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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
104/113

猫と猫

「この……馬鹿力め……」


 顔に衝撃を受け数歩後退りするヘルメット。だがそのヘルメットは顔を隠す役目は既に機能していない、アイシールドは半分割れ素顔を覗かせている。

 俺の……俺達の良く知っている顔だ。


「半分割れたくらいじゃまだ言い訳しそうだしな、宣言通りそのマスク引っぺがしてやるぜ」


 割れた部分を隠そうともせずにヘルメットが無言で構えを取る、掛かって来いと言うことだ。

もうスグだ。もう少しでコイツが一年もの間姿をくらましていたのか、何故俺達に何も言わずにヘルメットを被り他人の振りをしていたのかが解る。


「おらぁぁぁ!」


 俺の攻め方はさっき迄と同じだ、一撃は貰ってやる。だがその後にもっとキツイ一撃をかましてやる。……そして反撃されたらその時の俺の本能を信じる!

細かい事は抜きだ、全力でぶん殴る!


「はぁぁ!」


 意外にも俺のその愚直な突進に正面から迎え撃ってきた。

互いの拳が互いの顔面を捉える、もう割れたアイシールドの隙間からでも顔を狙う事は出来る。

 俺の拳を受けよろめいた相手の両肩を掴み膝蹴りを放つ、手応えあり。がはっと肺の中の空気を吐き出す呻き声が聞こえた。

 今度はくの字に折れ曲がる身体の腰の辺りを掴み力任せに後方にぶん投げた。

リング上をズザーっと滑る様に転がって行き、それでも立ち上がろうとする。


「まだやる気かよ、旗色悪いんじゃねぇか?」


 俺が声を掛けると何とか立ち上がったヘルメットが片膝を着いた。


「どうやらこれまでの様ですね、受け取って下さい。コレは貴方の物です」


 そう言いながら懐から玉を取り出し差し出してきた。

何のつもりだ、これも罠か?


「何を躊躇しているのですか、これを奪う為に闘っていたのでしょう。早く受け取りたまえ」


 恐る恐る間合いを詰めながら手にした玉を受け取る、だが思いの外アッサリとそれを受け取る事が出来た。


「これでこの勝負はナオさん、貴方の勝ちです……そして四回戦の試合もこれで決まる」


 そう呟くとスッと立ち上がり俺から離れた。


「ちょっと待て……何を」


 その時携帯が震えた、確認するとあの機械的な声で試合終了の報せが届いた。

これってどう言う……確か玉は今俺が奪って……えっと……


「これで玉は路地裏猫(アレーキャット)が七個、我々野良猫(ストレイキャット)が七個、キリンが一つ……私達の引き分けで終わりました」


 時間切れ、まさかここまで来て引き分けだと?


「何という幕切れ!あれだけの激戦を繰り広げた三チームがここに来てまさかの引き分け。ルール上では引き分けは両チーム失格となります、選手の皆さんも我々観客も落胆の色を隠せません」


 引き分け……時間を確認せずに戦っていた俺のミスだ。解っていればそれなりの戦い方もあったはずだ。


「SSSゲーム、裏ルール……四回戦に限り引き分けでも両者五回戦に進む事が出来る。コレは去年にゲーム主催者のジャッジメントのメンバーから聞いた言葉だ」


 ヘルメットの男がよく通る声を響かせた。

そうだ、確か去年そんな事言ってたぞ。じゃあカズはコレを考えて?


「ちょ、ちょっと待て!……じゃあ何か?俺達(キリン)はテメー等の茶番に付き合わされただけだったとでも言うつもりか!?」


 キリンの唯一の生き残りのダイスケが声を荒げる。


「さて、どうでしょうね。ただ一つ言えるのは企てていようと偶然であろうと、こうなってしまった事には違いない。この結果が納得行かないとゲームが終わった今貴方が暴れるのも結構……だが、その場合今ここに居る全員で対処させて頂く」

「うぐ……」


 明らかに劣勢な状況に言葉を詰まらせるダイスケ。だが……


「覚えておけよ、この借りは必ず返す」


 そう言い残すと夜の闇の中に消えていった。


「おい、あいつを逃すと面倒な事になるぞ、あんな奴でも国内最強の暴走族チームの幹部だ。メンバー集めて攻め込まれたらひとたまりもねぇぜ」


 言葉をとは裏腹に焦った様子も見せずに呟くトシキ。


「そうかも知れませんがコッチももう限界でしてね。全力疾走する元気は有りませんよ」


 カズも危険性は承知の上だが追いかける事はしない様だ。


「おい、もういい加減その口調も正体を隠す必要もねぇだろう。全部話しやがれ!」


 意識を取り戻したタケシが後ろからがなり立てる。


「正体と言われましてもコレが私ですよ、隠すも何もありません。そして今回の結果もこうなってしまっただけ。話す事も有りませんね」


 コイツこの後に及んでまだシラを切るつもりかよ。


「次は五回戦で会いましょう、体調を万全にしてきて下さいよ。そこで全ての決着を付けましょう……なぁ、ナオちゃん」


!?


 その言葉を残し闇に消えようとする野良猫(ストレイキャット)を追いかけようとするタケシ達。


「待った」


 俺はタケシの襟を掴んでそれを止めた。


「何すんだ、ナオだって聞きたい事は山ほどあるだろうが。今更逃してたまるかよ」

「大丈夫だ五回戦で全ての決着を付けようと言ってたし」


 納得はしてないが渋々と力を緩めるタケシ。

きっとタケシの身体も限界の筈だ、走る元気は無いのだろう。

聞きたい事はある、だけどきっとそれは次に会う時に聞けるはずだ。

 最後に言ったナオちゃん。小学校の頃の俺の呼び名だ、あいつはカズで間違い無いし、これ以上それを隠すつもりは無い……と思う。


「ま、確かに追いかける元気も無いし……帰って寝ようぜ」


 俺とタケシの肩を叩きシンゴが仲を取り持ってくれた。


「そうですね、今日僕は何もしてないので元気ほありますが次の相手は噂のジャッジメントですからね。万全を期して置きたいです」


 ヒロシも納得してくれた。


「おーい、帰ろうぜエックス……」

「それでは皆さん、エーックス!」


 エックスは一人で観客相手にマイクパフォーマンスを行っていた。


「置いて帰るか」

「そだな」


 その日、俺は朝焼けと共にぐっすりと眠り、目が覚めた時には暗くなり始めていた。

十二時間近くも寝ちまったらしい。

 歯を磨きながら寝ぼけ眼で家のポストを覗く。

入っている、SSSゲームの告知だ。

中を覗くと去年と同じ文面。


「零時に城山市役所内にて試合を開始します。十分前から正面入り口を開けておきますので速やかに中にお入りくださいませ」


 やっとここまで来たか。長かったな……

走馬灯の様に去年の五回戦を思い出す。ズタボロにやられたんだったな。


…………


 いかんいかん、こんな負の感情を持ってたら気持ちで負けちまう。

去年とは違う。俺達は強くなった……きっとやれる筈だ。


 俺はその日の内にSSSゲームの告知内容をみんなに話した。




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