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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
106/113

猫と五回戦

「八対四……単純に一人で二人だな、問題あるか?」


 ヒデさんは前を向いたまま後方の三人に話しかける。


「構わんに決まっとるじゃろう。どれ……儂の相手はどいつかのぅ?」


 カツマが軽々とソファーを跨ぎ俺達を吟味するかの様に見回した。


「やれと言われるならば何だってやって見せますよ」


 神童イクオも怯む所かやる気満々で屈伸を始めた。

トシキも無言だが人数で上回れても関係無いと言わんばかりに冷静に佇んでいる。

 やはり場数が違うな、一対一と一対二では単純に一人増えただけの問題では無い。

死角からの攻撃を警戒するだけでも相当に神経を擦り減らす、それを承知の上で自分が不利になったと不平を漏らす事すらない。自分の力量に絶対の自信があるのだろう。

 ヒデさん達が構えを取り俺達を見据える、空気が変わった……来る。そう思った時に場をぶち壊す声が響いた。


「さて、折角カズが一年も掛けてこの有利な状況を作ってくれたのに申し訳ないが……私の相手は手出し無用で頼みたい」


 そう言いながら前に出たのはエックスだ、身体からはうっすらと湯気が立ち昇り戦闘準備完了なのが見て伺える。

 改めてこの男はどういう新陳代謝をしているんだろう、この寒空の中完璧なアップなんてプロの為せる技であろうに。


「構わんよ……と言うかそれは想定内、何も綺麗に二人づつで分ける事も無い、ここは三、三、一、一と分け集中して相手の頭を潰す。このメンツに頭さえ潰せばなどと短絡的な事を言うつもりは無いがそれでも上が居なくなれば状況も変わるってもんだ」


 カズがエックスの横に立ち言い放つ。


「感謝する……イクオ君、そう言う訳だ。一騎打ちを受けて貰うぞ」

「望む所だよ……マスクを被った本気の君と全力で戦う、それは俺に取ってインハイよりも価値がある!」


 言葉が終わると共に二人はダッシュで間合いを詰め、ガッシリと組み合った。


「それじゃ去年の借りと言うならば、俺はアンタだな。マーシャルアーツ……前は初見で遅れを取ったが今回はそうはいかねぇぜ」


 タケシがヒデさんに言うと後ろからヒロシとシンゴも続いた。


「貴方が噂のマーシャルアーツ使いでしたか、去年は僕の友人がお世話になったそうですね」

「なるほど、タケシを手玉に取った人か。面白い」


 タケシがダッシュと共に蹴りを繰り出す、しかし狙いはヒデさん自身ではなく立っていたソファーだ。

派手な音と共にソファーは引っくり返る、だがヒデさんはそれよりも先にソファーからバック宙で飛びのいた。着地と同時にシンゴとヒロシが左右を取り囲む。


「本当は一対一サシでやりたかったんだけどな……恐らく勝ち目は薄いだろう。折角カズが用意してくれた好機だ、存分に活用させて貰うぜ」


 タケシがヒデさんに歩み寄りながら話しかける。ヒデさんもタケシを見据えながら左右に気を張り詰める……先ほどまでの余裕は見当たらない、既に戦う男の目になりトントンとフットワークを刻み始めた。

 タケシ達の攻防に目を奪われたその直後ガシャンとガラスの割れるような音が響く、見るとカズがカツマの頭を踏みつけている光景が目に飛び込んだ。


「オレの相手はアンタだよな、カツマさん。去年アッと言う間に気絶オトされて記憶も飛んじまったよ。この不意打ちはその借りって事で頼みますよ」


 カズは他のみんなが戦いを始め目を奪われていた隙に二階に登り、頭上からカツマに不意打ちを仕掛けたんだ、ここの一階と二階は吹き抜けになっており二階から飛び降りれば丁度カツマの頭上に降りられる。

 頭を踏みつけられ前に置いてあるガラス製の机をぶち破りカツマがうつ伏せのまま倒れている、普通の人間ならこれでノックアウトだがカツマはパキパキと割れたガラスを鳴らしながらゆっくりと立ち上がった。


「ふぅ、効いたわい。勝つためにはどんな手段も選ばず、やるからにはどんな手でも徹底的にやりきるその精神力。流石は今年のジャッジメント第一候補じゃ……じゃが少しばかりオイタが過ぎるのぅ、目上の人に対する礼儀を教えてやらんといかんな」


 きつい一撃を脳天に喰らったにも関わらず首をコキコキ鳴らすだけで大したダメージにはなっていないかの様子で立ち上がるカツマ。やっぱりコイツ等化け物だ。

 カツマがカズに向き直ると背後からユイとサトシが脇腹の辺りを一閃、苦痛に顔を歪ませる。


「貴方が去年カズさんをやった相手でしたか、名乗りも上げず仕掛けるご無礼をお許しください。カズさんから油断も躊躇も一切不要と命じられていました故……」

「聞いてた通りの化け物っぷりだな、あれで立ち上がるかよ普通……」


 二人とも武器を持ち一撃加えるとすぐさま飛びのいた。カツマの射程内には入らない作戦なのだろう。


「すると俺の相手はお前一人でするって事だな、ナオ。俺たちには去年の借りなんてもんじゃねぇよな。互いに一対一の引き分けだ。今日こそ決着ケリを着けてやる」


 トシキが倒れたソファーをまたぎ一直線に俺に向かってくる……

うわ、マジか?俺の相手はタイマンかよ。恨めしそうにカズを見るが既にカツマと戦闘中、こっちを見る余裕は無いらしい。

 くっそ、やってやる。一度は勝ってるんだ、ここまで来てビビッてられるか。


「上等だ、アンタとの因縁も今日で終わらせてやる」

「そうだ、それで良い。この町最強の実力見せてくれよ」


 トシキが両手を上げ構えを取った。正面から改めて見ると長身のトシキがするには些か不恰好な肩をすぼめる小さな構えだ。

 俺は例の如く突進からのストレートを狙う、俺にはこれしかない!先のカズとの戦いでも思い知った、恐らくやってみなきゃ解らないだろうがどんな人にも得て不得手が在る。

 考えて立ち回る人も居ればその場のテンションで戦う人も居る。投げが得意な人も居れば打撃が得意な人も居る。格闘技の道場に通い基本に忠実に戦う方法もあれば逆に自分の勘だけで強くなれる奴もいる。

 俺はこの二年間で色んな戦いをして色んな戦いを見てきた。その中で今の自分がある。一歩一歩歩いてきて結局一番最初に覚えたダッシュからのストレートに辿り着いた。

 客観的に見ると一周して戻ってきただけに見えるかも知れないがそれは違う、今の俺には自信がある。今までの一戦一戦が文字通り血となり肉となったんだ。

 

「往くぜ!」

 

 拳を握り締めトシキに真正面から突っ込む、だがコッチの拳が届く前にトシキの拳が俺の顔面を捉える。

それがどうした!


「おおお!」


 殴られながらも怯まずに自分の拳を繰り出した。残念ながら長身のトシキに対して顔面を狙うのは難しかった為にボディブローになってしまったが、一番力の入る殴り方をしたらそこに向かったのだ。仕方が無い。


「うっく」


 トシキは数歩下がり構えを取り直した。


「変わったなお前。たった一年でこうも変わるか」

「俺が変わったんだとしたらそれはアンタのお陰かもしれないっすよ。最初そんな気もなかったのにアンタと戦って勝って……そして負けて。色んな経験をさせて貰ったよ」


 本心だ、正直言って俺は別に喧嘩が好きな訳でもなんでもない。殴られると痛いし次の日まで続くし……強くなる為の鍛錬だって楽じゃない、吐くほど自分を追い込んで食いたい物も我慢して遊びたいのも我慢する、そんな生活だ。

 それでもやってこれたのはトシキと戦い勝った時の充実感、そして負けた時の喪失感があったからだ。


「アンタと戦えて良かったよ、アンタお陰で俺は強くなれた!」


 俺は今一度無策に正面からトシキに突っ込んだ。

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