宣戦布告だ
「さて、とっとと帰ろう。タケシ達はもう先に家についてるかもな」
「ああ、M高近いもんな。カズの家まで自転車で5分くらいか?」
「一応女の子来るんだしお菓子とか買ってった方がいいのかな?」
顔は可愛いかもしれないが、俺はあの子はあまり好印象を持っては居ない。なのでこう答えた。
「いいだろ、面倒くさい」
下駄箱で靴を履き替えながらカズと会話していると後ろから声を掛けられた、またしてもトモノリである。
「女の子が来るって約束でもしてんのか?俺も誘ってくれよ」
「そういうのじゃねえよ、ただナオの妹が家来るだけさ」
カズが目も合わさずサラッと嘘で返す。
トモノリは興味を失ったようで軽くため息を吐き話題を変えてきた。
「所で今日の昼休みキゾクの話にやけに食いついてきてたじゃないか、何か恨みでもあるのか?虐められたとか。何でも言えよ何とかしてやるから」
トモノリがニヤニヤしながら着いて来る。本当に鬱陶しい奴だ。いっその事潰したのは俺だとバラしてやろうかと考えているとトモノリが校門を出るところで男とぶつかった。
「いってーな、どこ見てんだよ」
トモノリがその男に向かって吼えているが、その男はトモノリを見ようともせず俺達に話しかけてきた。
「やっと出てきたか、カズ。それから……ナオだったな?」
「トシキさん……」
カズが声を絞り出す。トモノリがぶつかった男は一回戦で闘ったキゾク総長トシキその人でだった。
何でこんな所に……やっと出てきた?待ってたって事か!?何の為に?タイマンの借りを返すために……
俺は頭の中で様々な思いを巡らせる。鼓動が高まる。怖い。こいつが何時襲い掛かってくるのかも読めない。
動揺しているのを悟られまいと必死で平静を保っている振りをしているとトモノリがまだ吠え掛かる。しかし刺激するんじゃねぇと言う言葉すらも出ない。
「ナオ達の知り合いかよ、でかい図体してこんな所にたってるんじゃねえよ、俺はな、キゾクを潰した男なんだぞ」
そこで初めて一瞥すらもしなかったトシキがトモノリを見る。
「お前が?キゾクを?」
トシキと初めて目が合いやっとトシキの言い知れぬ迫力を知ったのか怯みながらもトモノリは言葉を返す。
「ま、まあ直接潰したのは俺の友だ……」
最後まで言い切る事もできず、トモノリは校門の脇の植え込みに吹き飛んだ。
「だったら見過ごす事はできねぇよな」
既に意識は無いであろうトモノリに吐き捨てるように言い放つトシキ。全く見えなかったが今の体勢が右手を振りぬいているので、恐らく殴り飛ばされたのだろうと推測できる。
「待ってたって言いましたよね、ここでやる気って事ですか?」
カズがトシキの前に出る。きっとカズもビビッてる。カズの緊張感が背中越しに伝わってくる程だ。
「幾らなんでもお礼参りする為に学校の前で張り込んだりしねぇよ、こんな所で喧嘩なんか出来る訳ねぇだろ」
数十秒前に人一人を殴り飛ばした男の台詞とは思えないが、取り合えずここでやる気ではないらしい。
植え込みから出ている、ピクリとも動かないトモノリの足を見ながらホッと胸を撫で下ろした。
「今日はそうだな、顔見せと宣戦布告だ。お前等まだ負けて無いだろうな?今何回戦だ」
「三回戦の通知がまだ来てない所です」
「随分のんびりペースだな。まぁ俺にしたら好都合だ、追いつけそうだからな」
追いつくという事はSゲームで三回戦まで勝ちあがるって意味だろうな、するとやはり……
「もう察してると思うが、俺はもう一度ゲームに参加している。お前等と思う存分やり合う為にな。だから俺と当たるまで……負けるんじゃねぇぞ」
トシキは俺を真っ直ぐ見つめながら親指を地面に向けた。
「ああ、一つヒントをやるか。ゲームの本番は四回戦からだ。それじゃまたな」
トシキはそのまま踵を返し去っていった。
「トシキさん、キゾクのメンバーが心配してましたよ。連絡だけでもしてやってくださいよ」
トシキはこっちを振り返らず手だけを振っていた。
トシキがいなくなり、緊張感が解けたのか膝がガクっと抜ける、カズも同じようだ、地面にへたり込んでいる。
「なんなんだよ、トシキさんのあの迫力は」
カズの言わんとしている事がわかる。
普通あれほどの男が喧嘩に負けたとなると四六時中襲い掛かって来るイメージがあったが、逆に「復讐のつもりなんかないよ、またやろうな」と笑顔で言われたような違和感が残っている。
「余裕というより怒りを通り越してもう一週したみたいな」
カズが冷や汗を拭いながら言う、そう、それだ俺が言いたかったのは。
「おっかねぇよ、あの人と喧嘩とか正気の沙汰じゃないって」
俺は俯きながら本音がポロッと出てしまった。
「四回戦からが本番ってどういうことだろうな?」
気持ちを切り替えるためにも話題をちょっとそらしてみた。
「それも姫に聞いてみよう、とにかく帰ろう。タケシ達もう家着いてるだろうし」
「そうだな、トモノリどうする?」
「ほっとけ」
カズはどうでも良いよと言わんばかりに、そのまま歩き出す。
まぁ、死んじゃいないだろ。風邪引くなよ。
カズの家に着くと予想通りタケシ達は家の中でくつろいでいた。
カズの部屋は本宅の庭にあるプレハブなので家の人に了解を取らなくても勝手に上がる事が出来る。そんな理由もありカズの部屋が俺達のたまり場となっている。ちなみに近所の評判は良くないらしい。
「いらっしゃい、姫。ゆっくりしていってよ」
「ゆっくりする気なんてないわよ。聞きたい事って何?」
ゆっくりする気は無いと言っている割りにコンビニで買ってきたであろうジュースを飲みながら姫はツンとした感じで返す。
「んじゃ早速だけど引き分けは両者失格。あのルールはどこで知ったの?」
「そんなもんホームページに載ってるけど?」
当然でしょとでも言いた気に目を瞑りながらストローを吸う姫。
「ホームページくらいは読んだよな?カズ」
「ああ、登録する時にちゃんと。した後も念の為見てきたぞ」
タケシの問いにカズも普通に返す。実際俺も見た、恐らくタケシもヒロシもユタカも確認くらいはしているはずだ。そしてそんなルールの項目は無かったはずだが。
「登録したとこってそれは公式の方でしょ。そんなの登録の時くらいしか見にいかないわよ」
「てことは非公式サイトにあるのかSSSゲームで検索しても見当たらなかった気がしたけどな」
「それはねSSSじゃなくサディスティック・サルテーション・サバイバルで検索してないからよ」
「SSSの正式名称ってそれなんですか」
ヒロシが腕組みをしながらふんふんと頷く。
「正式名称かどうかは知らないよ、所詮非公式だしね。ただ、そのサイトに参加者や観戦してる人が集まるってだけ」
「んじゃ後は今日学校で四回戦からが本番だって言われたんだけど心当たりある?」
トシキのヒントって奴か、俺も気になっていた。
「心当たりと言うか、四回戦だけは対戦カードと日付が公式に載るわね、ついでに四回戦は期間が長くて告知から一月くらい待たされる事もあるみたいよ」
「え?それだけ?何の為に?」
「何の為かは主催者に聞かないと解らないけど、それだけって言うほど簡単なことじゃないわよ」
「だな」
「うーん」
タケシとカズは何かを理解したようで渋い顔をしている。
「何でだ?チーム名出たところで何処の誰かも解らないんだし、期間が長いならそれだけしっかり休めるって事じゃないか」
何故二人と姫が表情を曇らせて居るのかも解らず、ただ思う事を言ってみた。
「公式だけならな、確かに問題は無い」
「ああ、公式でチーム名が出たら非公式のサイトにそのチームを知っている奴の情報が載る可能性がある」
「そしてチーム名とメンバーを知っているって事は……」
「一、二、三回戦で負けた奴等。要は恨みを買っている可能性が高いわけだ」
タケシとカズが交互に話をしてくる。なるほど、そんな裏ルールが組み込まれるのか。
「そゆこと、顔写真やその人の家や学校を載せられた人もいたみたいよ」
そこで携帯が鳴り出した、カズのようである。
「あ、ごめん。ちと出るね。もしもし~」
カズの電話を気遣ってかみんな少し声を抑える。俺はこの間に今までの事を思い返してみた。
一回戦のトシキはゲーム内でって言ってたし、二回戦の姫も大丈夫だろう。
「俺達は大丈夫そうだよな?闇討ちの危険性は?」
「まぁ今の所はな。三回戦でどうなるか」
タケシが俺に同調してくれると電話中のカズから思いも寄らぬ言葉が出た。
「その三回戦の相手からの電話だ」
「はい?」
部屋の中の姫を含めた五人が声を揃えた。