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第七十三話「微妙な再会」



港の午後、雷牙号の前でディアス小隊のブレイド隊員たちは、なんとも言えない複雑な表情を浮かべて立っていた。


つい一週間前、詰所で感動的な送別会を開いたばかりだった。涙ながらに別れを告げ、それぞれが心のこもった贈り物を渡し、新たな人生での幸せを願って送り出したニーナが、今度は航空整備士の作業服を着て、まるで何事もなかったかのように彼らの前に立っている。


「おはようございます、皆さん」


ニーナは人懐っこい笑顔で手を振った。紺色の作業服は彼女の小柄な体によく似合い、腰に下げた工具入れが新人整備士らしさを演出している。


「あ......ああ......おはよう......」


セラフィナが困惑しながら挨拶を返した。レイも微妙な表情で頷いている。


「元気そうで何よりだ」


ディアス隊長が苦笑いを浮かべながら言った。内心では「まさかこんなに早く再会するとは」と思っていたが、表に出すわけにはいかない。


実際のところ、ニーナが軍を辞めたからといって、彼らの仕事が終わったわけではない。アジョラの隠れ家を探し出す重要任務は継続中であり、ガランとの契約も続いている。


ガランにとっても状況は同じだった。ベオルブ家からの実家への圧力は相変わらずで、妹たちの安全を考えれば、この仕事を断るわけにはいかない。それに、隠れ家探索という割の良い仕事で大金が稼げる状況に変化はない。


「こんな美味しい仕事、他にないからな」


トムが船員仲間に囁いた。


「そうそう、空賊連中との縄張り争いもしなくて済むし、安全だし」


ジャックも同意した。


彼らにとって、この任務は文字通り「一財産築ける」チャンスだった。危険な同業者たちとの血で血を洗う競争から離れ、帝国の正式な依頼で安定した収入を得られる。これ以上望めない条件だった。


そんな中、負傷していたブレイド隊員たちも次々と復帰してきていた。


「マルコ、エリス、調子はどうだ?」


ディアスが心配そうに尋ねた。


「おかげさまで、もう問題ありません」マルコが胸を張って答えた。


「あの時は死ぬかと思いましたが......」エリスも苦笑いを浮かべた。


二人とも、あの青白い女──リリスとの戦闘で重傷を負った隊員たちだった。長い療養を経て、ようやく任務に復帰できる状態になった。


しかし、雷牙号の甲板で繰り広げられる光景を見ていると、彼らの気分は次第に複雑になっていく。


ニーナが大きな工具箱を抱えて船内を歩き回り、エンジン部品の整備をしている姿。デッキブラシを手に、甲板を丁寧に掃除している様子。船員たちと楽しそうに雑談を交わし、時には大声で笑っている光景。


「ニーナちゃん、お疲れ様!」


モニカが明るい声をかけると、ニーナは振り返って満面の笑みを見せる。


「モニカさん、ありがとうございます! この作業、思ったより楽しいです!」


その様子は、心的外傷に苦しんでいるようには到底見えない。むしろ、軍にいた時よりもずっと生き生きしているように見える。


「あー......うん......」


セラフィナが曖昧な返事をした。先日の送別会で「頑張って、新しい職場で幸せになってね」と涙ながらに語りかけた自分が、なんだか馬鹿らしく感じられてきた。


「おーい、ニーナ! こっちの配線、チェックしてくれる?」


ガランが甲板から声をかけると、ニーナは「はーい!」と元気よく返事をして駆けていく。その足取りは軽やかで、まるで子供が遊びに行くような弾んだ様子だった。


レイとセラフィナが甲板の手すりに寄りかかって世間話をしているニーナを見つめながら、何とも言えない気分になっている。


「あの......ニーナ」


セラフィナが意を決したように声をかけた。


「体調はもう大丈夫なの? 無理しちゃダメよ?」


「はい! おかげさまで、すっかり元気になりました!」


ニーナの返事は屈託がなく、明るかった。


「そう......よかった......」


セラフィナの声には、微妙な複雑さが混じっていた。


(一体何だったんだろう、あの送別会は......)


レイも似たような気持ちを抱えていた。あの時のニーナの涙は嘘だったのか? それとも、船での生活が彼女にとってそれほど癒しになっているのか?


「まあ......元気なら、それでいいか」


ディアスが最終的にそう結論づけた。部下の幸せを願う上司としては、彼女が笑顔でいることが一番重要だった。


しかし、心の奥底では釈然としない気持ちも残っている。あれほど深刻に見えた心的外傷が、こんなに早く回復するものなのだろうか?


午後の陽射しの中、雷牙号の甲板では相変わらずニーナの笑い声が響いている。船員たちと談笑し、時には冗談を言って皆を笑わせている。


その光景を見つめながら、ブレイド隊員たちは複雑な心境を抱えていた。彼女の幸せを願う気持ちと、どこか騙されたような気分が入り混じって、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。


「まあ、とにかく......次の任務の準備をしようか」


ディアスがそう言って、隊員たちを促した。

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