第四十七話「積み重なる犠牲」
港町ケルンの軍事施設。
ディアスは通信機を握りしめ、顔を青ざめさせていた。
「第七小隊、全滅......?」
『はい。生存者は二名のみ。いずれも重体です』
本部からの報告は淡々としていたが、その内容は衝撃的だった。
「第十一小隊は?」
『隊長が戦死。副隊長も左腕を失いました』
通信を切ると、ディアスは机に両手をついた。部屋には重い沈黙が流れる。
「隊長」
レイが心配そうに声をかける。
「他の部隊の状況は......」
「酷いもんだ」
ディアスは疲れ切った声で答えた。
「俺たちが遭遇したのは、まだマシな方だったらしい」
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会議室に、ブレイドの生き残ったメンバーが集められた。
「これまでに確認された青白い集団との交戦記録だ」
ディアスがボードに数字を書き出していく。
死者十七名。重傷者二十三名。行方不明者五名。
「たった一週間で、これだけの被害が出ている」
セラフィナが息を呑む。ブレイドは帝国最強の精鋭部隊のはずだった。
「相手の被害は?」
マルコが聞く。
「ゼロだ」
その言葉に、全員が凍りついた。
「一人も倒せていない。傷すら、まともに付けられていない」
エリスが震え声で呟く。
「化け物......」
「そうだ。相手は化け物だ」
ディアスが拳を握りしめる。
「だが、俺たちは生き残った。なぜか分かるか?」
誰も答えられない。
「運が良かっただけです」
ニーナが静かに言った。
「いや、違う」
ディアスが首を振る。
「新人が強かったからだ」
セラフィナが眉をひそめる。ディアスは続けた。
「ニーナが割って入って、時間を稼いでくれた。だから俺たちは逃げられた」
「それは......」
セラフィナが反論しようとするが、事実だった。あの時、ニーナがいなければ全滅していたかもしれない。
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訓練場。
「もう一度!」
ディアスの号令が響く。
法力増幅装備を纏った隊員たちが、模擬戦闘を繰り返していた。これまでとは違う、実戦を想定した過酷な訓練。
「速度が足りない! あの女はもっと速かった!」
セラフィナが必死に動くが、あの青白い女の動きには遠く及ばない。
「くそっ!」
レイが地面に膝をつく。体力の限界だった。
その中で、ニーナだけが違っていた。
彼女の動きは日に日に鋭さを増していく。法力の制御も、格闘技術も、驚異的な速度で向上していた。
「ひょー…」
ディアスが驚きの目で見つめる。
たった数日で、ここまで成長するものなのか。
「もう一回、お願いします」
ニーナが構えを取る。その赤い瞳に、強い決意が宿っていた。
(あの女と、もう一度戦うことになる)
予感があった。次は、逃げられない。
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廊下の隅で、セラフィナとディアスが密談していた。
「隊長、本気ですか?」
セラフィナの声に苛立ちが滲む。
「新人を主軸にするなんて」
「法力測定値80だ。俺たちの倍以上ある」
ディアスは冷静に答える。
「感情論じゃない。生き残るための戦略だ」
「でも......」
「聞け、セラフィナ。俺たちがニーナを補佐する形を取れば、スキをなくせる。彼女が前衛、俺たちが支援。それなら、あの化け物どもとも戦えるかもしれない」
セラフィナは唇を噛んだ。認めたくないが、理にかなっている。
その会話を、物陰でレイが聞いていた。
(ニーナが主軸か......こりゃすごいことになってきたな)
メルベル様が「見張っておけ」と言った理由が、今更ながら分かってきた。
(将来の上司、確定だな)
レイは小さく笑った。今のうちに取り入っておいた方が良さそうだ。
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「よっ、ニーナ」
レイが缶コーヒーを二つ持って現れた。
「これ、差し入れ」
ニーナは訓練の汗を拭いながら振り返った。
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、今日も頑張ってたからさ」
レイはにこやかに笑う。
「つーか、すげえよな。お前の成長がさあ」
「そうですか?」
「そうだよ。俺なんか三年かかってやっと今のレベルだぜ」
缶を開けながら、レイはさりげなく続ける。
「みんな、お前のおかげで生き残れたって言ってるぜ」
「それは......」
ニーナが戸惑う。
「事実だろ? あの青白い女と渡り合えたの、お前だけだった」
レイは内心で計算する。この子を味方につけておけば、将来安泰だ。
「これからも、よろしくな」
親しげに肩を叩く。ニーナは少し困ったような笑顔を浮かべた。




