急ぐぞ
「お前、何でここに?シンヤさん、コイツがチーム猫のトシキをやった奴です!」
小太りが俺を見て叫ぶ。
「なんだと、こんなガキがトシキにタイマンで勝ったってのか?」
赤髪が俺を値踏みする様に見た瞬間、意識を俺に向けた隙を狙ったかのように何時の間にか右手にトンファーを左手には茶髪が持っていた木刀を持ちサトシが赤髪との間合いを詰めていた。
「うっ……がっ」
サトシの一撃は何とかガードしたが、サトシが仕掛けたのとほぼ同時に出したユイの蹴りをまともに喰らった赤髪。
「ナオ?お前が本物の猫だって?そんな……」
トモノリが俺を見て信じられないと言う表情で立ち尽くす。
ユイは赤髪に蹴りを入れた反動を使って前にダッシュ、狙いはシノ達の前にいる三人の様だ。サトシからひったくる様に受け取った木刀を脇に置き居合いの構えのまま間合いを詰めた。
「このガキ、舐めてんじゃ……ぐぁ」
ユイを目で追った赤髪は今度はサトシの一撃を脇腹に喰らった。ユイは赤髪には目もくれず、そのまま居合い抜きを一閃。横腹にめり込み小太りは言葉も発さずに地面に倒れこんだ。
「クソが。おい、みんな集まれ!作戦変更だ、全員でこいつらやっちまうぞ!」
見回りをしていたキゾクのメンバーが赤髪の叫びに気が付き集まってきた。
「ん?何で四人しか来ないんだ、十人は配置しといた筈だろうが。とっとと全員呼んで来い」
そう言いながら集まって来た内の一人を蹴り飛ばす赤髪。
「それが、あっちにマスクの男が現れて暴れ回ってたんですよ。今やっと取り囲んで……」
「なんだそりゃ?そんなもん直ぐに片付けてこっちに来いと言ってきやがれ!」
赤髪は同じ奴をもう一度蹴り飛ばし伝令に向かわせた。
エックスの読み通り数を減らして、ついでに陽動までやってくれたみたいだな。だが取り囲んだとか言ってたな、幾ら何でも多勢に無勢か。急いでコッチを片付けて助けに行かないと……
「おい、アジトの方はどうなってんだ。イクオ!」
「さっきから電話してますが出ませんね、ここは任せてアジトに戻りましょう。向こうの状況は解りませんが人質さえ取り戻せばこいつらはまたただの木偶人形に逆戻りです」
イクオと呼ばれ返事をしたのはやはりフードの男だ、エックスはここにイクオは居ないと言ってたが……
「おい」
赤髪はサトシに注意を払いながら会話していたが背後から忍び寄っていたシノに対しては全くノーマークだった様だ。
急に声を掛けられ振り向くと、そこにはシノ得意の催涙スプレーが待っていた。
「くたばりやがれ」
しかもそれだけでは終わらずスプレーの噴射口にライターを当てる。
ゴオオオオオォ
「ぐああああ!」
叫び声を上げながら雪の残った地面を転がる赤髪、炎の威力は凄かったがそう簡単には燃え移らないもんなんだな。
「このガキ何て事しやがる」
「そんな奴等はどうでもいいです、早くアジトに戻りましょう!」
「くそ、お前等はコイツを片付けておけよ」
さっきまで見回りをしていた奴等にそう吐き捨てる様に言うと後ろに走り出した。
「お、俺も!」
トモノリも逃げるように着いて行った。
「ナオ……先輩でしたよね?カズさんの仲間の。貴方の言葉を信じて反撃しましたが、本当にリョウコは無事なんですか?状況を教えて下さい」
ユイが肩で息をしながら聞いてきた。
「リョウコちゃんはカズが何とかしてくれた、今はもう無事な筈だ。けど今の奴等が向かってどう転ぶか解らん、追った方が良いだろうな」
「さっきコイツ等がマスク男がどうとか言ってたが、ひょっとしてあの野郎も来てんのか?……ですか?」
シノも怪しい敬語で聞いてくる。
「ああ、もう気が付いてるだろうが、この辺一帯は敵だらけだ。エックスはそいつらの相手をしてくれてる」
「ユイ、ここは俺達に任せてアジトってのに向かえ。そこにお前の女もいるんだろ」
俺がエックスの事を教えるとシノはユイに指示を飛ばした。
「ここは任せてだ?そう簡単に通すとでも思ってんのかよ」
そう言えばまだ残ってたな、さっきまで見回りしてたのが三人。
「ヒロキ!ケイスケ!まだヘバッてないだろうな?」
「当たり前だ、やられっぱなしで黙ってられるかよ」
「しっかりお返しさせて貰う……」
先程シノと共にやられてた二人がヌッと立ち上がり後ろから殴り飛ばす。
いきなり両サイドの仲間が倒れ慌てる男をシノが鳩尾を蹴り上げる。
アッと言う間に三人が片付いた。
その様子を見てここは任せられると確信したのか、ユイが話し掛けてきた。
「ナオ先輩、アジトって何処なんですか?案内お願いします」
俺が任せろと言おうとするとサトシが口を挟む。
「ユイ、お前発信機持ってるだろうが!急ぐぞ」
「そ、そうか。そうだった。行こうサトシ」
案内して見せ場を作るつもりだったのだが、発信機のせいですっかり予定が狂い、ボーッと立っているだけになってしまった俺。
そんな俺を見兼ねてか、シノが声を掛けてくれた。
「ナオ先輩、あんたは?」
「あ、俺もアジト側だ。エックスの事は頼むぞ」
エックスも気掛かりではあるが、やはり最優先は人質奪還だ。シノの問いにそう答えユイ達の後を追い走り出した。
しかし、カッコよくこいつらを助け出して恩でも売るつもりだったがイマイチ目立って無いような……
そんな事を思いながら俺はユイを見失なわないようにスピードを上げた。