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META LEGA  作者: WONKA
6/10

不可視の紳士

人物 宇岡初季/木呂場黎司/九條麗香

場所 永神高校~永神温泉

開設 黎司、麗香を呪われた力から救い、初季は現場にいた最後の一人、羽若部晴二を捜す。一方、温泉街にて板の間稼ぎによる犯罪が発生。三人は事件が起きた永神温泉へと向かう。

永神高校の生徒達は、いつもと変わらない生活を送り続けている。

彼らが、休み時間楽しげに会話しているのを遠巻きで見ながら初季は携帯電話を取り出した。

木呂場黎司から、受信メールが一件届いている。

メールの内容は、長文だったが、机に突っ伏す日々を繰り返していた初季にとっては、有難い暇潰しだった。

『九條麗香の父親が海外へ高飛びしたという情報が入ってから三日が経つな。

だが、相変わらず羽若部部長の所在は掴めてねえ。

一体どこほっつき歩いてんだか。

手に入れた超能力を乱用して、悪さしてなきゃいいんだがな。

それと、ここ最近妙な事件が起きてる。

何でも、『板の間稼ぎ』ってのが永神温泉の大浴場で頻繁に起きているらしい。

板の間稼ぎって知ってるか?銭湯とか浴場で他人の衣服や金品を盗むあれだよ。

それも、下劣なことに女湯でだ。

犯人が女だったらいいが、男だったら許せねえ話だ。

男のロマンが詰まってる場所で、下着も盗むことだって出来るんだからよ。

だがな、その板の間稼ぎは、盗む品が決まって、客達の財布の中身だけなんだ。

まぁ、下着を盗まないだけマシってもんだぜ。

なぁ、俺達の超能力を使ってこの事件を解決してみないか?

従業員もお手上げの事件らしいんだ。

それに、気に食わねえ犯人を帰るべき刑務所に送り返してやりてえんだ。

返事は部室で訊くことにするよ。

そいじゃ。』

初季は吹き出しそうになった。

黎司はただ、犯人が羨ましいだけなのだ。

しかし、温泉街へ旅行というのも悪くない。

いっそのこと、部活の合宿という形でもいいのではないのだろうか。

「初季君、何か嬉しいことでもあったの?」

不意に声を掛けられ、初季は危うく携帯を落としそうになった。

隣の席の佐野愛梨が微笑んでいる。

どうやら、彼女が話し掛けたようだ。

「あー、実は、部活の合宿の行先が永神温泉に決まったんだ。」

初季は嘘をつこうとは思わなかった。

「温泉!・・・いいな~。」

佐野は本気で羨ましそうに言っている。

「初季君ってそういえば、何部に入ってるんだっけ?」

所属している部活は正直、口にしたくなかった。

だが、ここで嘘をつけば、いつかは露見する。

「笑っちゃうよ。オカルト研究部。」

初季は、軽蔑するだろうと思い、佐野の表情を窺ったが、彼女は初季の言った通り笑ってくれているだけだった。

「へぇ~、オカルト研究部の合宿先って、心霊スポットで有名な曰つきのホテルかなんかだと思ってた!」

「実際のオカルト研究部は、部員が自由に遊んでる部活だよ。」

これも嘘ではない話だ。

その後も佐野と話し込んでいたが、夢のような時間は、授業の鐘で終わってしまった。


部室の扉は案の定開きっぱなしになっている。

木呂場黎司と九條麗香が既にミーティングを行っていた。

扉の閉まる音を警戒して黎司が素早く此方を見るなり、安堵の表情を浮かべる。

「無言で入ってくるなよ。ビビるだろ。」

「こんな胡散臭い部屋に入ってくるのは僕くらいだよ。」

と返して、肘掛椅子に座る。

「厄介なことになった」

黎司がやぶから棒に切り出した。

「本が無いのよ。あの呪われた緋色の本が。」

「何だって!」

麗香に疑ってかかる様に初季が立ち上がった。

「無くなってたの。さっき金庫の中を見たら箱から本だけが無くなってたの。誰かが盗んでいったのよ。」

「あの怪盗如月の仕業かと思ったが、ダイヤルの痕跡を見るに、盗られたのは三日前だ。」

黎司と麗香は先程その話をしていたらしく、また推理議論が始まった。

「・・・待ってくれ、部長じゃないのか?」

初季も推理に参加するが、黎司がスマートに否定した。

「その可能性は低い。何故ならメールでも話したように、羽若部部長はここ数週間学校を欠席している。担任は愚か生徒の目撃者もいない。おまけに俺が自宅訪問したら羽若部部長は一人暮らしだった。で両親はいない。母親は数年前に他界して父親はム所の中さ。インターホンを押しても出ねえもんで、俺の怪力で二階のベランダによじ登って、窓の鍵を馬鹿力で破壊して部屋に入ってみたんだ。だが、家の中はもぬけの殻。やっぱり誰もいなかったぜ。」

黎司が不法侵入の武勇伝を語り終えた時、部室の扉が開く音がした。

そこに立っていた男を、初季は一度だけ見たことがある。

黎司のクラスに立ち寄ったときだ。

「おう、やっぱしここにおったのか。探したで」

鼻に掛かった大阪弁が、部室に響き渡る。

「久堀!おまえ、何しにここへ・・・」

黎司は焦って立ち上がる。

「部員は三人だけでっか。少ないなぁ」

「用が無いなら出てってもらうぜ。生憎今はミーティング中だ。」

黎司が威圧的に久堀に迫るため、久堀は両手を前に出して抵抗する。

「いや、やるちうわけや。ほら、これ見てほしいんやけど」

久堀はポケットから巻物の様に丸められたプリントを、黎司に渡した。

他のメンバーと共に、印刷されたそのプリントを眺める。

『オカルト研究部へ。

永神市の永神温泉で板の間稼ぎの犯罪が勃発している。

部員達は、この事件について調査をすること。

尚、学校側は君達が平日に温泉街へ出歩くことを許可する。

教員一同より。』

「願ったり叶ったりだ。明日にでも温泉街に行こうじゃねえか。」

「本当にこの部活の部員は、学校に嫌われてるよ。」

初季は自虐的な笑みを浮かべる。

「邪魔したちゅうわけや。ほんなら、ほなな」

軽く大阪弁に失敗しながら、久堀敦也は手を挙げながら帰って行った。

黎司は久堀が廊下から消えるのを確認した後、注意深く周りの様子を窺いながら、扉を閉める。

「それじゃ、明日の合宿について打ち合わせしようぜ。」

三人で、待ち合わせ時間、必要な荷物を会議する。

前回のお礼ということで、旅行費は全て麗香が負担してくれることになった。

案の定、鉄素材の金庫は、純金を経て、福沢諭吉の肖像が描かれた紙切れに生まれ変わった。


平日だというのに温泉街は、昼間から賑わっていた。

毎年何万人という観光客が訪れる永神温泉は、平日でも相当な人気を誇り、永神市一の観光名所である。

慰安旅行で訪れるサラリーマンや、ストレスを解放しにくる主婦が、三人の高校生とすれ違う。

その高校生は、とても旅行をしに来たとは思えないほど、神経を張りつめていた。

「犯人探しとは言っても、犯人の特徴が分からないんじゃ骨が折れるよ。」

浴衣で出歩くカップルの横を通り過ぎながら初季が言った。

「まずは問題の永神温泉の旅館に聞き込み。といきてえけど、高校生相手に旅館の従業員が、べらべら喋ってくれる訳がねえ。まずは旅館に泊まるのが先決だ」

射的場とパチンコ屋を通過して、春の山に囲まれた温泉旅館の前まで三人はやってきた。

「中々いい所じゃない?」

麗香が高飛車に言った。

「俺達からすりゃ、ここは天国なんだがな。」

黎司が反発する。

「そうかしら。この程度の宿なら何度も宿泊したことがあるわ。」

「板の間稼ぎに下着でも盗まれちまえ」

と、黎司が小声の早口で呟いたのを耳にして、初季は旅館の入口扉に立った。

自動ドアが開き、接客係であろう、従業員らが三人を迎え入れた。

「ようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞ上がってください。」

従業員の男がそう言い、丁寧に三人の荷物や靴を運び始める。

旅館のロビーは広々としていて、木造の椅子、テーブルがセットで幾つも設置され、観葉植物と自動販売機が隅に置かれている。土産屋は、受付の隣に設けられていて、永神市名産の食品やマスコットキャラクターが、商品として並べられていた。

一番旅行を楽しんでいる黎司が、手続きを済ませたところで、接客係に三人は客室を案内された。

階段で麗香と別れ、初季と黎司は男性の接客係について行く。

二階の一番奥、207号室は和式で、客室の座卓には湯呑茶碗が、畳の上には湯の入った電気ポットが用意されていた。

「夕食は6時からになります故、布団の上げ下げも私共が行います。では、ごゆっくりどうぞ。」

男性の接客係が頭を下げて去っていくなり、初季は腕時計に目をやった。

長針は午後四時を指しており、浴場へ向かうにはぴったりの時間帯だ。

二人は浴衣姿になって、着替えをビニール袋に入れる。

「昨日の打ち合わせた作戦通り、行動できそうだな。早速あのお姫様を呼んで大浴場に向かおうぜ。たぶん今頃、浴衣を着せてくれるメイドがいなくて困ってるところさ。」

黎司が自分の皮肉に笑いながら、部屋を出る。

「本当にそうかも。」

小声で呟き、初季は黎司の後に続いて部屋を出た。


208号室の扉をノックして、3分後に漸く麗香が顔を覗かせた。

「どうなってるのかしら。浴衣ってこんなに着るのが難しいわけ?」

「誰かにやってもらってるからそうなる。」

黎司が厳しい口調でそう言った。

初季が先頭に立ち、麗香と黎司が口論しながら一行は大浴場のある三階に向かった。

男湯と女湯が拮抗するように、隣接されている暖簾を潜り、初季・黎司と麗香は別れた。

初季と黎司は脱衣所で、ぱっぱと衣服を脱ぎ捨てて、タオル片手に大浴場へ飛び出した。

14種類もの風呂が用意され、永神の温泉街が一望できる炉天風呂は、永神温泉の顔だった。

適当に体を洗った後、どの温泉から入ろうか考察する。

初季と黎司は泡の吹き出す温泉に浸かり、全身の疲れを絡み取っていく湯船に身を任せた。

「この作戦は麗香にとっては残酷だぜ。風呂から出た後は、脱衣所でずっと怪しい奴の監視だもんな。」

黎司がトロンと目を瞑りながら、搾り取るように言った。

「だって、僕らは性別上監視が出来ないんだ。」

「しかし、おまえの役割はせこいんじゃないのか?」

黎司はジロリと初季を見た。

危うくタオルを浴槽に落としそうになりながら初季は仕方がないだろといった顔で黎司を見る。

作戦としては、終業時間ギリギリの、脱衣所から誰もいなくなった後、麗香の目を借りて、初季も監視に参加するというのだ。

「しょうがないんだ。僕の能力で犯罪が一つ減るなら。市民の安全の為には止むを得ないことなんだ。」

動揺して声が上ずりながら、言い終わると黎司が「変態野郎」と呟いた。


刻一刻と時間が過ぎていき、浴場は既に初季と黎司だけとなった。

どの客達も、夕食に間に合う様に時間を合わせて風呂から上がったのだ。

「さて、女湯の方も客は消えたかな。」

初季は卑猥な想像を打ち消しながら、僕は変態じゃないと何度も心に復唱して目を閉じた。

初季の視界は、女湯の脱衣所の視界に切り替わる。

視界の主は脱衣所の隅で、プラチナの腕時計を何度も見ている。

人目でこの視界の主が麗香の物だと、初季は分かった。

「どうだ?」

と耳元で興味津々な黎司の声が聴こえる。

「特に異常はないね」

と初季が答えると、「おまえの大事な所は非常事態だぜ」と黎司の声が聴こえた。

麗香は、脱衣所内を歩き回っている。

どうやら、女湯の脱衣所は既に麗香一人となっている。

初季は試しに視界を切り替える。

黎司の視界が映るだろうと思っていたが、予想外の事態が起きた。

なんと、脱衣所で立ち尽くす麗香を見つめる視界が、映し出されたのだ。

初季は何かの間違いではないかと、もう一度麗香の視界に切り替えた。

だが、彼女の視界には人らしきものは何も映っていない。

「どうなってるんだ。」

初季は目を開いて、額に手を当てた。

「どうしたんだ?」

バタ足で浴槽を泳いでいた黎司が横目で訊いた。

「麗香以外にもう一人脱衣所にいる。」

初季の言葉に、黎司は泳ぐのをピタリと止める。

「その娘は何歳くらいの奴だ!可愛いか!裸なのか!」

「透明だ。」

初季の言葉に、興奮していた黎司は、顔を歪ませた。

初季は目を瞑る。

やはり、麗香の視界ともう一つ麗香を見つめる視界がある。

その視界は、麗香と一度も目を合わせておらず、一方的に麗香を凝視しているようだ。

初季は目を開く。

「行こう!麗香が危ない!」


「嘘、どうなってるの!」

麗香は目先で起きている信じられない出来事に、壁に張り付いて身動きが取れなくなっていた。

刃渡り20センチ程のナイフが、独りでに宙に浮いていたのだ。

その瞬間、男二人が暖簾を潜って見えない何かに向かって、タックルする。

黎司のタックルは脱衣所の三列あるロッカーを全て突き破り、初季のタックルはその見えない何かにぶち当たった。

ナイフは、万有引力で床に落ち、見えない何かが、扇風機と衝突した。

「姿を現せ、透明人間!」

初季は、床に落ちたナイフを拾い上げ、倒れた扇風機の付近にナイフを向ける。

黎司は罪悪感に満ちた目で人型の貫通した穴のあるロッカーを見つめながら、戻ってくる。

すると、扇風機の隣から、忽然と全裸の男が姿を現した。

麗香はふっと気絶して、床に崩れ、黎司は目の前に現れた男に驚愕する。

羽若部晴二が、頬を痙攣させて此方を睨んでいる。

「やっぱり貴方だったんですね、晴二部長。」

「・・・ぼくの姿をどうやって捉えることが出来たのか教えてくれるかい?」

「貴方の目を拝借しました」

初季の言葉に、羽若部は一驚を喫すると普段通りの笑顔を作った。

「なるほど、他人の視界を盗み見る能力か。やはり、君達も超能力が使えるようになっていたんだね。

黎司君を見るに、彼は火事場の馬鹿力ってところだねぇ。とすると、気絶してる麗香君は、この場では余り有効活用できない能力らしい。」

「錬金術です。どんな金属も純金に変えることが出来ます。」

「それは素晴らしいな。ぼかぁ見ての通り透明になることが出来る。それに、触れた物も透明にすることが出来るんだ。」

羽若部は、手品のように手から女性用のハンドポーチを出現させた。

「しかし、俺はとんでもない事実を知ったぜ。まさか羽若部部長が、女湯に入り、挙句の果てに金品を奪っていただなんて。とんでもない変態紳士だ!」

黎司が妬みと怒りを調合させた口調で言った。

「好きでやっていたわけじゃぁないんだ。これには事情がある。」

羽若部は、女性用のハンドポーチのチャックを開けた。

「このポーチは、対盗難用の擬態ポーチだ。これなら、女性客の所持品に紛れ込ませることが出来る。そして・・・」

羽若部はポーチから一冊の本を取り出した。

「その本は、あの時の!」

黎司の言うとおり、それは部室で開いた呪われた本そのものだった。

「やはり、貴方が本を・・・」

「この本は君達に渡すわけにはいかない。ぼかぁこの本を消滅させる為にここへ来たんだ。」

羽若部は初季たちを警戒しながら言った。

「消滅?てっきり、貴方はこの本を悪用するかと思って・・・」

「馬鹿な事を言っちゃぁいけない。こんな本が世に出回っても見ろ。世界は超能力集団によって終末を迎える。ぼかぁそれを阻止する為に、この温泉街へやって来たんだ。」

「それなら俺達も同意見だぜ。本を探しだして一刻も早く焼却するのが目的だった。まさか、こんなところで本に出会えるとは思ってなかったけどな。だが、どういうことだ。本を焼却するのがアンタの目的なら何故すぐ焼却しない?そして、何故アンタは板の間稼ぎとしてこの温泉街に潜伏してるんだ?」

黎司は疑問を次々と投げかけた。

その問いに対して羽若部は、愚問だという様に笑った。

「よく見ているといい。」

羽若部は、本をビリビリに引き裂こうと爪を立てた。

だが、本は一ページを破れないし、爪あと一つ残らない。

次に羽若部は、ライターで本を燃やそうと火を着けた。

だが、ジリジリ焦げる音は出ても、本に火が一向に着かない。

「わかったろう?この本は呪われてる!硝酸につけようがロードローラーで押し潰そうが、シュレッダーにかけようが、この本はビクともしない!ぼかぁこの本の秘密を探った。ギリシャ語を翻訳して本を読んでみた所、(ようや)くこの本のを消滅させる方法が分かった。その内容は最後のページに記されていた。」

羽若部は本の最後のページを開き、壁に本を押し付けた。

脱衣所で気絶した女一人を寝かしたまま、三人はギリシャ語のすぐ上の手書きの翻訳された文章に注目する。

『パンドラの古書、処女の血と魂と共に、水底に沈む時、悪しき力と共に消滅せん。』

このページだけは、何故か新しく、付け加えられたページのように見えた。

「つまり、この本はパンドラの古書という名前で、消滅させるには処女の血と魂が必要なんだ。この本が消滅すればぼく達の超能力も消えることになる。だからぼかぁ、この脱衣所でずっと客が少なくなるこの終業時間ギリギリで客室に一人で帰ろうとする処女を狙って待機していたのさ。」

羽若部は二人に背を向けて続ける。

「処女である確率が高いのは10代の女だ。さすがに10歳未満を選ぶのは気が引けたんでね。なるべく人擦れしてなくて、モテなさそうな女。だが、終業時間ギリギリで浴槽から出てくるのはどれも年配の女ばかりだった。過って経験済みの女を選んだ場合、僕はただの殺人鬼だからね。」

「だからって、本を消滅させる為に、人を殺すってのかよ!」

黎司は歯を剥き出して言った。

「仕方がないことなんだ!人類の平和の為さ!一人の命で世界が救われる!もし、この本が、軍事国の手に渡ってでも見るんだ!世界大戦の幕開けだ。各地で戦争が勃発する!」

「君は本を消滅させるために、板の間稼ぎとして財布から現金を抜き取って、温泉街の飲食店で何日も過ごしていたんだろうけど、流石に人殺しを黙って見過ごすわけにはいかない。」

「何故だ、君までそう言うのか、初季君!」

「麗香を凝視していたのは、麗香も処女だと思ったから、殺そうかどうか迷っていたんだろう!本は消滅させれなくても封印しておけばいい!君はその本を長い間所持しているせいで、善と悪の判別がつかなくなっている!その本は呪われてるんだ!部長、考え直してくれ!」

初季は息を切らして頭を下げる。

「俺からも頼む」

黎司も初季に習って頭を下げた。

羽若部はため息を吐いて本を初季の足元に投げた。

「好きにしてくれ。ぼかぁ疲れたよ。黎司君とは違ってぼかぁ女の裸には興味が無いんでね。毎日が退屈だった。もうこんな生活はこりごりさ。」

そう言うと、羽若部はポーチからコートを取り出して着替えると、颯爽と歩いて出て行った。

足元で、緋色の本がパラパラと頁が捲れていくのを、初季は睨み付けるようにじっと見続けた。








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