第五話「初戦の余韻」
ニーナは信じられずにいた。
目の前に、3機の敵アーマーが沈黙している。煙を上げ、動かなくなった鋼鉄の巨人たち。
「勝った......勝ったの?」
手が震えている。コックピット内の空気が熱い。汗が滴り落ちる。心臓が早鐘を打っている。
初戦闘。初勝利。
「やった......やった!」
興奮が押し寄せてくる。アドレナリンで視界がぼやける。でも、勝った。3対1で勝った。
ピロロロ、と通信音が響いた。
『ゴーティス、よくやった』
低い男の声。威厳がある。
「あの......」
ニーナは通信ボタンを探した。状況を説明しなければ。
『聞こえるか?』
「はい!でも私は――」
プツン。
通信が切れた。
「えっ?」
ニーナは慌てて別のスイッチを押した。赤いボタン、青いボタン、緑のランプ。どれを押しても反応がない。
『......信が悪いな。故障か』
向こうの声だけが一方的に聞こえてくる。
『いいか、ラムザ殿下を保護して回収地点Bに向かえ。30分以内だ、急げ』
回収地点B?
ニーナは混乱した。そんな場所、聞いたことがない。地図も頭に入っていない。
でも命令は絶対だ。まずはラムザ殿下を探そう。
5メートルの巨体をゆっくりと歩かせ、演説会場に向かった。広場は惨状だった。倒れた護衛兵、破壊された機材、逃げ惑う民衆。
「殿下!」
ニーナは外部スピーカーで呼びかけた。
「ラムザ殿下!どちらにいらっしゃいますか!」
瓦礫の陰から、恐る恐る顔を出す少年がいた。金髪、整った顔立ち。間違いない。
「お前は......」
ラムザは巨大なアーマーを見上げた。ブレイド仕様の新型機。しかし、コックピットから出てきたのは見知らぬ少女だった。
「私は帝国陸軍二等整備兵、ニーナです」
ニーナは機体から降り、敬礼した。
「5号機の元パイロット、ゴーティス上等兵が戦死されました。権限を委託され、殿下の護衛任務を引き継ぎます」
「整備兵が?」
ラムザは眉をひそめた。確かに、彼女の階級章は二等整備兵のものだ。
「はい。ですが命令は絶対です。殿下をお守りします」
「......分かった」
ラムザはアーマーのコックピットに乗り込んだ。狭い空間に二人で入るのは窮屈だが、仕方がない。
「回収地点Bというのは分かるか?」
「申し訳ありません、存じません」
「知らないのか?」
ラムザの声が厳しくなった。ボム家の血統として、部下の無知は許しがたい。
「す、すいません」
とはいえ、整備兵である私が作戦詳細を知らないのは当然だ。仕方がない…。
「では、どうする?」
「周囲はまだ敵だらけです。まずはここから離脱しましょう」
ニーナは機体を動かし始めた。
『30分以内だ、急げ』
メルベルの声が再び通信に響いた。
「兄さんが心配している......」
ラムザは時計を見た。残り25分。
ラムザは考えた。回収地点が不明で、周囲は敵だらけ。この状況では......
「近くに空港があるな?」
「はい、民間の輸送港が」
「そこに行く。適当な船に紛れて一気に離脱する。軍用機より目立たないし、敵も予想しないだろう」
ニーナは少し驚いた。13歳とは思えない的確な判断だ。
「承知しました。案内いたします」
「よし、それで行く」
巨大なアーマーが方向を変え、空港に向かって歩き始めた。




