第六十三話「潜入作戦」
共和主義者の基地から数キロ離れた下町の繁華街で、ガランは目当ての店を探していた。薄暗い路地に並ぶ酒場と宿。そこで働く女性たちの姿が、夕暮れの街角に浮かび上がっている。
「すみません」
ガランは金髪の女性に声をかけた。20代前半と思われる、化粧の濃い女性だった。
「お客さん、今日はどうする?」
「実は......ちょっと変わった仕事なんだが」
ガランは懐から金貨の袋を取り出した。女性の目が輝く。
「あそこの基地のお偉いさんの相手をしてもらいたい。前金で払う」
「基地? ああ、あそこね」女性は納得したように頷いた。「よくある話よ。何人必要?」
「五人ほど。できれば金髪で」
「分かった。すぐに集めるわ」
三十分後、ガランの前には五人の女性が並んでいた。皆、それなりに美しく、商売慣れした様子だった。
「じゃあ、お疲れさま」
女性たちは慣れた様子で輸送車両に乗り込んだ。ガランは酒や砂糖、つまみ、食料を詰め込んだ大きな箱も積み込む。
(本当にこんな作戦で大丈夫なのか?)
内心で不安が募るが、もう後戻りはできない。
車両は基地に向かって走る。ガランの計画は単純だった。女性たちで見張りの注意を引き、その隙に潜入する。ニーナの居場所を突き止めたら、女性たちの服を着せて変装させるか、箱に隠して運び出す。脱出前には大きな花火を各所で爆発させ、混乱に乗じて逃げる。
似たような手口で、過去に奪われた危険な取引品を取り戻したことがある。あの時も結局、脱出で散々な目に遭い、一人で何とか逃げ出したが......。
(あんな軍人たちの堅い脱出作戦なんてうまくいかない。絶対こっちの方がうまくいくはずだ)
自分に言い聞かせながらも、理性の片隅では「これ、絶対にまずいかも」という声も聞こえている。
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基地の正門前で、ガランは車両を停めた。
「すみません」
門番の兵士に声をかける。
「ザックス幹部へのお客様です」
適当に知っている名前を出すと、女性たちが車両から降りてきた。兵士たちの視線が一斉に向く。
「え......あの......」
兵士たちは困惑したが、女性たちのセールストークが始まると、たちまち判断力が鈍った。
「今夜は楽しい夜にしましょうね」
「お疲れさまです、頑張ってる男の人って素敵」
あっという間に兵士たちの注意は女性たちに向いた。
(おいおい、マジで入れちゃったよ)
ガランは自分の計画の成功に驚いた。
基地内部では、女性たちがテロリストたちの注目を集めていた。しかし、業者として同行したガランには誰も興味を示さない。
(こいつらの頭が下半身に支配されてて助かった)
ガランは胸を撫で下ろし、適当なロッカーで用意していた共和主義者の服とバッジに着替えた。これで一応、基地の人間として溶け込める。
(まずはニーナがどこにいるか......)
食堂に向かい、情報収集を始めることにした。
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その頃、基地の地下にある取調室では、ニーナが法力を封じる特殊な手錠をかけられて椅子に縛り付けられていた。
目の前には共和主義者の男と、あの青白い顔の女──リリスが立っている。男の手には注射器があった。
「さて、お嬢ちゃん」男が薄笑いを浮かべた。「君には色々と聞きたいことがある」
「......」
ニーナは睨み返したが、手錠のせいで本来の法力が出ない。まるで普通の16歳の少女に戻ったような無力感に襲われる。
「まずはこれを打たせてもらう」
男が注射器を近づけた。ニーナは必死に抵抗したが、拘束されている以上どうしようもない。
針が腕に刺さると、すぐに意識が朦朧としてきた。
「じゃあ」リリスが男に向かって言った。「男たちを集めて。ただし、壊さないでね」
その言葉の意味を、ニーナは朦朧とした頭でも理解した。
(そんな......)
絶望が胸に広がる。もう抵抗する力も残っていない。
意識が薄れていく中で、ガランの優しい笑顔が浮かんだ。大きな手で飾り付けを教えてくれた時の声。収穫祭の準備をしている時の温かい雰囲気。
(あーあ......パイ、食べたかったな......)
その呟きと共に、ニーナの意識は闇の中に沈んでいった。
基地の上では、ガランがまだ情報収集を続けている。彼女の運命を知る由もなく。




