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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
21/113

強くなんて

サトシと呼ばれた男は前に出て妙な取っ手の付いた短めの二本の棒状の物を背中から取り出す。そしてその棒を両手に握り構えを取った。

 左手だけを前に出し、右手はやや後方に置く半身の構えだ。

「トンファーまだちゃんと使ってたんだな」

 そうか、あれはトンファーと呼ばれる武器だったな。カズがサトシに向かい悲しそうな、そしてどこか嬉しそうな視線を送り呟いた。

「滑稽ですかね?俺にこの武器の扱い方を教えてくれた人は何も言わずに何処かへ行ってしまいました。それでも俺にはコレしか無いんだ」

「サトシ……あのな……」

「今更何も言うな!俺は……俺達は戦えたんだ、アンタの隣で!それなのにアンタは俺達を置いて一人で行き、そのまま居なくなった」

 カズの言葉を遮り自らの思いをぶつけるサトシ。今まで言いたくても言え無かった言葉が溢れ出しているようだ。

「アンタには解らないだろうな?自分の追いかけてた人に半人前だと烙印を押されて置いてきぼりにされた惨めな気持ちがよ」

 カズは何も言えずに俯いている。

「俺のトンファーを見縊るなよ。始まりは確かにアンタだが、あれから一年独学だがずっと鍛錬は続けてきた。アンタに追い付き追い越すために」

 サトシが一足飛びで間合いを詰め、左のフック。狙いは顔面のようだ。

「俺は負けない、絶対にアンタを倒して俺の力を認めさせてやるよ!」

 サトシの中距離攻撃は基本に忠実にバックステップでかわすカズ、しかし更に間合いを詰め今度は左右の連打。

 カズは左はスウェーで避け、右は両手でガード。しかしちゃんとガードしたはずなのにカズの表情は痛みで曇る。

 あのトンファーと言う武器はパンチの軌道そのままに棒の打撃が加わるようだ、しかも一発一発が剣道での最強の攻撃力と呼ばれる突きの軌道である。あんなのガードした所で腕の方が壊れるだけだ。

「くッ」

 カズは堪らず間合いを空ける為に後ろに下がる、しかしサトシはそれに合わせた様にまたも一足飛びで間合いを詰める。

 だがカズもそれを読んだか順足での前蹴り、しかしサトシはそれをもトンファーの十字受けでしっかりガードした。

「あいつ突っ込むだけの単純野郎かと思えばよく見てやがるな」

 タケシが感心したように呟く。

ガードさせて一瞬動きが止まったのを好機と見たか、今度はカズから仕掛けた。半歩前に出てからの同じく順足での前蹴り、左右のワンツーからの右上段回し蹴り。空手の基本中の基本のコンビネーションだ。

 しかしサトシはその四連撃を全て防御した。攻めているはずのカズだが最後の右回し上段もトンファーで受けられ思い切りスネを打ち付けた状態だ。

「アンタが教えてくれた数少ない教えの一つですよね、トンファーは守る為の武器だって」

「ああ、そうだな。それにしても独学でよくそこまで使いこなせる様になったな。たいしたもんだ」

 守る為の武器?確かに防御も鉄壁に近い動きだがパンチのストロークでの突き攻撃。攻撃力も相当なものじゃないだろうか?

「だったら認めてくださいよ、俺は強くなったって」

「強くなった?それは違うなサトシ。それに今の戦い方ならやりようはいくらでもあるぞ」

「だったら見せて貰おうか、そのやりようってのを」

 サトシが得意の一足飛びからの左フック、カズは今度はバックステップせずにその場で受け止めた。いや受け止めただけじゃない、受けると同時に下段蹴りを合わせていた。

「な?やりようあるだろ?」

 カズはどうだと言わんばかりにサトシに向かって言い放つがこれは虚勢だ。

「くそっ」

 またしてもサトシは突撃してからの左右の連打、同じ様にカズはこれを防御すると同時の下段蹴り。

「確かにローキックならトンファーで受ける事は出来ないが、これでは……」

 ミスターエックスの言いたい事が解る。トンファーを受けているのは所詮素手だ。しかもその場で打つ打撃ではなく突進からのスピードが乗った攻撃、単純に攻撃をガードしたカズと攻撃を喰らったサトシの構図通りのダメージ交換では無いはずだ。

「カズが一番解っているはずです、きっと何か考えがあるはずですよ」

 カズはそれを何度も繰り返す……それが五回を越えた辺りからサトシの一足飛びに若干の躊躇が生まれた様に感じる。

 利いてきたか?しかしダメージの値ではカズの方が遥かに……もう腕は上がらないんじゃないだろうか。

「まだだ!」

 今度はサトシがやり方を変えてきた。同じように一足飛びではあるが右のボディブロー、それはタイミングが少しズレたが巧くガード出来た。

 しかしガードされたままサトシは半回転し、左の肘打ちの要領でトンファーをカズの鳩尾に突き刺す。そして更に半回転し右のアッパーカットでカズの顎を跳ね上げた。

 カズは堪え切れずにその場にへたり込んだ。

「俺の勝ちのようですね、俺が強くなった事と負けを認めて下さいよ」

「強くなんてなってねぇって……」

 ペッっと唾を吐き、薄く積もった雪が赤く染まる。膝が笑っているようだがそれでも立ち上がり、虚勢を張るカズ。

「まだ言うか」

 サトシが間合いを詰めようとした瞬間その場から飛び右回し蹴りを放つ、自分が攻めようとした瞬間なので一瞬面食らったがそれでも踏ん張り飛び回しを避けるサトシ。

 だがこれはフェイントだ。飛び回しを撃つ時は大抵最初の一撃が当たらない位置で撃つ。本命はその後の飛び後ろ回し蹴りだ。

 予想通りカズはそのまま左の飛び後ろ回し蹴りを放つ。しかしサトシもそれを読んでいた、屈んでかわし、アッパーの体勢だ。

 しかしカズは飛び後ろ回しの体勢から更に前宙返りの捻りを加え胴回し回転蹴りを放った、二段目の蹴りを屈んで避けたサトシはまともに踵を頭部に喰らった。

「がはっ」

 そのままうつ伏せに倒れるサトシ、流石に着地までは出来ないカズもそのまま倒れこんだ。

「お……奥の手出させやがって……はぁ」

 カズは雪の上に大の字になったまま荒い息をしたまま動こうとしない。

「空中で三回蹴りやがった、あいつ空手より体操選手にでもなった方がいいんじゃないか?」

「ふっ、いいルチャ選手になれそうだ」

 エックスとタケシがそれぞれ賞賛を送る。

「サトシ、聞こえているよな?」

「はい……」

 サトシはうつ伏せで倒れたままなので表情は解らない。

「あのな、お前は強くなんてなってない。何故ならば初めて出合った時からお前とユイは強い男だよ」

「……ありが……とう、ござい……ます」

 表情は解らないが泣いているのか?サトシは顔を伏せたままカズに玉を投げつけユイ達の方へ戻って行った。

「なぁみんな。もう立てねぇ、立たしてくんない?」

 そのまま寝とけ。お疲れさん。



 


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