第六十四話「救出」
食堂で情報収集を続けていたガランは、体格の良い男たちが興奮した様子で話しているのを見つけた。
「頑張った甲斐があったぜ」
「帝国の犬を躾けてやる時間だ」
男たちの下卑た笑い声が響く。ガランの血が凍った。話を聞くと、どうやら順番でニーナを「楽しむ」という段取りが進んでいるらしい。
(間に合った......のか?)
ガランは雇った女性の一人に近づいた。
「頼みがある」
大金を握らせると、彼女は眉をひそめた。
「何?」
「あの男の後をつける。通路の見張りに声をかけてくれ」
「分かったわ」
女性は了解し、ガランは標的の男の後を追った。
通路には確かに見張りが一人立っていた。女性が甘い声をかけると、見張りの注意は完全にそちらに向く。視線を逸らしてくれるだけでよかったのだが、二人はそのままどこかへ消えてしまった。
(好都合なんだけど......)
ガランは苦笑いしながら、男の後を追い続けた。
男がある部屋に入るのを確認すると、ガランはドアの前で様子を伺った。中から聞こえてくる音に、彼の拳が握りしめられる。
男がニーナの服に手をかけている。ニーナはぐったりとしていて、意識が朦朧としながらも弱々しく抵抗しているようだった。
ガランは静かにドアを開け、後ろからそっと近づいた。男が興奮して自分のズボンを下ろしたその瞬間──
*ドスッ!*
股間への後ろからの蹴り上げが決まった。男は白目を剥いて即座に昏倒する。
「今度からちゃんと金払って行くとこ行けよ」
ガランは呟きながら、ぐったりしているニーナを確認した。まだ何もされていないことを確かめて、安堵のため息をついた。
用意していた可愛らしいドレスを取り出し、ニーナに着せ始める。遊女の格好をさせて、基地から堂々と出て行く算段だった。
「あとは脱出するだけ......」
その時、後ろから女性の声がした。
「ねえ」
ガランは仰天して振り向く。青白い肌の女──リリスが奇妙な表情で立っていた。
「今から?」
リリスは昏倒している男を指差した。
「そいつはどうしたの?」
ガランの脳裏に、様々な言い訳が駆け巡った。しかし、咄嗟に出たのは意外な答えだった。
「いやぁ! こいつすごい早くて! ちょっと休憩中なんです!」
昏倒している男を指差しながら続ける。
「ええっと、後......こんな軍服じゃ勃たないっていうから! ほら! こうして盛り上げるためにね?」
ニーナの姿を指差した。確かに、彼女は今遊女風のドレスを着ている。
リリスは苦い顔をした。
「男ってマジでバカね。女を嬲るくらい素直にできないわけ?」
「いや本当! けど案外みんな純情なのかな? いや変態なんです、ははは!」
ガランは必死に誤魔化した。冷や汗が背中を流れる。
リリスは唾を吐いて、そのまま立ち去った。
「......」
ガランは廊下を確認し、リリスが完全に立ち去ったことを見届けてから、ニーナの肩を支えた。
「う......さわんなクソやろう......」
ニーナがか細い声で呟いた。まだ薬の効果で意識が朦朧としている。
「俺だ! 俺! 助けに来た」ガランは小声で囁いた。「愛想良くしてろよ......」
彼はニーナに肩を貸し、立ち上がらせた。ドレス姿のニーナは、確かに遊女のように見える。この格好なら、基地から出て行けるはずだ。
「歩けるか?」
「......船長......?」
ニーナの瞳に、かすかに意識が戻ってきた。
「ああ、俺だ。もう大丈夫だ」
ガランは彼女を支えながら、部屋を出た。




