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第五十七話「血に飢えた勝利」



山岳地帯の隠れ家に近づくと、共和主義者たちの姿が点在していた。見張りが立ち、周囲を警戒している。明らかに、今回の隠れ家は既に占拠されていた。


「予想通りだな」ディアスが低く呟いた。「全員、作戦通りに動け」


隊員たちは素早く偽装用の作業服に着替えた。くたびれた服装に、汚れた帽子。どこにでもいる運送業者の姿になる。


これまでの探索で、隠れ家の構造はある程度把握していた。実験器具の保管場所、重要資料の位置、そして最も効果的な爆破ポイント。


「よし、行くぞ」


木箱を抱えた一行は、堂々と施設に向かって歩き始めた。箱の中身は、一見すると実験器具や高級な備品。だが、その下には小型爆弾が隠されている。


「おい、お前ら」


見張りの一人が声をかけてきた。鋭い目で木箱を見つめている。


「補給品の配達です」レイが愛想よく答えた。「酒と食料、それに頼まれてた実験器具も」


見張りは箱の一つを開けさせた。上層には確かに高級そうなワインと缶詰が並んでいる。


「......通れ」


多少の疑いは残っていたようだが、見張りは道を開けた。


施設内に入ると、隊員たちは事前に決めていた場所へ散らばった。ニーナは実験室へ、セラフィナは資料室へ、レイは動力室へ。


それぞれが手際よく爆弾を設置していく。タイマーは十五分。長居は危険だ。


「設置完了」


小声での報告が次々と入る。全員が爆弾を仕掛け終えると、何食わぬ顔で外へ向かった。


「ご苦労様でした」


見張りに軽く会釈して、施設を後にする。足早に、しかし走らない程度の速度で距離を取る。


百メートルほど離れたところで、ディアスが起爆装置を取り出した。


「全員、伏せろ」


ボタンを押した瞬間、轟音が山々に響き渡った。


施設から炎と煙が吹き上がる。中から悲鳴と怒号が聞こえてきた。


「今だ、離脱する」


しかし、その時だった。


施設から、煤にまみれた男たちが飛び出してきた。怒りに燃える目で、こちらを睨みつけている。


「てめえら!」


「やるしかない」


ディアスの号令で、戦闘が始まった。


法力を込めた拳と拳がぶつかり合う。セラフィナの蹴りが敵の顎を跳ね上げ、レイの肘打ちが別の男の腹部に沈む。


敵も必死だった。仲間を爆殺された怒りが、彼らを獣のように変えている。


しかし、訓練されたブレイド隊の動きには敵わない。次第に敵の数が減っていく。


「これで最後か」


マルコが倒れた敵を見下ろした時だった。


施設の奥から、ゆらりと人影が現れた。


青白い肌の女。


前回と違い、最初からサーベルを抜いている。刃が夕陽を反射して、不気味に光った。


「来たか......」


ニーナが前に出た。腰のサーベルをゆっくりと抜く。


「今度は逃がさない」


女が薄く笑った。いや、笑ったように見えただけかもしれない。その表情は、死人のように変化に乏しい。


二人が構えを取った瞬間、他の隊員たちも動いた。訓練通りのフォーメーション。ニーナを中心に、彼女の隙をカバーする陣形。


最初の一合。


金属音が鋭く響いた。女の斬撃を、ニーナは見事に受け流した。そして即座に返し技を繰り出す。


(読める......!)


ガランとの特訓が、確実に実を結んでいた。前回は全く理解できなかった相手の動きが、今は予測できる。あの七つの斬撃のどれが来るか、どこで返し技を狙ってくるか。


女の目に、初めて驚きの色が宿った。


二合目、三合目と打ち合いが続く。ニーナが僅かに押されそうになると、セラフィナが横から牽制の突きを入れる。女がそちらに気を取られた隙に、レイが足を狙う。


完璧な連携だった。


「くっ......」


女が初めて声を漏らした。明らかに劣勢。このままでは......


突然、女は大きく後ろに跳躍した。人間離れした跳躍力で、一気に十メートル以上の距離を取る。


「逃げる気か!」


ニーナが追おうとしたが、女は既に森の中へ消えていた。


静寂が訪れた。


「......勝った」


誰かが呟いた。


「勝ったぞ!」


歓声が上がる。初めて、あの化け物を退けた。いや、追い詰めた。


雷牙号への帰路、ニーナは興奮を抑えきれなかった。体中にアドレナリンが駆け巡り、手が小刻みに震えている。


「あと少しだった......」


彼女の呟きに、隊員たちが振り返った。


「あと少しで、あいつを切り伏せられた。殺せたのに」


その顔を見て、全員が息を呑んだ。


ニーナの表情は、勝利の喜びというより、獲物を逃した肉食獣のそれだった。目は血走り、口元には薄い笑みが浮かんでいる。まるで血の匂いに酔いしれているかのような、恐ろしい顔。


「次は必ず......」


小さく呟く声には、明確な殺意が込められていた。


レイとセラフィナは顔を見合わせた。あれは、普通の軍人の顔ではない。昔の物語に出てくる、殺戮を好む狂戦士。血に飢えた修羅。


「ニーナ......」


ディアスが声をかけようとしたが、言葉が続かなかった。


雷牙号が見えてきた。甲板では、ガランとモニカが手を振っている。それを見た瞬間、ニーナの顔がぱっと明るくなった。


「船長! モニカ! 勝ったよ!」


さっきまでの殺意に満ちた顔が嘘のように、無邪気な少女の笑顔に変わる。


隊員たちは、その豹変ぶりに寒気を感じた。

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