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SSSゲーム  作者: 和猫
高校一年編
10/113

もうビビッてられるか

 タケシが相手の膝を足場に肩まで駆け上がりそのまま顎を蹴り上げる。

「うぶぶぶ……」

 顔を抑え前のめりに倒れ悶える、軽く積もり始めた雪が赤く染まる。

「あんた運が悪いな、舌噛んだのか。」

 その隣ではヒロシが頭を地面スレスレまで下げ、後ろ回し蹴り。遠心力が十分に掛かりゴスッと人間から発したとは思えない鈍い音が聞こえた。

ヒロシに蹴られた男は何も言わず後ろに倒れこむ、その倒れた横にはユタカが小太りの男を組み伏せている。

「レフリー、早くカウントを取りたまえ!」

「誰がレフリーですか、それよりその人ぐったりしてますよ。やりすぎなんじゃないですか、ユタカ?」

「誰がユタカだ!ミスターエックスと呼びたまえ!」

 何て頼りになる奴等だろうか、この町一番の不良集団の一員に対して気後れも全く無く圧勝だ。

「あっちはもう勝負あったようだな、あの三人は数合わせのただの雑魚だが、それを差し引いても大したもんだ」

 トシキは自分の仲間が劣勢だと言うのに全く焦りもせず、むしろ楽しそうに言った。

 このイケイケムードを使わぬ手はないと俺も精一杯余裕を見せる感じでトシキに話しかけた。

「そんなにゆっくりしてていいんすか?あいつ等もうこっちに参戦してくれますよ。いくらあんたでも四対一じゃ分が悪いんじゃないっすかね?」

 そう言いながら来るんじゃねえぞと心で念じる、タケシ達が来るまで会話で時間を稼ぐんだ。四対一なら勝機はある。

 余裕を見せたいが、プレッシャーで膝が笑う。誤解しないで貰いたいが俺は決してヘタレじゃない!喧嘩の場数もそれなりに経験してはいる。ただ相手が悪すぎるんだ。

 身長は俺よりも頭二つ程も大きな長身、二メートル近くあるのではないだろうか。しかしその長身に反して肉の付き具合はかなりの痩せ型と言えるだろう。

 だが腕力が無いわけじゃない、むしろ信じられないくらいある。昔この人が揉めてるのを見た事がある。その時相手の胸倉を掴み、片手で人間一人を持ち上げていたのを記憶している。

 俺が戦意が無くなる事を思い出していると更にトシキが追い討ちを掛けて来た。

「別に構わねぇよ、元々俺とシュウジの二人だけでやるつもりだったんだ。あんな雑魚共居ても居なくても一緒だ」

 シュウジと言うのはカズが連れて行った男だろう、そうかカズはシュウジってのが只者じゃない事を知って時間稼ぎの為にわざと自分に引き付ける様に仕向けたんだ。

 そうすると今の状況はカズの想定通り……例えカズが負けても時間さえ稼いでくれれば、こっちの四人でトシキを倒し、更に四人でシュウジも……

「四人いっぺんでも構わないが、折角のリクエストだ。先にはじめようじゃねぇか」

 トシキが上着を単車に引っ掛け、こっちに歩いてきた。

 俺のすべき事はカズがやられる前に少しでもトシキの体力を奪い、タケシ達の援護を待つ!

 っしゃあ!もうビビッてられるか、来やがれ!

 しかし前を見据えた瞬間トシキを見失った。単車のライトがこっちを向き、逆光になり急な光に目を奪われたのだ。

 ゴゴッ!

次の瞬間にはいつの間にか間合いを詰めたトシキに数発の拳を入れられた。

 上着を単車に掛けたときに仕掛けてたんだ、汚ねぇ……いや、巧い。

 このままじゃ訳もわからずボコボコにされて終わる、駄目だ。冷静になれ。勝たなくても良いんだ、時間さえ稼げばタケシ達が来る。

俺はトシキを見据えながら後ずさりで間合いを取る。呼吸を整えろ、昔カズに空手の基本動作を教わったことがある。正面から来る相手には前蹴りで動きを止める。それだけで良い。

 間合いが取れたお陰で少し息が付けて冷静になる時間が取れた。

トシキは軽くステップを踏み左手を前にした半身の構え、異常なリーチを生かしたヒットアンドアウェイ戦法だ。

 この腕力で懐に入られて乱打戦になったらまず勝ち目は無い。残りの三人も本気でやるつもりなのだろう、その為に体力温存の為の戦法だろうか。

 しかしこのやり方ならば時間を稼ぐのは難しくないはずだ、相手の突進に合わせて前蹴りをするだけ。

 考えがまとまり呼吸も整えられた所でトシキが動いた。何のフェイントも無く正面から来る。喧嘩でどれだけ鍛えたか知らないがやはり何の武道の経験も無い素人だ。これなら余裕で迎撃出来る。

「うがっ」

 しかし倒れたのは俺の方だった。あれだけ冷静に機を伺っての前蹴りだったのに……信じられない、俺の蹴りよりもトシキの腕の方がリーチが長かったのだ。

「どうした?何か狙ってたんじゃないのか?」

 トシキは俺の考えを読んでその上で真っ向から作戦を打ち破ったのだ。

 化け物め……

 そもそもロクに知りもしない空手の真似事をしようとしたのが間違いだったんだ。もう時間稼ぎも知った事か!

俺のやりたいようにやってやる、こんな頭の中で考え事しながら喧嘩が出来るか!

 俺は立ち上がる時間も惜しいほどに四つんばいの状態からトシキにタックルをし足を取った。

 トシキはそのまま尻餅を付く、すかさず俺はトシキに覆いかぶさった。

マウントポジションを取れたのだ、身長はトシキが上でも体重は恐らく俺の方が上。この状態からひっくり返される事はそう簡単ではないはず。

マウントと取った瞬間に俺の左腕はトシキの右手に掴まれて全く動かない。

しかし右手は自由である。考える暇なんか無い!俺はそのまま地面を打ち抜くつもりで右手を振り下ろした。

 ぐちゃりと言う感触が手を伝わる、鼻を折った。

しかしトシキは俺から目を離さない、この状況でも全く心が折れていないのか。

 俺はトシキの顔に何度も何度も拳を振り下ろした、しかしそれでもトシキは俺から目を離さない。

「うがっ」

 急に右のわき腹に激痛が走る。この組み伏せられた状態から残った左腕で反撃してきたのだ。

下から打ったとは思えない程の衝撃がわき腹に走る。二発、三発と。

 守ったら負ける、ここでこいつを自由にさせたらもう二度とチャンスは無いだろう、俺は全体重を乗せてトシキの顔面に拳を叩き付ける。

「くっ……」

 これだけやって、やっとトシキの顔に苦痛の表情が見えた。

「うあぁあぁぁあぁ!」

 これでトドメだと言わんばかりの一撃を打とうとした時。

プルルルルル

 夜の公園に携帯の音が鳴り響いた。

 俺の携帯だ。いや、どうやらトシキの携帯も鳴っているようだ。

「ナオ、そこまでだ。勝負ありみたいだぜ」

 振り返るといつの間にかカズが戻っていた、タケシ達も並んでこっちを見ている。

 のろのろとトシキの上から離れ携帯を取ってみる。

「おめでとうございます、十個全ての玉を取得したのでチーム猫様、一回戦突破でございます」

 見るとトシキも携帯を耳に当てている。恐らく俺とは逆のアナウンスを受けているのだろう。

「カズ、お前がここに戻ってるって事はシュウジをやったのか」

 トシキがうなだれたまま問いかけた。

「いや、やったなんて……走ってたらあの人が勝手にバテちゃっただけですよ」

「ただバテてるだけのあいつから玉取ったってか。もっとマシな嘘吐くんだな」

 トシキが鋭い眼光でこっちを睨む。異様な迫力に俺達は全員怯んだ

「まぁ別にそんなことはどうでもいいか、五人まとめて掛かって来いよ。俺はまだまだ余裕だぜ」

「トシキさんも電話取ってたじゃないですか、勝負は決まったの解ってるはずですよ」

 カズが一歩前に出る

「そんな事どうでも良いじゃねぇかよ、おら来ないならこっちから行くぜ」

「トシキさん、確かに普通の喧嘩じゃオレ達五人でやってもまず勝てないと思いますよ、でもこれは喧嘩じゃないゲームなんですよ」

 トシキが拳を握り口惜しそうに俺達を……いや、俺を睨む。

「トシキさんが玉の入った上着を単車に掛け、手放した時に、もう勝負は決まってたんですよ」

 しばしの沈黙……

「く、く、く……くそがぁぁぁぁ、俺はまだやれる!こんなの納得できるかよぉぉぉ!」

 タケシがぽそっと耳打ちする

「なあ、面倒臭いし五人でボコって終わりにすりゃいいんじゃねえの?」

「黙れ、今気が付いたが緊急事態だ。ここはオレに任せておけ」

 カズがそっとみんなに聞こえる声で呟いた。

「それじゃトシキさん、失礼します」

 俺達はカズに促され、足早に家路に着いた。

 一体カズの言う緊急事態とは何なのだろう?



 

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