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SSSゲーム  作者: 和猫
高校二年編
102/113

猫とパンチの質

 既に動かなくなっているトシキに対し、無慈悲な攻撃を加え続けるケンジ。

だがこのゲームは格闘技の試合でも無いしレフェリーも存在しない。例え勝負が決まっている様に見えてもそれを止める権利は誰にも無い。

 試合を行なっている当事者に全て委ねられている……それが喧嘩だ。


「ふぅ、準備運動にはなったな……次は路地裏猫(アレーキャット)だったか?お前等の誰かが指名する順番だったよな。多少とは言え疲労している今が俺を討ち取るチャンスなんじゃねぇか?」


 言葉とは裏腹に全く疲労の色を見せないケンジが喋りながらトシキの胸倉を弄っている、玉を探しているのだろう。


「どうします?一応はさっきエックスが言った通りの展開になってますけど」


 さっき言ってたのは二人がやり合って満身創痍の状態から俺達の誰かが六個の玉を奪うって話だった気がするが……


「やむを得ん、行くしかあるまい。最悪我等三人の内一人でも勝てれば良いのだ」


 くっそ、確かにここまで来て逃げる訳にもいかねぇ。観客が見ている中、他県の奴にビビって逃げたりしたら今まで築き上げて来た俺の立場が危うい。

 俺が色んな考えを巡らせているとトシキの上着を弄っていたケンジの動きが止まる、その腕をトシキに掴まれたのだ。


「さ……散々やってくれやがって。だがお陰で目が覚めたぜ……一発で止められてたら、そのまま寝ちまってただろうな」


 トシキは最初の一撃で意識を飛ばされていた、だがその後の執拗な追撃で逆に喝を入れられ目が覚めたんだ。

 トシキは腕を掴んだまま、ケンジの腹を蹴り飛ばした。


「ぐっ!」


 勝ちを確信した後の攻撃。いくらケンジでも腹筋は緩んでいたのだろう、かなりのダメージを受けた様で腹を抑えたまま動けないでいる。

 だがトシキの方もダメージは深刻な様だ。蹴り飛ばし追撃のチャンスにも関わらず、フラフラとしながら立ち上がるだけだ。


「の……やろぅ」


 ケンジが立ち上がる、トシキはそれを呼吸を整えながらジッと見つめている。


「うらぁぁぁ!」


 立ち上がったばかりのケンジに対しまずは顔面に軽い左ジャブを数発見舞う。距離を図るのと同時に一瞬視界を奪い右のストレートを放った。

 さっきのお返しと言わんばかりのストレートは見事に顔を打ち抜いた。

 しかし、数歩後退するだけでダウンは取れない。どう控え目に見ても普通の喧嘩なら心が折れても仕方ない程の攻撃だが倒れない。


「トドメだ!」


 フラフラと後退したケンジに対し拳を振りかぶった、言葉通りに渾身の一撃を喰らわしトドメにするつもりなのだろう。しかし……


「うっく……」


 顔を顰めているのはトシキの方だ、今度は肘を抑えている。


「まだそれがあったか、突きに対し腕を攻撃する攻防一体のカウンター技。あれがある限り打撃技はほぼ封じられている様な物だ」


 今度はケンジが左右のストレート、そして右の回し蹴りでトシキを蹴り飛ばした。


「あの人は蹴りまで出来るんですか、あの身長で蹴り技は驚異的ですね」


 ヒロシの言う通り驚異的なリーチだ。人間の強さには努力や才能等、色々あるが生まれ持った体躯とはその中でも最も重要な要素なのではと思えてしまう。


「調子に乗んなよ、トシキィ!」


 蹴り飛ばしたトシキに追撃の拳を振るう、だがトシキはバランスを崩しながらも向かってくるケンジの拳に対してカウンターを放った。


「ぐ……ぁ……」


 膝を落としたのはトシキの方だ。ケンジはカウンターの突きにも拳を合わせ、動きを止めた後に右フックで顳顬を撃ち抜いた。


「何と冷静な……あの状況ですら反撃を警戒していたとは」

「と言うかカウンターに対してカウンターってどれたけ高等技術ですか……お金取れる試合ですよ」


 俺も思わず見惚れてしまった、次に自分が戦うかも知れない相手を応援してしまっていたのだ。


「手こずらせやがって……」


 勝利を確信したケンジが吐き捨てる様に言うが、トシキはそれでも両手を踏ん張り立ち上がろうとしていた。


「この……」


 そうはさせないとケンジはトシキの頭を踏み付ける。

グシャっと音が響きシンと静まり返る場内。

 この踏み付けるという行為は単純だがかなりの効果がある。逃げ場の無い状態から地面と足のサンドイッチ、意識所か命までも奪いかね無い……下がコンクリートではなくマットなのがせめてもの救いだがそれでも立ち上がるのは難しいだろう。


「さて、今度こそ終わりだな。待たせたな路地裏猫アレーキャット。当然俺を指名するんだろ?」


 トシキに背を向け俺達を見据えるケンジ、だが俺達の目線はケンジの背後に集中していた。あれだけやられてもまだトシキは立ち上がったのだ。


「マジか……お前死にたいのか?」


 背を向けたままだが背後の気配を感じ取りケンジが喋りだす。


「認めてやるよ、お前はもう俺の部下じゃねぇ……敵だ」

「へっ……やっとかよ」


 フラフラのトシキに対し油断なく構えるケンジ、今までのどこか冷めた雰囲気は無く怒気を孕んだ殺気の様な物が取り巻く。


「立ち上がったけど、勝ち目有ると思うか?」


 俺は小さな声で二人に聞いた。


「難しい……だろうな、トシキはリーチを生かしたヒットマンスタイル。だがあのケンジにはその拳を見て打ち落とすカウンター技がある。ただのパーリングならいざ知らず、的確に肘や手首を打たれるとなるといずれ拳も使えなくなるだろう……いや、もしかすると既に……」


 エックスの言うとおり腕が上がらなくなっているのかトシキはダランと両手を下げたまま構えないで棒立ちだ。


「シッ!」


 ケンジの吐く息と同時に拳が繰り出される、トシキの顔に被弾すると同時にケンジの体制も揺らいだ。ケンジの拳と同時に……いや、出した後にトシキも同じように拳を突き出していたのだ。


「相打ち覚悟ですか。ですがあれでは……」

「うむ、カウンターは取れないにしても体力の差で先に潰れるのは明白」


 パパン!と互いに繰り出される拳はほぼ同時に着弾するが、同時ではなくほぼ同時だ。先に当たった方が拳を振り切り、後に当たった方は若干ブレーキが掛かってしまう。

 そしてエックスの言うとおりに今までやられた分体力の残っていないトシキが当然先に潰れる。

 しかしその相打ちが暫く続くと見た目に変化が出てきた、ケンジの顔が腫れ目も塞がり始めている。一方トシキはダメージは重そうだが顔の腫れ等は無く見た目だけなら圧倒的に有利に見える程だ。


「そうか、パンチの質の違いだ。手首のスナップを利かせ鞭の様にしなるパンチを撃つソリッドパンチと重く芯に残るハードパンチ。同じ相打ちでも効き方に大きく違いが出る」


 エックスが状況を解説してくれた。だがそれじゃ見た目は酷いけどトシキの方がダメージは深刻って事なんじゃ?


「ひょっとして、トシキさんはわざと負けるつもりなのではないですか?ああやって視界を奪う闘い方をしたら確実に次に繋がります。次の人が勝つための戦いをしているのでは」

「なるほど、それなら合点が行く。だが次に闘うのは俺達アレーキャットだ。そうなると俺達に勝ちを譲るつもりで闘っているのか?」

「若しくは我々があそこまで追い詰めたケンジにも勝てないとタカを括っているか……だな」


 どっちにしても次の戦い絶対に負けられないって事は理解した。


「へっ、そうか。こうやってれば俺の体力を削りつつ次に繋げられるって訳かよ。くだらねぇ喧嘩しやがって」


 ケンジが俺達の会話を聞いていたのか自分で気が付いたのか同じ結論に至ったようで憎憎しげにトシキを睨み付ける。


「つまんねぇ喧嘩もコレで終いだ!眠りやがれ!」


 ケンジが間合いを詰めようとした瞬間にトシキが動き出した。踏み込もうとした瞬間に逆に踏み込まれバランスを失う。そこをトシキが先に仕掛けた。

 だが例のカウンターにトシキの拳は阻まれる、突き出した腕に肘に手首にケンジの拳が突き刺さる。だが……


「うあぁぁぁらぁぁぁぁ」


 トシキはそれを物ともせずに拳を振りぬきケンジの顔面を捉えた。

鼻血が噴き出し薄く積もった雪が赤く染まり、ピクピクと痙攣したケンジはやがて動かなくなった。


「次に繋げる?何のことだよ……アンタを倒すのは俺の役目だ」


 右腕を押さえながらトシキは勝ち名乗りを挙げたのだった。



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