外な事を言い出した。

「いいや、もう辞めておこう」

「やっと理解したようですね、逃がしてあげるからもう行っても良いですよ」

 イクオが手でシッシと払いのける真似をしてカズが背を向ける。そこで我慢していたユイが叫んだ。

「何言ってるんですかカズさん!ふざけるのもいい加減にして下さい!やるって言ったりやらないって言ったり。もういい、どいて下さい。僕がやります」

 ユイがカズを押しのけ高台に上がろうとするが、カズはその肩に手を置きながらイクオに背を向けたまま言った。

「お前さ、誰かに殴られた事どころか誰かを殴った事も無いだろ」

 カズの一言に言葉を詰まらせるイクオ、どうやら図星のようだな。

「その辺には色々武器も落ちてるし、オレはお前に背を向けたままだ。もしお前自身が掛かって来るなら少しはお前を認めて相手してやるよ。どうする?」

 カズは背をむけたまま続けた。

「み、みなさん聞きましたか?この人はどうやら背を向けたままらしいですよ!みんなで一気にやっちゃってください!」

 その言葉を聞いて動く奴は一人も居なかった、そしてしばしの静寂の後カズが呟く。

「こんな奴に一瞬でも本気になった自分が情けない……何でこんなゴミに……」

 項垂れながら高台に腰掛けトシキの方に目を向けた。当然高台の上に居るイクオは完全に死角だが、もうカズは視界に入れる気すら無さそうだ。

 ユイもそれをみて剣を収めた、ユイの中でも嫌いとい感情から軽蔑に変わったようである。


「ま、あんなもんだろうな。シンヤ、お前は気が付かなかったのか?アイツの程度に」

 トシキはイクオを見ながらこれくらい読んでいたと言わんばかりに左手をポケットに突っ込んだまま赤髪に喋りかけた。トシキは余裕で息すらも切れていない。対して赤髪は顔面流血で目も片方腫れ上がって明かない様子だ。相変わらずの化け物だ。

「大物ぶりやがって……いつまでも見下してんじゃねぇよ!ぐっがっ」

 そう言いながらトシキに突っ込むが当の本人は気にもしない感じで右手一本でパンパンとリズムに乗って赤髪を滅多打ちにする。

「見下してなんかいねぇよ、実際大したもんだ。ここ数年で俺に殴りかかって来たのは十人もいないぞ?その中の一人だ、胸を張れよ」

「それが見下してるってんだよ、大体ここ数年十回も喧嘩してねぇってのか!そんなはず無いだろうが」

「いや、俺がやる気になるとみんな下向いて棒立ちになるんだよ。喧嘩になりゃしねぇ。立ち向かってくるだけお前の事は十分認めてやるよ」

 なにコノヒト。何で喧嘩の相手が下向いちゃうんだよ。覇王色の覇気でも使えるのかよ……

「くっそがぁぁぁ」

 ヤケクソになり赤髪が拳を振りぬく、トシキはそれを避けながら自分の拳を赤髪にぶつけた。ボクシングのクロスカウンターってやつだろうか。赤髪は結局一発も掠る事さえせずに沈んだ。

「なあシンヤ意識はあるよな?お前の事を認めるって言葉に嘘はねぇ、キゾクを潰す気が無いならお前が後を継げ」

「う……ぐ……」

 仰向けで倒れながら上半身だけを起こしトシキを見上げる赤髪。顔はこれ以上無いくらいにボロボロだが、どこか嬉しそうに見える。

「だが一つだけ忠告しておく、所詮俺達はクズの集まりだ。クズを仲間にする事は当然だ」

 そう言いながらさっきまでサトシにボコられていたトモノリを見る。

「だがな、クズ以下のゴミとまでつるむのは辞めておけ。女を傷付けようとする奴にクズの資格はねぇ」

 今度はイクオに目を向けそう続けた。それを聞いたか聞いてないのか、赤髪はガクッと地面に沈んだ。

「ブラボー、めでたしめでたしだね。お疲れ様でした」

 それまで沈黙を続けジッと俺達を観察するように見ていたオッサンが手を叩きながら賞賛してきた。

「オッサンまだ居たんすか、ならついでにいくつか質問してもいいですかね?」

 カズが座ったままオッサンに目を向け軽く話しかける。

「あー、それは無理なんだよ。一応契約ってのがあってねぇ、君達の質問には答えられない。どうしても聞きたいことがあるならソッチのトシキ君にでも聞いてみたらどうかな?」

 オッサンの言葉にみんなトシキに目を向ける。

「トシキさんもオレ達の聞きたいことを知っている……と?」

「多分ね、トシキ君は前ジャッジメントに迎え入れようとスカウトしに行った事があるんだ。その時に色々とね」

 カズの問いにオッサンはへらへらとしながら答えた。

「良いのかよ、契約では他言無用じゃなかったか?」

「いいんじゃね?仲間になると確約させる前にうちの上司がベラベラ喋っちゃったんだし。そこから情報が漏れるのは俺じゃなく上司のミスでしょ」

 今度はトシキの問いにオッサンが答える。そしてトシキは俺達を見回してから一言。

「別に黙ってる義理もねぇが教えてやる必要もねぇよ。アンタも話す気がないならとっとと帰ったほうがいいぜ。そいつ等しつこいからな」

 そう言葉を残しトシキはドアに向かって歩いていこうとした。

「帰りたいのは山々だが俺も用事は済ませちゃわないとね」

「……用事だと?」

 トシキはそう聞き返すとドアへ向かう足を止めた。

「ああ、最初に言っただろう?粛清する……ってな」



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