マジか
「この坂登ったらS中だ、凍った坂道を自転車で行くのもキツイしここからは歩くか」
その日の夜、カズの家に一度集まり三十分程掛けてS中学校に辿り着いた。結構遠いんだな。
「ちょっと遅れちゃったな、早く行こう」
ユタカが俺達を急かす。
坂を登り切り、目の前に広いグラウンドが飛び込んできた。
「校門はあっちの方だ、行こう」
カズが外灯のある方向を指差し歩こうとすると、何者かに呼び止められた。
「おい、お前等。今日はここから先は通行止めだ。とっとと帰れ」
振り返ると見るからにヤンキー面の二人組が立っていた。こっちは三人だってのに随分高圧的だな。思わず腹が立って言い返してしまった。
「なんだよ、テメーら。そんなもん命令される覚えはねえぞ」
「なんだと、てめ……」
「ナオ、いいから」
二人組がこっちに向かって来た所でカズが間に割って入って来た。
「あの、自分等ゲームの観戦に来ただけなんすけど駄目ですかね?」
「そのゲームの観戦が駄目なんだよ、大人しく帰れ。な?俺だってお前等みたいなガキの相手したくないんだよ」
「そっスか、残念ですけど帰ります。それじゃ」
カズはアッサリと諦め二人組に背を向け歩き出した。
「おい、良いのかよ。折角来たのにこんな簡単に引き下がって?相手は二人だし簡単にやれるだろ」
俺は小声でカズを止めようと話しかけた。
「別に引き下がるつもりも無いさ、わざわざ揉める必要も無いと思っただけだよ。校門に行く方法なんて幾らでもあるんだ。それに二人だけじゃ無いみたいだぞ。ほら、あっちにもこっちにも……」
見ると二人組のグループがいくつか彷徨いているようだ。
「ついでに今の二人はキゾクのメンバーだったぞ」
「どういう事だ?キゾクはチーム猫を狙っているはずだろう。何で今試合をしてる猫を襲いに行かないんだ?」
ユタカの問いにカズが答える。
「わからん、だが益々きな臭くなってきたな。ここからは声出さずに行こう、植え込みの中を匍匐前進で」
校舎の裏手からプールの横を抜け、中庭を通りあっという間に校門に到着した。流石この中学に通ってただけの事はあるな。勝手知ったるって奴か。
植え込みの中を這って通り抜ける。さむっ、今日は降って無いがまだ雪が地面に残っている。
植え込みから三人が顔だけぴょこんと出す、こりゃ観戦するには最高の場所だな。
すぐ近くの外灯の下にユイ達が見えるし、向こうからは暗闇でこっちの確認は無理な筈だ。
だがそこには予想に反した光景が広がっていた、あのユイ達が一方的にやられている。
茶髪のロン毛の男がユイから奪ったであろう木刀を屈み込んだユイに振り下ろす。
その奥では小太りが倒れたサトシを踏み付けている。
更にその隣では赤髪の男がシノと他二人を殴りつけている。あの二人組は知らないが状況からしてリョウコちゃんを外し、新たに二人をチームメイトに迎え入れたのだろう。
あ、トモノリもいやがる。あいつはアッチコッチに移動しながら倒れている相手に対して踏んだり蹴ったりしている。
一番奥にもう一人フードを被りポケットに手を突っ込んだ奴が立っている、他の奴等はヤンキーぽいし神童と呼ばれるタイプには見えない。消去法であれが噂のイクオ君か?
「アイツ等何で反撃しやがらないんだ」
ユタカが口惜しそうに呟く、確かにそうだ。いくら相手が強かったとしてもユイ達がここまで一方的にやられるとは思えない。
「あの小太り、一回戦でトシキさんが連れてきてエックスが倒した奴だよな?」
カズが小声で俺達に聞く、言われてみればとこかで見覚えがあるような。
「ああ、ついでにあっちの茶髪ロン毛もあの時ヒロシにやられた奴だ」
ユタカが答える。
「キゾクを潰したと吹聴してる奴と本当は誰か潰したか知ったる奴が組んでるのか、なんとなく繋がりが見えてきたな」
カズが冷静に状況を判断する。
すると、そこで我慢の限界を超えたのかシノが立ち上がり赤髪に襲い掛かろうとした。
「いつまでも調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
しかし、振り上げた拳を赤髪の前で寸止めする。
「どうした?殴るんじゃねぇのかよっ!」
寸止めの格好で動かないシノが逆に殴り倒される。
「何してるんだ、シノ……」
ユタカが悔しそうに声を漏らす。
「他のみんなはもう良いだろう、リョウコの関係者は僕だ。僕だけを狙え」
ユイが立ち上がり叫ぶ。
「なるほどな……」
カズがそう言うと後ろの方を指差す、下がろうという事だろうか。
俺達は静かに植え込みの中を掻き分けて中庭まで戻ってきた。
「リョウコちゃんが人質に取られて反撃出来ないんだ」
カズが考え込む様に呟く。
「汚い真似しやがって、どうするんだ?俺達が乱入してぶっ潰してやるか?」
俺は掌と拳を合わせ、いつでもやれる意思を示したがユタカがそれを嗜める。
「待て、リョウコちゃんが人質に取られてるなら俺達が行った所で……」
確かにそうだ、ここで乱入しあいつらに仕掛けたらユイ達と繋がりがあるのがバレバレだ。リョウコちゃんを盾にされて何も出来なくなるだけ。どうしたら。
「リョウコちゃんを助けなきゃどうしようもないな」
「それはそうだけどどこにいるのかも解らないし、手の出しようが無いだろ」
カズの話に反論する。
「奥の手を使おう」
カズには何か考えがあるようだ、そう言いながら携帯を取り出し電話をかけ始めた。
「トシキさん、力貸してくれませんか?」
マジか……