第七十五話「秘密の隠れ家」
山間部の隠れ家周辺で、ブレイド隊員たちは慎重に警戒網を張っていた。
マルコとエリスは高台に陣取り、双眼鏡で遠方を見張っている。セラフィナとレイは隠れ家の左右に分かれて配置に就いた。全員が新装備の抗ウイルス薬射出装置を携帯し、いつでも戦闘に対応できる体制を整えている。
「周辺クリア」
「こちらも異常なし」
無線で安全確認の報告が次々と入る中、ガランは巨大なバンカーと、その奇妙な鈍い輝きを放つ大扉を見上げて唸っていた。
「これが......」
扉の表面は見たことのない金属で作られており、まるで宝石のような独特の光沢を帯びている。触ってみると、ひんやりとした感触が手の平に伝わった。
「この扉だけで、すげえ金になりそうだな......」
ガランは商売人の目で扉を品定めしていた。この材質は何なのか、どこで加工されたものなのか、興味は尽きない。
ボタンらしき凹凸を見つけて指で押してみたが、やはり何の反応もない。
「やっぱりダメか......」
そこでニーナが「ふふん」と得意そうに笑いながら近づいてきた。
「あーどいてどいて」
彼女が扉の表面のある箇所に触れると、*ガコン*という重い音と共に、巨大な扉がゆっくりとスライドを始めた。
「へえええ! すげえ!」
ガランは心底感心した声を上げた。
「どうやったんだ? 俺が触った場所と同じに見えるが......」
「それはコツがあるのよ」
ニーナは曖昧に答えた。実際のところ、彼女自身もなぜ扉が開くのかよく分かっていないのだが、そんなことを正直に言うわけにはいかない。
扉の向こうから、ひんやりとした冷気が流れ出してくる。そして奥の方から、微かに空調の稼働音が聞こえていた。
「中に入ってみよう」
ガランが先頭に立って施設内部に足を踏み入れると、そこは想像以上に奇妙な空間だった。
壁際には理解不能な制作物が並んでいる。複雑な回路を持つパネル、漫画本、そして妙に生活感のある家具。確かに「隠れ家」という言葉がぴったりの場所だった。
「何だこりゃ......」
ガランは机の上にあったハンドガンらしきものを手に取ってみた。しかし、弾倉を開けてみると、中には弾丸ではなく、何かのバッテリーのようなものが収められている。
部屋を見渡すと、最もよく分からない発明品らしきものが雑多に置かれていた。一体何の用途なのか、見当もつかない装置ばかりだ。
興味を引かれて漫画本を手に取ってめくってみると、少し前の時代の馬鹿げたジョークが満載で、下ネタ全開の内容が羅列されている。
「......うわあ」
ガランはそっと本を元の場所に戻した。
「これ、全部運び出すのか?」
ディアスに尋ねると、隊長は頷いた。
「そうだ。すべて重要な資料の可能性がある」
「なあ......」ガランは提案した。「前から思ってたんだが、船の連中を呼んで運んだ方が楽じゃないか? 俺もニーナも、いわば部外者なわけだし......」
ディアスは他の隊員たちと目配せを交わした後、頷いた。
「確かにその方が効率的だな。頼む」
ガランは無線機を取り出して船に連絡を入れた。
「雷牙号、こちらガラン。三人ほど、運搬用の車と一緒に来てくれ」
無線の向こうから、船員たちの声が聞こえてきた。
『じゃんけんで勝った方が行く!』
『グー!』
『チョキ!』
『パー!』
完全にピクニック気分の掛け声が響いている。
「おい、遊びじゃないぞ......」
ガランは苦笑いを浮かべた。
しばらくすると、小さなトラックに乗った船員三人がやってきた。トム、ジャック、そしてアザリアだった。
「うわあ! これが女帝の秘密の場所かあ!」
トムが目を輝かせて叫んだ。
「記念撮影しようぜ!」
ジャックがカメラを取り出して、隠れ家の前でポーズを取り始めた。
「おい、おい......」
さすがにディアスが呆れ顔で注意した。
「ダメなのか?」
アザリアががっくりと肩を落とした。
「当たり前だ。ここは軍事機密だ」
「つまんねえ......」
船員たちは渋々カメラを仕舞って、真面目に作業に取りかかった。しかし、その表情には相変わらず好奇心と興奮が宿っている。
「よし、それじゃあ運び出し作業を開始するぞ」
ディアスの号令で、本格的な荷物の搬出作業が始まった。前女帝アジョラの遺した謎の品々が、一つずつ陽の光の下に運ばれていく。
その中には、きっと帝国の未来を左右する重要な秘密が隠されているのだろう。




