第七十六話「雛鳥の本能」
隠れ家での探索作業が続く中、ニーナのアヒルの雛のようなぴったり密着行動は、基本的にずっと継続していた。
以前のような極端な瞳孔拡張や異様な凝視は控えめになったが、それでもガランから二歩以内の距離を保ち続けている。まるで目に見えない紐で繋がれているかのような、絶妙な距離感を維持していた。
「あーあ、またくっついてる」
荷物を運んでいたモニカが、その光景を見てからかうような笑みを浮かべた。
「ガランパパ、人気者ね」
「別に俺はパパじゃねえよ」
ガランは少し恥ずかしそうに、ニーナを軽く押し戻して距離を取らせようとした。しかし、気がつくとまた元の位置──彼の真後ろにぴったりと張り付いている。
(酒場でこんな真似をしてくる男がいたら、迷わずぶん殴ってるところだが......)
ガランは内心で苦笑した。やってくるのが金髪に赤い瞳をした可愛らしい少女とあっては、そんな荒っぽいことはとてもできない。結局、しぶしぶ好きなようにさせることにした。
しかし、ニーナがこの行動を取る理由は、単なる甘えや依存ではなかった。彼女の頭の中では、冷静で計算高い分析が行われていた。
(自分が捕まった時......)
あの時のことを思い出す。ブレイドの連中が右往左往して立てた救出計画は、一週間後の大掛かりな作戦だった。対してガランは、一人で四、五分考えを巡らせただけで、結果的に正しい判断を下した。
彼らが本部と連絡を取り合い、大人数を一週間かけて揃えている間に、ガランはたった一時間ほどですべての準備を整え、実際に自分を救出してみせた。
口には出さないが、ニーナの結論は明確だった。
(ブレイドは役に立たない)
今この場で扉を開けているのも自分だし、単純な戦闘能力で言っても自分の方が上だ。彼らに身の回りの安全を任せても、不安でしかない。
それに、自分も含めてブレイド複数人がかりで、ようやく互角だったリリスを、ガランは一人で──しかも意識不明の自分を抱えた状態で──完全に倒してみせた。
(結局のところ、この人の方が強いんじゃないだろうか)
法力の測定値では、自分もブレイドの面々も、ガランをはるかに上回っている。しかし、不意打ちされれば結局意味がない。生き残れるかどうかは、その人の持っている器量や頭脳、そして度胸でしか測れないのではないか。
ニーナがこの危険な場所でガランにぴったりと寄り添っているのは、彼女の動物的な本能の結果でもあった。
(優しくて強いこの人のそばにいれば、何とかなる)
それは理屈を超えた、生存本能に基づく判断だった。
「ニーナ、ちょっとそっちの装置を見てくれるか?」
ガランが振り返って声をかけると、ニーナは即座に反応した。
「はい、すぐに!」
彼女はガランの指示した装置に向かったが、その際も常に彼との距離を測り、決して遠く離れすぎないよう注意していた。
「この回路、かなり複雑だな......」
ガランが呟くと、ニーナも隣に寄り添って装置を覗き込んだ。
「法石技術の応用のようですが......見たことのない配線ですね」
二人の会話を聞いて、ディアスが近づいてきた。
「何か分かったことはあるか?」
「いえ、まだ......」ガランは首を振った。「ただ、これは相当高度な技術で作られてますね」
その時、セラフィナが別の部屋から顔を出した。
「こちらにも変わった装置があります。見に来てもらえますか?」
「分かった」
ガランが歩き出すと、ニーナも当然のようについてきた。その様子を見て、モニカが再びからかうような声をかけた。
「本当に離れないのね、ニーナちゃん」
「だって......」ニーナは少し困ったような顔をした。「一人だと不安なんです」
それは半分本当で、半分は計算された答えだった。確かに不安はあるが、それ以上に、最も頼りになる人物のそばを離れたくないという戦略的判断があった。
モニカは、ニーナの言葉を聞いて少し表情を和らげた。ガランも困っているようだが、やはりニーナは本当に怖がっているのだろう。これ以上揶揄うのも悪いかもしれない。
「そうよね......あんな怖い目に遭ったんだから」
モニカは優しい口調で言って、自分の作業に戻った。




