また会いましょう
「うっ……くっ……」
「気が付いたか、ユイ」
ユイの上半身を抱えたサトシが心配そうにユイの顔を覗き込む。
俺達も何となくユイを取り囲む様に集まっていた。
「不覚です、僕は気を失ってたんですね」
「ん、まぁ、一分程度だけどな」
カズが答える。
「自分ではそこそこやれるつもりでは居たのですが、いざやってみたら三連敗とは情けない」
「そんなに悲観する事はありませんよ。君達は強かった、それに勝った三人ともボコボコです。どっちが勝ったんだかわかりゃしません」
落ち込むユイをヒロシが賞賛した。ごもっともである、カズもエックスも青アザだらけ、タケシに至っては片足を引きずっている。
対してユイ達は負けた筈なのに綺麗なもんである。
「お気遣い有難うございます、でもそんなに落ち込んでる訳でもありません。平気ですよ、次は負けませんから」
次か……
「次か、やっぱりお前等まだこのゲームに参加するつもりなんだな」
カズが心配そうにユイを見つめる。
「はい、カズさんが僕達が弱くて足手まといに思って置いて行った訳では無い事は理解出来ましたが、それ以外にもまだ聞きたい事はあります」
一回やり合ってスッキリって訳にはいかないか、余程カズに対して思う事が溜まってたんだな。
「僕等が弱くて置いて行った訳では無いなら何故一人で行ってしまったのか。あれから学校に来なくなった理由も、キゾクなんて暴走族チームに入ってしまったのかも、わからない事だらけですよ」
ん?カズがキゾクに?初耳だぞ。見るとタケシ達も驚きの表情をしている。
「次こそはカズさん達に勝って、全てを聞き出してみせますよ」
「んー、別に今となっては隠す理由も無いし聞きたいなら何でも話すけどな。そもそもお前等には聞く権利くらいあるんだし」
ただ聞きたいだけでは無いんだろうな、闘って勝ちたい。そしてその上で話たい。不器用な様だが、拳で語りたいって気持ちは解らんでも無い。
サトシは思う存分やり合って充分だろうが、ユイだって自分の力をカズに見せたい筈だ。
「ま、お前等も一人前の男だ。野暮な事は言わないよ。待ってるぜ」
ユイの気持ちを察した様に肩に手を置き立ち上がった。
「あ、そうだ。今回はオレ達の勝ちで良いんだよな?」
立ち上がったカズが何かを思い立った様に改めて聞き直す。
「そりゃそうですよ、完敗です」
「ならちょっと確かめたい事があるんだ、リョウコちゃんちょっと良いか?」
小首を傾げるリョウコちゃんにタケシが茶々を入れる。
「確かめるまでも無い、リョウコちゃんはAカップだ。あ、でも気にする事無いよ、女の子の魅力は胸だけじゃないから」
「んなっ!何なんですか、そんなの教える気無いですよ」
「ええい、弓を構えるな。そんなもん興味ない。それから狙うならオレじゃなくコイツを狙え」
カズが親指でタケシを指す。
「そんなもんとは何ですか!失礼な!」
「ちっと落ち着け、玉をよこせって言いたいだけだ」
「玉……ですか?」
リョウコちゃんがチラリとユイに目線を送るとユイが黙ったまま頷く、それを確認してカズに玉を手渡した。
暫しの沈黙、そして俺の携帯が鳴り出した。ユイの携帯も同じ様に鳴っているようだ。
電話に出るといつもの勝利を告げるガイダンスが流れてきた。
「いつもの電話が掛かってきただけだぞ、何が気になったんだ?」
俺がカズに聞くと他のみんなもカズに目線を送った。
「みんな、今誰かの気配感じるか?」
この場に居る九人全員が押し黙りキョロキョロと周りを見回した。
みんなもカズが何を言いたいのか理解出来た様だ、玉を五個全部手に入れた瞬間のコール。これはリアルタイムで見ていなければ不可能な事の筈だ。
「サトシ、どうだ?」
「全く人の気配は感じ無い、少なくともこの公園の中には誰もいないな。一応周囲を見て来る」
そう言うとサトシは音もなく走り去った。それを見送るとカズが語り出した。
「最初の頃から妙だとは思ってたんだ、誰かに見張られて無けりゃあのタイミングで電話は掛かって来ない。だが、終わってからどころか闘ってる最中も誰かに見られてる感じは無かった」
「考え過ぎじゃないか?指紋認証システムとかそんなのが玉に仕込んで有るのかもしれないし」
「そこまでするか?」
タケシの返事に反論するカズ。そこにヒロシも便乗してきた。
「でも、このゲームを始めてから、そこまでするか?って思ったのは初めてではありませんからね。可能性は無きにしも非ずかと」
「んー、確かに玉の方に仕掛けがあるって考えもあるか。機械系統は専門外だからな、今日玉送り返す前に友達に渡して調べて貰うか」
カズがこの話を締めた所で丁度サトシが戻ってきた。
「やはり誰も居ない様だな、雪に足跡も残ってなかったからこの公園に入ってきた人すら居ない筈だ」
「そっか……よし、帰るとするか。ユイ達もオレの家に泊まって行くか?エックスとタケシもその怪我じゃ帰る途中に野垂れ死にしそうだから泊めてやるつもりなんだが」
「有り難い申し出ですが遠慮しておきます、夜が明ける前にリョウコを家に送り届けないといけませんし」
「ん、じゃ気を付けて帰れよ」
「はい、近いうちにまた会いましょう。では」
頭を下げて帰ろうとするユイ達をエックスが呼び止める。
「シノとやら、貴様もまだ中学生であろう?来年M高に来るならばプロレス同好会の門を叩け。待っているぞ」
エックスの言葉に対し一瞥し無言で中指を立てて返すシノ。これは手名付けるのは難しいだろうな。
そして今度こそチームS中学生徒会執行部は帰って行った。
「かなり拘ってるみたいだけど、一人で行ったってどこ行ったんだ?合コンか?」
ユイ達が見えなくなった頃にタケシが気になっていた疑問を投げかける。個人的にはキゾクの話の方が気になっていたが、そっちも聞いてみたい。
「ただの喧嘩だよ、別に大した事じゃないさ」
ただの喧嘩だけでは無いだろうな、だがカズはこれ以上話しそうに無いので敢えて突っ込まずにそっとして置いてやることにした。
何はともあれ、三回戦突破だ。後二回!