四天王
「チーム猫のみなさんですね。始めましてカズさんの後輩のユイと申します」
カズが通話をスピーカーにし、コタツの上に置いたスマホから礼儀正しく挨拶をする声が聞こえてくる。後輩と言う事はまだ中学生か?
「始めまして、どうして僕達が……と言うかカズがチーム猫で出場してると知ったのですか?」
こっちからも礼儀正しくヒロシが返す。
「知っていた訳では無いのですが、チーム名が猫でメンバーにカズと載っていたのでもしかしたらと電話してみたら正解だっただけですよ。カズさんの猫好きはうちの学校では有名でしたからね」
確かにカズは猫グッズを集めたり猫のイラストのバンダナをしたりと猫派アピールは見ていても解るが、学校で有名になるほどの猫好きとは一体どんな生活をしていたのだろうか……
カズとは小学校は一緒のクラスだったが中学は別の学校になり、高校になってまた同じクラスに戻った。幼馴染ではあるが俺の知らないカズの中学生活に少し興味を持った。
「オレも昔話に花を咲かせたい所だが本題に入ろうか。お前が次の対戦相手で間違いないんだよな」
カズの問いにはっきりとした口調でスマホから声が返ってくる。
「はい、僕達のチームS中学生徒会執行部は明日の零時にカズさん達のチーム猫との対戦が決まりました」
「わざわざ電話を掛けてきた理由は何だ?顔見知りとはやりにくいから勝ちを譲ってくれるとかそういうことか?」
今度はタケシがスマホに問いかける。
「とんでもない、折角カズさんと決着を着けられるチャンスなのにそんな勿体無い事は出来ませんよ」
口調は丁寧なままだが明らかに敵意を剥き出しにした話し方に変わった。
「僕はカズさんにとてもお世話になりましたし尊敬もしています、ですがそれ以上に恨みもあります」
声はどんどん低く、凄みを増す話し方になっていく。
「今日電話したのは宣戦布告ですかね、カズさんと決着を着けるのは正々堂々と正面から全力でやりあいたいです。なのでどこかで待ち合わせしませんか?」
全員がカズを見る。この勝負を受けるも逃げるもカズに任せるべきだし、チーム猫の作戦を考える役目もカズだ。どちらにしろ全部任せるしかない。
「……解った。時間は明日の零時、場所はうちの近くの公園でどうだ?」
「僕のような一年も交友のなかった後輩の挑戦を受けて頂いて有難う御座います。では明日」
ツーツー
電話はそのままアッサリと切れ、電話の不在音が鳴り響く。
「恨みって何やったんんですか、カズ」
ヒロシが軽蔑したような目でカズを見ながら聞く、見るとタケシもユタカも姫でさえカズに冷たい視線を送っている。
「うーん、オレは良かれと思ってだな。ちょっとした意見の違いって奴だよ」
「まぁ、相手も決着を望んでいるしカズもそれを受けたんですから深くは追及しませんけどね。友人として言える事は半端な事はしないで下さいよ」
「はい」
ヒロシは余裕あるな、俺は何をやらかしたのか根掘り葉掘り聞きたい所だったがそんな締め方をされてまだ聞くのは無粋に思えてこの会話を終える事にした。
「しかし今日は宣戦布告二回目だ、物騒な世の中だな」
「ん?二回目?」
カズの呟きにタケシが反応する。
「さっき四回戦からが本番だって学校で聞いたって言っただろ。あれ言って来たのがトシキさんだったんだよ。その時に宣戦布告もされてな」
「うわ、よく無事だったな。何もされなかったのか?」
タケシの問いに俺が嫌な事を思い出して話す。
「俺と戦うまで負けるなよって言われた……」
「そんなカカロットを倒すのはこの俺だみたいな事言われたのか。完全にロックオンされてるな」
「どこの戦闘民族だよ……」
「ちょ、ちょっと待って。トシキってあの四天王のトシキ?キゾクの?あんた達なんでそんなとんでもない事になってるのよ」
ここで傍観者だった姫が割って入ってきた。てか四天王?
「何ですか四天王って。戦闘民族だけじゃなく、あの人そんな恥ずかしい異名も持ってたんですか?」
トシキに戦闘民族のあだ名が既に定着しているかのように返すヒロシ。頼むから本人の前では言わないで欲しいものである。
「非公式の方で騒がれてる今優勝に近い四人の事よ、まず一人がキゾクのトシキ。これは有名人だし知ってるわよね」
全員が姫の言葉にふんふんと頷く。
「次は高一にして既に選抜レスリングで優勝して神童と名高いイクオ君よ」
「イクオ君か!?」
ずっと黙っていたユタカが急に声をあげる」
「うん、うちの学校の有名人。ユタカ君とも仲良かったよね?」
「ああ、うちのプロレス部は同好会だからな。よくアマレス部に混ぜてもらって練習したりマットを貸してもらってる」
「へー、うちの学校でそんな有名人いたのか」
タケシがさして興味もなさそうにユタカを見ながら言う。
「イクオ君は素晴らしい人だぞ。心技体全てに置いて並ぶものなし、その上強く優しく、きっと将来レスリング界を背負って立つ人間だ」
ユタカが熱く語る、ミスターエックスじゃない状態でこんなに喋るの初めてみた。本当にそのイクオって人が好きなんだな。
「だけど、イクオ君がこんな喧嘩バトルに参加するとは思えないんだよな」
「そうだね、私もそう思うけどネットで言われてるだけで参加してないかもだし、参加してるなら何か事情があるのかもね」
ユタカが腑に落ちない顔で黙っていると姫が続ける。
「もう一人も有名人らしいよ。N高の番長ワタルって人」
「そ、そいつ知ってる。俺一度喧嘩した事ある!」
思わず叫んでしまった。
「そなの?勝ったの?」
カズがアッサリとした口調で聞いてくる。
「そうだな、もう辞めようぜと言ってきたのは向こうだし。勝ったのは俺だな」
事実辞めようと言ってきたのは向こうだが、俺も歯を折られ散々な内容だったのをまだ鮮明に覚えている。
「あんた達みんな顔広いようだけどもう一人は知らないはずよ」
姫がもったいぶって、ジュースを飲みながら語る。
「最後の一人はあのトシキを倒し、キゾクを壊滅に追いやった男。その名もトモノリって人よ。名前以外歳も何も解ってないんだけどね」
俺とカズはブッと噴出し俯く。
「何よ、変な反応して。まさかそれも知り合いなの?」
「いや、知り合いと言うか……ねぇ?」
カズが何とも言えない表情で俺に助けを求める。俺だってどこから説明したら良いのか解らん。
「うん、まあ四天王の話は面白かったよ、他には無いのか?」
タケシはキゾクを潰したのは自分達だけどそれを言えずにまごまごしていると取ったのだろうか話を変えた。
「大した話でも無いけどチキンとビーフってのもあるよ」
「どゆこと?」
急に今日の晩御飯どっちがいい?みたいな会話を振られてきょとんとする一同。
姫の話を要約するとこう言う事らしい。
次の対戦相手が決まると非公式サイトに「俺達はチームなんたらだ、ここで待ってるぞ」と書き込む。
それを見た対戦相手が乗ってきた場合「上等じゃねーか、逃げるなよ」と返す。
この場合がビーフ。こうなると当然野次馬も来て動画にアップされる事もあるらしい。
逆に挑発に乗らず正面の喧嘩以外で戦おうとするチームをチキンと呼ばれるようだ。
「私からしたら策略も立派な戦法よ。わざわざ正面からやる方がおかしいと思うわ」
言ってる事はごもっともであるがタケシが反論する。
「俺は陰でチキン呼ばわりされるのも腹立つな。これからはビーフで行こうぜ」
正直俺もタケシと同意見だ。しかし、カズとヒロシは反対なようで
「陰で何言われても気にする事無いって、ほっとけよ」
「僕もそんなに悪名で名が売れるのは好ましくありませんね」
ニ対ニの状況で自然と残りのユタカにみんなの視線が集まる。
「俺もそんなヤンキーの集まる中に素顔晒すのは嫌かな」
「お前は素顔晒してないから!」
タケシの突っ込みも空しく、納得は行かないが一応多数決ニ対三でチーム猫はチキンで行く事になった。
そしてユイとの試合当日……