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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
23/113

どっちがタフかな

 一度間合いが離されてからは完全にユイのペースになってしまった。

先ほどまでの上から振り下ろす攻撃ではなく、タケシの突きに対しては手を、蹴りに対しては足をという具合に剣道で言うところの小手の要領で必要最低限の動きのみでタケシの攻撃は尽く打ち落とされる。

「あれは狙わせているな」

 腕組みをしたままのエックスが口惜しそうに呟く。

「ですね。この位置からじゃ見えにくいですが、初見のはずのタケシの攻撃にあそこまで的確に対応するって事はそうなんでしょうね」

 ヒロシも理解したようにエックスに相槌を打つ。

「狙わせるってのはどういう事だ?」

 俺だけ付いていけないのも癪なので素直に聞いてみた。

「簡単に言えばわざと隙を作り、そこに打ち込ませるように誘導しているんだ。合気の誘いと呼ばれる技術だな」

 エックスが解りやすく説明してくれた、ふむふむ

「だがあの戦い方に変えたって事はさっきの膝が利いてる証拠でもあるな。懐に入られるのをかなり警戒している」

 さっき俺とリョウコちゃんとの戦いになった時にはいつの間にか遠くに逃げていたカズも戻ってきて会話に入ってきた。

「このままではマズイですね、どうにかして流れを変えないと四肢への攻撃とは言えあれだけ喰らい続けてはもちませんよ」

 その通りだ、実際タケシの動きがフラフラしてきている。今振り下ろす攻撃を出されたら耐えられないのでは無いだろうか。

「ユイは小さい頃から家の剣術道場でシゴかれててな。中学生になる頃には道場の中では大人達にも引けを取らないくらいの腕になっていたんだ」

「そうであろうな、あれだけの腕前だ。さぞ過酷な鍛錬を続けて来たに違いない」

「だが、悪魔でも道場の中ではだ。ユイは綺麗な道場剣術。対してタケシは性格もひねているが戦い方はそれ以上に捻くれている。タケシのペースに巻き込めればあるいは……」

 カズに捻くれているとか言われるとはタケシも思っていないだろうな、などと思っているとそのタケシがついに足を取られ倒れかけた。ユイはそれを見て木刀を上段に構える。ヤバイ!

 しかし、木刀を振り下ろした先にはタケシは居なかった。前に倒れると見せかけて右に半回転。

木刀は地面に突き刺さる。それと同時にタケシは懐に飛び込みユイの胸ぐらを掴んだ。

 だがユイも警戒はしていたようだ、瞬時にさっきの顎を跳ね上げる肘をだす。

ガスッ!

 鈍い音はしたがタケシは胸ぐらを掴んだ手を離さない、いや離さないのではなく離れないようにユイの服を巻き込んで固定している。あの一瞬でよくもまぁ……

「流石にこすいな。転んだフリで今度はタケシが頭部への攻撃を誘ったんだ」

「まさか最初の誘われているのもわざとだったりするんですかね?」

 カズとヒロシの会話を聞きタケシがとんでもない事をやったんだなと改めて実感する。木刀の相手に隙だらけの頭部を見せるってどんだけぶっとんだ男なのだろうか。

「くっ」

 胸ぐらを掴まれたユイが必死に右手を離させようと打撃を加えるがタケシがニヤリと笑い

「さぁ、どっちがタフかな?」

 タケシはそう言うと自由な左手でユイのこめかみを打ち抜いた、それだけでは終わらず打ち抜いた左手を返す勢いで裏拳も決める。さらに右手はユイの胸ぐらを掴んで頭の位置を固定したまま左回転し後ろ回し蹴り。

 ユイは倒れそうになるも踏みとどまり肘で応戦するが、至近距離で木刀をもったままのユイとタケシでは圧倒的にタケシが有利。次々に拳と膝が決まっていく。

 するとユイは半歩下がりタケシの腕をピンと伸ばす位の距離を取り、肘の下に木刀を置き手首を掴み、右足をタケシの鳩尾の辺りに置いた。

「駄目だ、離れろタケシ!」

 エックスが叫ぶとほぼ同時にユイはくるりと後転し、タケシは服に絡めていた手を離し片膝を付いていた。後転したユイとその場で片膝を付いたタケシ、戦いの最中ではあるが二人ともほぼ同じ格好で座り込んでいるように見える。

「危なかったですね、剣術なのに投げ技まであるんですか。迂闊に組むのも難しい」

 ヒロシが言うとエックスがジッとユイを見つめながら言った。

「投げなんて生易しい物じゃない。あの状態で巴投げの要領で投げられていたら腕がへし折られていたぞ……」

 んな……投げ技じゃなくサブミッションだったのか。剣術じゃなく何でもありだな。

「何にせよ、今ので決められなかったのはマズイな。ユイが本気になりやがった」

 見るとユイは今までの正眼の構えではなく居あい抜きのような構えを取っている。

「あの構えが彼の本気の構えなんですか?」

 ヒロシの問いにカズが目線をユイ達に向けたまま答える。

「ああ、あれがガキの頃から道場で教わってた構えだ。今までの正眼の構えは中学の部活でやってる構えだな。部活ではあの構えを取らないから戦績はあまり良くないんだよ、アイツ」

「何で強いならあの構えでやらないんだ?ああ、公式じゃ反則とかなのか?」

 カズの返答に俺は当然の疑問を投げかけ、そしてその答えも聞く前に理解したつもりになったが、カズは違う答えを言った。

「いや、公式でもあれは反則じゃない。確か剣道じゃ逆胴とか言う構えだったかな?二刀流だって認められてる位だからな。剣道って結構何でもありだよ」

「ふむ、ならば何故だ?」

 エックスも気になっているようだ。

「反則ではない……が、あの構えでやると、あ~あいつ何か格好付けてる~と言われるのが嫌で部活ではあの構えを封印したらしい」

「……なるほど」

 俺とヒロシとエックスは大いに納得した。中学生だなぁ……

ユイの昔話を聞いていて少し和んでいたが、現在のユイは昔話のユイとは真逆に空気をもひり付かせる迫力を持っていた。

タケシもその迫力……いや、殺気に気圧されて動けないで居る。

 いつも先手を取る勝気なタケシが動けないとは余程の事である。みんなもそれを感じ取って何も言わずに二人を見守る。

 ああ!もう何か見てるだけで息苦しい!






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