第六十五話「大脱走」
通路に出ると、雇った女性たちがあちこちで男たちに声をかけ、金をせびっている光景が広がっていた。ガランとニーナもその中の一組にしか見えないだろう。
ドレス姿でぐったりとしているニーナを支えながら歩いていると、通りかかった男がニーナの手錠に目をやった。
「おい、やりすぎだぞ。そんなにぐったりするまでしたら、女衒屋の男に殺されるぞ」
男が眉をひそめた。ガランは慌てず演技した。
「いや、これは......上の趣味でね。俺も止めたんだよ! なんとか聞いてもらえてさあ」
「本当、ザックス幹部にも困ったもんだよ」男は渋い顔をした。「あそこ、俺も今度入れてもらえるかな......」
男はそう呟きながら立ち去った。
(マジでバカばっかりで助かった......)
ガランは内心で胸を撫で下ろしながら、手元の小さなスイッチを取り出した。
*カチッ*
その瞬間、基地の広い通路のど真ん中に置いてあった木箱の中で何かが点火された。
*ドーン! バチバチバチ!*
強烈な炸裂音と共に、けたたましく派手な音が鳴り響いた。花火が基地内で暴発したのだ。煙が立ち込め、スプリンクラーが誤作動で水を撒き散らし始める。
「うわあああ!」
「何だこれ!」
基地内は一瞬で大混乱に陥った。遊女たちも逃げ惑い、男たちも大騒ぎしている。誰もが耳を塞ぎ、降り注ぐ水と煙で視界が遮られる。
ガランはその混乱に紛れて、駆け込んでいく男たちとは逆方向に向かった。基地の入り口で待機させていた輸送車両に辿り着くと、ニーナを助手席に押し込んだ。
「よし......」
エンジンをかけ、車両を発進させる。基地の門は、混乱で誰も管理していない。
数十秒後、ガランの胸の中でじわじわと喜びが湧き上がった。
(おいおい......マジで? うまく行っちまったよ......)
「おいニーナ! 助かっちまったぜおい!」
ガランがニーナの肩を抱くと、彼女がガブリと手に噛み付いた。
「いってえ! 俺だよ! いい加減に起きろこいつ!」
ガランは軽くニーナの頭を叩いた。薬の影響でまだ意識が曖昧なようだ。
車の無線機を操作し、雷牙号に連絡を取る。
「おい! 成功だ! 船の発進準備だ! すぐに基地の南の丘まで来てくれ!」
無線の向こうから、モニカや船員たちの歓声が聞こえてきた。
『マジで!? 船長ほんとかよ!?』
「ははは! だから言っただろ! 俺にかかりゃこんなもんよ!」
ガランは得意満面で答えた。すべてが計画通りに進んでいる。このまま回収地点に向かえば......
ふとサイドミラーを見ると、背筋が凍った。
後ろから信じられない速度で追いかけてくる影がある。人間の何倍もの速さで走ってくる青白い顔の女──リリスが、怒りに満ちた表情でこちらに向かってきている。
「やっべえ! バレた!」
ガランは輸送用の小さなオンボロ貨物車のアクセルを目一杯踏み込んだ。しかし、この車両の最高速度では、あの化け物から逃げ切るのは困難だろう。
「クソ......なんで人間があんな速度で走れるんだ!」
サイドミラーの中で、リリスの姿がどんどん大きくなってくる。その表情は、完全に殺意に満ちていた。
「おい、ニーナ! いい加減起きろよ!」
ガランは必死にニーナを揺さぶったが、彼女はまだ朦朧としている。
輸送車両は懸命に坂道を上っているが、後ろからの追跡者は確実に距離を縮めてきていた。




