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お花見と冬将軍

作者: 赤井由愛

冬将軍が、なかなか帰ろうとしないワケ


初投稿。

音無さんの4月のお題小説です。





 この国では、毎年秋が終わると

 冬将軍といわれる者が、居座ります。


 彼がいると、動物たちはみんな冬眠してしまいます。

 冬眠しない動物たちも、なかなか彼と仲良くなってはくれません。

 なので、彼は少し寂しそうにしていることが多いのです。

 ただ、そんな彼にも、モンスーンという知り合いがいました。

 モンスーンというのは、大勢いて、冬の間仕事をしている者たちの愛称です。

 モンスーンは日本海の水を集め太平洋側に渡ろうとするのですが、

 いつも無茶して大量に集めすぎるせいで、山を越える前に

「重すぎるよ、チクショウ!」とか何とか言って、水を捨てて行ってしまいます。

 結果的にその水は冬将軍がいることにより冷やされて、雪となり太平洋側の地方を襲います。

 また、疲れ切った彼らは太平洋側に向かうのですが・・・

 疲れた彼らは「嫌だもう、疲れた!」とか何とか文句を言います。

 そうするとその息は冷たい乾いた風となって、太平洋側の地方を襲います。

 冬将軍はそんなモンスーンたちを見送って、冬の間この国に居座るのでした。


 そんなモンスーン達の中にも特に彼と仲のいい友人がいました。

 ここでは・・・ヴァン・サイソンとでも言っておきましょうか。

 冬将軍が、教えてくれなかったのでね。


 ある年。冬将軍は、4月になってもなかなかこの国から離れようとしませんでした。

 春の妖精たちは「冬将軍さん。もう私たちの仕事が始まる季節ですよ?」などと

 さりげなく彼を立ち退かせようと頑張るのですが、彼はなかなか言うことを聞いてくれません。

 無理に彼女たちが花を咲かせようとすると、彼は急に酷い暴風を巻き起こしました。

 この国の人は驚き、慌てふためきました。

 それだけではありません。これには彼女たちも困りました。

 この国の春の象徴である桜を咲かせることが、春が来たということを告げるための一つの手段なのに

 彼が風で散らしてしまったら意味がないのですから。

 でも、みんな彼のことが怖くてなかなか声をかけられません。

 ただ・・・たったひとりだけ。彼に声をかける者がありました。

 それが、例のヴァン・サイソンです。

「ねぇ、冬将軍。」大きな桜の木の上に乗っかってボンヤリしている彼に、ヴァンは声をかけました。

「・・・何?」冷めた目でヴァンを見る冬将軍。

「どうしたの?今年は・・・。」

「・・・別に。」ふいっとそっぽを向かれますが、ヴァンはこの位慣れっこなので、話をやめません。

「なんか、未練でもあるのかい?」

「・・・。」

「僕にできることなら、手伝うよ?」

「・・・いや、いいよ。・・・無理だと思うから。」

「そんなこと言わないでよ・・・。ねぇ、教えてくれないかい?」

「・・・嫌だ。」

「・・・そっか。」そのまま、2人はしばらくの間。

 黙りこんで並んで座っているという、はたから見れば、気まずい状況でいました。

 しかし、ヴァンは気まずそうにはしていません。むしろニコニコとしたまま、座っています。

 冬将軍はそんな彼のことを、チラチラと見ては頬を指でカリカリと擦ったり

 髪の毛をワサワサとやったり困ったような仕草を見せていました。

 そして・・・。

「分かった・・・。言うだけ言うから、聞くだけ聞いて。」

「その言葉を待ってた。」ニヘッと笑うヴァン。

 彼は、冬将軍が黙りきった微妙な空気を苦手とすることを知っていて、あえて黙っていたのです。

「・・・僕さ、お花見をしてみたいんだ。」それを聞いてヴァンは目をパチパチさせました。

「え・・・この前・・・春の精が桜を咲かせてたじゃないか。」

「・・・でも。」フゥとため息をつく冬将軍。

「僕が、喜ぶと・・・風が吹いて、桜は散っちゃうから・・・。」

「あぁ・・・なるほど。」今度はヴァンがちょっとうつむいて、頬をカリカリとかきました。

 そんな様子を見て、冬将軍は心配そうに

「あ、でも・・・ヴァン?無茶なことでしょ、そんなの・・・。」と言いましたが

「・・・や、やれるだけ・・・やってみてもいい?」ニッと笑うヴァンを見て

「・・・分かった。ありがとう。」無理に笑顔を作ったのでした。


 そして、数日後・・・。


「ほらほら、早く早く!」

「ちょっ・・・ヴァン。速い・・・。」

「冬将軍、君・・・あんまり体力ない?」

「・・・うぅっ。それは言わないで。」

「ごめんごめん。」苦笑いするヴァン。

「えっと、ほら。見て!」

「・・・!?」

「あ、あの・・・普段春に咲く桜は見つけれられなくて・・・。」

「え、これ・・・桜じゃないの!?」

「十月桜・・・もしくは、冬桜って言うんだって。」

「・・・すごい。ヴァンくん、よく見つけたね。」

「すごいだろ!」胸を張るヴァン。

「あ、でも・・・。」

「どうしたの?」

「これ、春の妖精たちに頼まれたんでしょう?」

「はい!?」

「そうだよね?」

「・・・もうっ、冬将軍。」呆れたって顔をして、おまけにため息を大きくつきます。

 冷たい風がフゥッと花を揺らしました。

「え?」

「・・・君のために探したんだよ?そんなこと言わないで。」

「・・・ほ、ほんと?」

「本当!!」ちょっと怒ったようにヴァンが言ったので

「・・・あ、あ・・・えっと・・・。」冬将軍は少しオドオドしました。

「どうしたの?」

「ヴァ、ヴァン。あ・・・あり・・・ありがとう。」最終的に真っ赤になって言う冬将軍は言いました。

「どういたしまして。」一瞬、呆気にとられたような顔をした後、ヴァンはニコッと笑いました。

「・・・僕、満足したよ。これで帰る気になった。」

「じゃあ、僕も一緒に行こうかな。」2人は並んで、空に飛び立ちました。


 冬将軍だって、桜を見たい時もあります。

 お花見の時に少し冷たい風が吹いたら、彼も桜を見たいってことでしょう。

 だから、そんな時は、寒いなんて言わずに、彼のことを許してあげてくださいね。



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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れっす! 参加ありがとう! 面白かった☆
2012/04/11 18:12 退会済み
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