潜在能力
人物 木呂場黎司
場所 永神北通り
解説 逸早く超能力の存在に気が付いた初季は、現場にいた他のメンバーに能力の真相を伝えることを決意。一方、木呂場黎司は深夜、麻薬の密売グループを遠目から発見する。
「まずいな・・・、親父に伝えたほうがいいかもな」
電柱の隅に隠れながら、黎司は複数で屯している怪しい集団の様子を窺っている。頭数は三人。薄暗い路地裏に隠れひっそりと誰かを待っているようだ。三人ともジャンパーのフードで顔は見え辛い。写真に収めたとしても身元の特定は至難だろう。
交番があるのはここから数キロ先だ。その交番には黎司の父親が勤務している。携帯電話で110番することもできるが、黎司はそれをしなかった。売人が姿を現していないのだ。
アンパンや シャブといった麻薬を所持しているのは売人で、通常彼らは単独で行動することが多い。だとすれば、あそこで屯しているのは、 しきてんであるはずだ。そして、上手く売人の後を付いていけば売り子に出会う確率も無くは無い。
黎司にとって、この知識も隠語も警察である父親から教えてもらったものだったが、本物を目にするのは初めてだった。喧嘩には自信がある黎司も、 ヤッパを持っているであろう三人とやり合うのは、リスクを伴う。売人はこの近くに潜んでいる。客は何処から来るのだろうか。黎司は目を泳がせていた。本当はこの場から一刻も早く離れたい気分だったが、上手く売り子に尾行すれば麻薬の製造工場も特定できる。その場所を親父に教えれば、親父は警察の幾つもある階級のうちの一つに昇進出来るかもしれない。と、黎司はそう思っていた。
しきてんの三人が、動き始める。黎司は気づかれない様に後を付けた。三人組は、路地を進み、空地の中へと入って行った。
黎司は曲がり角の手前で肩を壁に付けて空地方面へ首を伸ばす。三人組の進む先の空地には、既に一人の男が待ち構えていた。恐らくあれが売人だろう。やたら、ジャンパーのポケットに手を突っ込み、辺りを警戒している。売人としきてんの会話はやたら大きく、黎司の耳にも届いてきた。
「おまえら本当に マッポに後を付けられずにここまで来れたのか?」
フードで売人の顔は窺えなかったが、疑ってかかるような語調だった。
「えぇ、何度も確認したので。」
しきてんの一人が言った。
「じゃぁ、何なんだ?さっきからそこの角から顔出してる野郎は!」
売人の言葉に、黎司は素早く首を引っ込めた。売人は間髪入れずに「まだ逃げんな!」と叫んだ。どうやら、しきてん達は黎司のことをマッポだと思い込み、すぐさま逃げようとしたらしい。
「警察じゃねぇ。ありゃぁガキだ。御前らでもやれんだろ。軽く口封じに行って来い。」
黎司の顔は青ざめていた。売人の声は落ち着いていて尚且つ冷酷だった。逃げ出したところで、大の大人三人から逃げられるとは思えない。かといって戦おうと思っても、勝てる見込みは無かった。
黎司は動けずにいた。そして、あっという間にしきてん三人に取り囲まれた。どれも若くして歯が黒ずんでいたり、抜け落ちたりしている。確実に薬をやっている顔だ。
そして、売人がゆっくりと歩いて黎司の前に立った。しきてんとは反対にこの売人の男の歯は、健康そのもので驚くほど白かった。売人は値踏みするように黎司を見る。
「イイ面だ。こりゃあ三年経てば化ける。こいつのをしゃぶってやりたいが、今はそうもいかねぇらしいな。おい、顔だけは傷つけるな。もしかしたら近い将来こいつが店に勤めるようになるかもしれねぇからな。」
黎司は、人目でこの売人がホモだということが分かった。そして、今まで見てきた人物の中で一番危険だということも本能的に理解した。
「やれ」
売人は、温かみの欠片も無い声でそう言った。しきてん三人は、ニヤつきながら黎司を袋叩きにした。なすすべも無く黎司は頭を押さえて、全身に走る激痛を耐え忍ぶ。
一撃だけでも、こいつらに浴びせてやりたい。痛みが刻々と怒りに変化していく。
そして遂に、黎司は反撃に出た。スクッと立ち上がり、中央にいた男にストレートを浴びせた。そのストーレートは、思った以上に手応えがあった。男は通常では在り得ない、10m先の住宅の敷地内へ吹き飛んだ。
「や、野郎!」
隣にいた男が殴り掛かる。だが、黎司はその男の腕を軽く掴んで捻る。バキバキッと嫌な音がして、男は悲痛の叫びを上げて座り込んだ。黎司もそこまで力を入れたつもりは無かった。だが、間違いなく男の腕は複雑骨折している。
最後に残った男が、黎司に掴みかかろうと突進してくる。が、黎司は回転しながら回し蹴りを、男の脇腹に食らわした。男は遠心力で、空地の方へ宙返りしながら飛んでいくと、頭から泥地に突っ込んだ。
「どうなってるんだ・・・」
大の大人が呆気なく吹き飛んでいく姿を見ながら売人が言った。
「化け物め。絶対に俺の奴隷にしてやる」
売人は、嬉しそうに狂気に満ちた眼光を向け、立ち去った。黎司はへなへなとその場に座り込んだ。
昨日の出来事以来、自分が本当に化け物ではないかと疑心暗鬼になっていた。だが、化け物の事実は身体がいつだって証明する。自宅に帰るときも、玄関を危うく壊しそうになったり、試しに本棚を持ち上げようと思ってみたら、片手ひとつで浮かすことが出来た。夢じゃないかと思っていたが、翌朝になってもこの能力は健在のままだった。朝食で皿を真っ二つに割ってしまっても、朝は両親ともに仕事で家にいない為、問題を起こしても怒られるのは夕方だった為、惨事には至らなかった。
この能力を他人に知られてはいけない。家族には尚更だ。
黎司は登校中も、周りにアクシデントを起こす要因が接近していないか注意深く監視した。校門を潜り、成る丈生徒たちにぶつからないよう等間隔をあけながら、1-3の教室扉の前まで来る。教室扉は指一本触れただけでガラッと大きく開いた。
「おはようさん!」
一人の生徒が元気よく片手を挙げて挨拶してくる。
目が隠れるくらい長い前髪と、腰に届く程長い後ろ髪。そして、似非関西弁で有名な彼は、久堀敦也という名だ。
「なんやねん。そないな暗い顔して。彼女にでも振られたんでっか。」
「そんなんじゃねぇよ。」
黎司は亀の様にゆっくりと自分の席に座った。
「なんや、そないにぼちぼち動いて、糞でも漏らしたんか?」
「だから、違うってーの。」
黎司は神経質に周りの様子を窺う。誰かが自分に触ってこないか不安なのだ。久堀敦也は、その光景を面白半分に見物していた。
彼の似非関西弁は大半の生徒をイラつかせたが、唯一黎司だけは彼の方言は受け入れた。それは黎司も、時たま父親の影響で刑事用語を使うからだ。誰にだって染みついてしまった言い回しや語調はあると、黎司は寛容に彼の関西弁には何も言わずにいた。
だが、真実、敦也は面白半分で関西弁を使っていただけであった。
「ほら、黎司。そないな青白い顔してへんでぇ。お客はんやで」
敦也の言葉で、教室扉から顔を覗かせる初季の姿を黎司の目が捉えた。黎司は今では初季が救世主のように見えて、当り障りなくゆっくりと立ち上がると、ビデオをスロー再生しているかのように教室を出て行った。
「初季、助けてくれ」
黎司は涙目になって言った。
「やっぱり、君もなんだね」
初季は苦笑いする。
黎司が意味を問う前に、初季は両手を開いて自分の前に着き出す。
「君を助けに来た。だから、君と僕が同じ境遇であることを証明する。今から手品をします。僕が後ろを向いている間に好きな数字を掌に書くんだ。」
初季は黎司に背を向ける。黎司は言われるがままに数字を掌に刻んだ。
『0716』と指でなぞり、おまけに誕生日と文字を書いた。
「君の誕生日は7月16日か。僕と三か月違いだね。」
初季は笑みを浮かべて振り返った。黎司はポカンと口を開ける。
「どういうトリックだ?」
「トリックも何も、それが僕の能力さ。他人の視界を盗み見ることが出来る。」
初季の言葉に対して、黎司はすげぇと思わず呟いた。
「で、君の能力はなんだったんだ?」
「能力って?」
「超能力だよ!サイキック現象さ。まさか、その力が君の潜在能力だと思ってるわけ?継続的な潜在能力なんてそうそうないよ。さっきからその力に怯えているんだろう?」
「あぁ、この怪力か?」
黎司が廊下の壁を人差し指で突くと、壁にぽっかりと小さな穴が明いた。
「ワオ。なるほど、その能力は確かに目立つね」
初季は同情するように言った。
「僕と君の能力の原因は、あの箱に入っていた本だ。恐らくあの本の絵から飛び出した黒い靄が、僕らに呪いをかけたんだ。」
「やっぱりか。確かに俺は小さいころからスーパーマンみてぇな強い男に憧れてたがよ。これじゃまるでハルクだ。怪物でしかねぇよ。」
「いいかい?その力は、呪われてる。絶対に負の方向に使っちゃだめだ。君の場合だとたとえば・・・」
初季の言葉を遮る様に、校舎の外から騒音が聴こえる。重なる様にエンジン音が鳴り響いている。
突然の出来事に二人は会話をピタリと止めて廊下の窓から外の様子を覗き込んだ。黒い車数台と、バイクの群れが校門の前に止まり、武器を拵えた男たちが校内に侵入していた。
「あいつら、なんなんだ?」
「マルソーとマル暴だ・・・」
「黎司、君、英語喋れるのか?」
黎司は一瞬初季を一瞥すると違うと言い放った。
「マルソーは暴走族。マル暴は暴力団と暴力団関係者のことだ。」
「なんでそんな奴らがこの学校に来るんだ?」
初季の問いに、黎司は振り返る。
「奴らの狙いは、恐らく俺だ。」
30人近くもの黒い集団が、挙って校舎内に入ってくるのを、教員たちは動揺しながら止める。
「ここは貴方方のような者達が来る場所ではありません!」
「そう言わずに、先生。俺達はある少年に会いたくてここに来たまでですよ。」
鉄パイプを持った男が優しい口調でそう言った。歯は所々抜けおちていて、残虐な笑みを教員に向ける。
一人の教員が、警察に連絡すると発言し、携帯電話を取り出す。その携帯電話を男は素早く鉄パイプで叩き落とした。
「おっと野暮な真似はしないでくださいね」
その瞬間ぞろぞろと釘バット、スタンガンを持った男達が校舎を目指して歩きはじめる。教員がそれを止めようとすると、赤子の手を捻る様にして次々と教員は倒されていった。
「しかし、斉藤さん。いいんすか?こんなことしちゃって」
一人の若い男が先頭を歩く釘バットの男に訊くと、釘バットの男は笑った。
「いいんだよ。学校の校長には、組長が圧かけといたらしい。なんでも、標的は馬鹿力を持ったガキで、そのガキに密売を見られたらしいんだ。」
「へぇ、でもそんなことにわざわざお頭が動く必要なんてあるんすか?」
「違う。学校に乗り組む計画立てたのは如月さんだ。」
ここまでの会話が丁度聞こえた時、黎司が三階の窓から飛び降りた。
「ゴミ共が、学校を荒らしに来るんじゃねぇ!」
怒声を上げて、黎司は拳から地面に着地する。暴力団グループは呆気にとられた。
衝撃で土砂が浮き上がり、三メートル程のクレーターが地面に出来たのだ。校舎の窓から、何事かと生徒の群れが身を乗り出して、物珍しそうに暴力団たちを見物している。それを教師らが必死になって授業に集中するように諫めていた。
「おい、骨の一本や二本じゃ済まねえことを承知でここ来てんだろうな?」
ここまで強気に出たのは黎司にとって生まれて初めてかもしれない。それだけ負けない自信があったのだ。
「やめるんだ、黎司!その力を利己的な理由で使っちゃいけない!」
初季が下駄箱からやっと出てきた。
「初季下がってろ、こいつらを痛い目に合わせねぇと学校が危ねぇんだ」
黎司は訊く耳を持っていなかった。目先の黒い集団だけを凝視している。
「若いな、まだ一年生だろ。その馬鹿力と運動能力は天性のもんか?」
釘バットを持った斉藤という男が不敵に笑う。
「だとよかったんだがな。」
黎司はそう言うと駐車ペースに置いてある車の近くに寄った。
「やっちまえ!」
斉藤の合図で、暴力団や暴走族が一斉に駆けだした。黎司は冷静にワゴン車の後ろに回り込むと、サッカーボールを蹴るかのように、空高々へワゴン車を蹴り飛ばした。何百キロもある機械の塊が音を立てて地上へ落下する。
車体は火を上げて破損した。連続的に黎司は車体を蹴り飛ばしていき、高級車も容赦なく蹴り上げた。
黎司は怒りで事の善悪の判別がつかなくなっていた。
「黎司、やめるんだ!その力は憎しみや欲求とかいう負の性質が大好物なんだ!これじゃ、あの絵に描かれた女の思う壺だ!」
初季の言葉は、黎司に軽く聞き流されている。暴力団たちは、黎司の圧倒的なパワーに屈し、歯が立たなかった。斉藤は釘バットを後ろにいた下っ端に渡す。
そして、懐から普段ドラマや映画でしか見たことのないそれを抜き取った。
黎司は釘バットを持った下っ端の攻撃を華麗にかわして、アッパーでそいつを宙返りさせた。斉藤は焦りながら8mm口径のハンドガンに銃弾を籠めて、震えた手で黎司を狙った。
「てめぇ!」
黎司は斉藤に向かって突っ込んだ。
斉藤は目を瞑って引き金を引いた。
銃声と共に弾丸は撃ちだされ、黎司の右頬を掠めた。黎司は自分の頬に血が滴るのを感じて激高する。斉藤を押し倒すと、大きく拳を引いた。
「止めるんだ、黎司!」
初季が間一髪のところで黎司の頭の上からバケツをひっくり返す。バケツの大量の水が黎司の頭を冷やす。
黎司の拳は、斉藤の顔面の皮膚で寸止めされていた。
「君は・・・危うく・・・人を・・・殺すところだった。どういうことだか・・・わかるか?」
初季は喘ぎ喘ぎ言った。
黎司は硬直して、脳裏に自分の暗い未来や悲しみに満ちた表情の家族を思い浮かべた。
「あぁ。」
黎司は平静を取り戻し、斉藤に馬乗りの状態からすくっと立ち上がった。
斉藤は涎と涙を垂らして痙攣している。初季は斉藤の手元にあった拳銃を遠くに蹴り飛ばす。
そして、遠くの方からサイレンの音が鳴り響いた。
「逃げなきゃ!」
初季は黎司の腕を引っ張る。
「この力を警察なんかに知られてみろ!僕らは永久にモルモットさ!エイリアンみたいに解剖されるのが落ちだ!」
初季の説得はこの時初めて黎司の頭に届いたらしく、黎司は初季と共に校舎の裏に回った。校門に数台のパトカーが止まる中、二人は南門から住宅街に出た。
この住宅街には初季の家がある。その為、この街は初季の庭のようなものだった。
「君を死んででも護る。それが今の僕の義務だ。」
初季は走りながら目をギュッと瞑る。
「背後から数人の警察・・・先回りしてパトカーから降りる警察が数十人・・・。この迂曲した住宅街を上手く使えば警察を巻くことが出来る」
今は兎も角、自宅に向かう。と初季は声を張り上げて言った。
黎司は冷静に顧みたり、左右の確認をしたりして、初季が目を瞑っている間は、盲導犬のような役割を果たした。
「・・・この周辺一帯にはまだ警察は来てない」
初季が目を見開いて言った。
そして、二人は三つ目の角を曲がり、宇岡という表札の家の前で止まった。初季は首にかけていた紐の先の鍵を手で掴み、強引に鍵を玄関の錠に刺し込んだ。
「さぁ、入って。」
二人は慌しく家の中に入ると、初季は内鍵をかける。両親ともに不在らしく、好都合だった。
「黎司、二階の窓の鍵とカーテンを全部閉めて!」
初季に言われるがまま、黎司は二階へと駆け上がり、全ての鍵とカーテンを閉めた。一階に戻ると、初季はソファーに座り、固く目を閉じていた。
「この周辺一帯を包囲してる。この吐息は全部警察官の者だ。・・・一人が僕の家の前を通り過ぎている。」
黎司は冷静にカーテンに映り込む影を凝視した。影はゆっくりと左から右へと通り過ぎ、やがて玄関の近くで止まった。インターホンが連続して二回鳴った。
二人は息を殺して影を見つめた。影は数分間その場で待機すると、やがて来た道を戻って行った。
「一軒一軒聞き込みを行ってるんだ。」
「ガサ入れが入るのも時間の問題だぜ。」
その時だった。
自宅の電話が鳴り響いた。流石に警察がこの家に電話してくるのは可笑しいと思った。ピンポイントで、この家に電話を。しかも電話番号を教えた覚えも無かった。
だとすれば学校側だろう。きっと緊急連絡として各生徒の保護者に電話をかけているんだ。二人はじっと棚に置かれた電話を見つめ続けていた。すると、電話は留守番電話サービスに切り替わる。
そして、図太い男の声が聴こえた。
『もしもし、突然すいません。もしその場に宇岡初季君がいらっしゃるなら訊いてください。』
「星野刑事だ・・・」
黎司は小さく呟いた。初季が訊き返す間もなく、声の主は話し続ける。
『学校側に問い合わせてみたら、なんと初季君と隣のクラスの木呂場黎司くんが、いなくなっていると担任の先生から報告があったよ。なんで、急に帰っちゃったのか教えてくれるかな。』
「やべぇぞ」
黎司は顔を真っ青にさせている。
『暴力団の悪い大人たちは一人の少年に全滅させられたと証言していたけど、それは宇岡君のことかな?それとも友達の木呂場君のことかな?いずれにしても近々、そうだな・・・三日後に学校で伺うことにするよ。それじゃまた』
男の声が途切れる。
「間違いねぇ。星野刑事だ。」
「星野って誰のこと?」
初季が冷静に訊くと、黎司は固唾を飲んで続ける。
「親父から怒らすと最高に怖い永神署の刑事がいるって聞いたことがあったんだ。特徴はヤクザみたいに棘のある図太い声で、目的の為なら手段を択ばない大胆さがある刑事だ。親父と星野刑事が立ち話してるところを見たことがあって、一度声を聞いたことがある。電話越しで分かりにくかったが、間違いない。永神一のエリート刑事だよ。」
「そうなると、僕らの超能力が割れてしまうのもそう遠くは無いってことだね。」
静まり返った暗いリビングで、黎司は素早く頷いた。
「その前に、警察が動いていることを知らない他の二人に、早いとこ釘を刺さなきゃいけなくなるぜ。」
「あぁ、せめてあの二人だけでも助けないと・・・。一刻も早く能力が禍を呼び込むことを知らせなくちゃ!」
初季はカレンダーの日付にサインペンで丸をつけた。
その日付は今から三日後の日付だった。