バトルロイヤル
「あんた達本当に勝ったの?あんたもユタカ君も顔ボコボコじゃないの。タケシも病院通いみたいだし」
ユイとの試合から二日後、今日は姫が来る事になっていたのでいつもの様にカズの家に集まっていた。
だが、本人は折れてないと言い張っているがタケシはあの一戦が原因で松葉杖に頼る羽目になり今日も通院である。
「全く……みんなソコソコはイケメンなのにもったいないわね、勝つならもう少しスマートに勝てないの?」
あの激戦をくぐり抜けて来たのにこの言い草である。最も俺は何もしていないのだが。
「ちゃんと勝ったよ、これでも圧勝だったんだぞ。勝率の上ではな」
間違ってはいない、一応三連勝で勝ったのだから。
「ま、いいわ。今回は私も聞きたい事あったし。今日は何が聞きたいの?」
「んじゃ早速だけど四回戦以降の話ってのから聞かせて貰おうかな」
「んー、まず四回戦は一対一の戦いじゃなく数チームのバトルロイヤルよ」
「んぉ……」
「マジで……」
「うゎ……」
「サラッと聞く情報にしては重過ぎますね」
みんなそれぞれが思い思いの悲鳴を漏らした。
「でも納得出来た部分もあるな、この前姫が言ってた四回戦は試合が決まるまでの期間が長いってのは複数のチームを同じ日に組み込むからか」
珍しくエックスでない状態のユタカが喋った。
「でも、何でこの前言わなかったんですか?別に勿体ぶらなくても良さそうなもんですけど」
「勿体ぶった訳じゃないわよ、どうせ知らないなら三回戦の前に変な気負いさせない様に黙ってただけよ」
姫なりに気を使ってくれてたわけか。
「しかし何で四回戦なんだろうな、決勝戦が特別ルールとかは解るけど四回戦からって半端な……」
カズが疑問を投げかけるとヒロシが被せてきた。
「五回戦もバトルロイヤルなんですか?」
少し考えて姫が答える。
「それは解らないわね、優勝したって話どころか五回戦に出場するって書き込みすら今迄見たことないもん」
みんな絶句する、今迄優勝者が存在したかも不明とは……幾ら何でも胡散臭過ぎる。
「ただの噂だけど……」
みんなが固まって居ると姫が話を続けた。
「五回戦の相手は決まってるって話があるよ、主催者のチームで名前はチームジャッジメント」
「主催者が出場してて五回戦の相手なのか?」
「ただの噂だけどね、ジャッジメントの類いの噂ならまだあるよ。そいつ等と対戦するとこの町には居られなくなるとか、ルール違反をするとジャッジメントに粛正されるとかね」
「胡散臭い都市伝説みたいだな」
俺は素直な感想を述べた。
「実際その程度の信憑性しかないもんよ、この町から居なくなるのはまだしもルールなんて殆ど無いみたいなもんだし」
「この町から居なくなる方は裏付けみたいなもんあるの」
カズの質問に、さも当然と言った感じで答える姫。
「そりゃ夜中にあんな喧嘩してたら昼間も狙われたりも当然あるからね、そんな生活が嫌になってこの町から逃げ出す人だって普通に出て来るわよ。顔隠して参加するなら問題無いだろうけど」
自然とユタカに視線が集まる。
「あ、そうだ。玉の事調べて貰ったんだけどな…」
若干の沈黙の後、カズが会話を切り出した。
「あの玉の中には発信機と盗聴器と起動センサーってのが入っているらしい」
盗聴器まで入っていたのも驚きだがセンサーってなんだ?
「何ですか、その起動センサーってのは」
「えっと、何だっけな。色々詳しく教えて貰ったんだけどな。要は玉持って何かの機械に近づくと勝手に起動するシステムらしい」
「んー、スマホのWi-Fiみたいな?」
「そう、そんな事言ってた」
「んで、何かの機械ってのは何なの?」
「それは解らないらしい、分解したら解るかもと言ってたけど、溶接までは出来ないから辞めとくと……」
うーん、解った様な何も解って無い様な……
「んと、私も聞きたい事があるんだけどいいカナ?」
そう言えば来た時も聞きたい事あるとか言ってたな、姫はこっちが答える前に話しを続けた。
「あんた達キゾクを倒したの?」
直球過ぎる質問に思わず四人とも固まる。
「あぁ、その反応だけで充分よ。答えなくて良いわ、隠す理由も何となく想像付くしね」
「ん……それが聞きたかった事か?隠すつもりはなかったんだが……いや、隠してたんだけども」
カズがよく解らない言い訳をする。
「ううん、こっからが本題よ。まず今ネットで騒がれてる情報を教えてあげる。その後であんた達の意見聞かせて」
いつもより若干真面目なトーンの姫に四人が深妙に頷く。
「今キゾクを潰したのはゲームに参加しているチーム猫だって騒がれてるの。
そして潰されたキゾクは解散した訳じゃなく幾つかのチームに分かれてそれぞれが牽制し合ってる。
当然チーム猫を討ち取るのが次期キゾクの総長になる一番の近道になってるわね。ここまでは良い?想像の範囲内よね?」
冗談じゃない。既にかなり嫌なニュースだが、ここまでって事は更に続きがあるのか。
「想定外って事は無いけども想像してた最悪のパターンだな、続き聞くのが怖いよ」
カズがうんざりしたように答える。
「まぁそうよね、折角隠してたのにバレちゃったんだもんね。でもこの先の話は別に完全に悪い方向に行く訳ではないかもよ。
実は今チーム猫が一回戦にビーフで出ているの。チームメンバーの中にはあのトモノリの他にイクオって名前もあったわ。
そして対戦相手はこの前あんたに電話が掛かって来たS中学生徒会執行部よ」
「一回戦に出ているって事は僕達の偽者か、それとも偶然同じ名前で登録したか……」
ヒロシが呟く。それを聞いたユタカが激昂して喋りだす。
「ちょっと待て、そんな事よりイクオ君が俺達の代わりにキゾクに狙われるって事か?」
「待て待て、落ち着け。そのイクオ君本人が出てる可能性もゼロじゃないんだ」
カズがユタカを嗜める。ユタカは納得行かないと言った表情で俯く。
「トモノリってのは何者なの?この前のあんた達の反応は何か知ってるんじゃないの?」
「知ってはいるけどただの小物だよ。キゾクが潰れたって噂の時に自分がやったって言いふらしてただけの、ただの雑魚だよ。実際そいつは調子に乗って出てるのかも知れないけど、それで何かあったとしても自業自得だ。ほっとけばいい、問題は……」
「そっちがどうでもいい奴なら問題はイクオ君の方ね、S中学生徒会執行部との試合は今日の夜零時にS中学の校門前って掲示板に載ってたよ。行くの?」
「ああ、何か気になる。オレは行くよ。別に戦う訳でもないしみんなは来なくても平気だぞ、一人で行ってくる」
カズが覚悟を決めた目でみんなを見渡す。
「いや、俺もいくぞ。イクオ君の事が気になる」
「じゃ僕は遠慮しておきますよ。これエックスのマスクです。一応渡しておきますね」
そう言うと、ヒロシはカズにマスクを投げ渡す。マスクを受け取りユタカとカズが俺を見つめる。
「わかった、俺も行くよ。平気だとは思うけど俺も気にはなるしな」
「よし、んじゃ今夜零時にここに一度集合してみんなで行こう。ありがとうな姫」
「いつもありがとうな、姫」
「助かりましたよ、姫」
みんながお礼を言うと姫が金切り声をあげる。
「今まで聞き流してたけど姫って呼ぶなって言ってんでしょ!」
今夜は観戦か、いつもよりはずっと気が楽だな。俺達は夜に備えて一度家に帰り身体を休める事にした。