表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/177

第四十一話「剣の舞」



レイの頭上に、青白い腕が振り下ろされようとしていた。


「危ない!」


ニーナの体が、考えるより先に動いた。


法力増幅装備の力を全開にして、横から体当たりを仕掛ける。青白い女とレイの間に割って入り、渾身の力で女を押し返した。


「ぐっ......!」


想像以上の反発力。まるで岩壁にぶつかったような衝撃が、ニーナの全身を襲う。


それでも、女は数歩後退した。


「今だ!」


腰のナイフを抜き、法力を込めて突き出す。刃先が青白く光り、空気を切り裂いて女の胸元へ──


キィン。


金属音が響いた。


女の手が、ナイフの刃を素手で掴んでいた。血一つ流れない。


「えっ!?」


ニーナが呆然とする中、女の表情が変わった。


虚ろだった瞳に、何か光のようなものが宿る。口元が、わずかに緩んだ。


感心している?


女がゆっくりと、腰の後ろに手を回した。


シャリン、という音と共に、細身のサーベルが抜かれる。刀身は銀色に輝き、刃紋が美しい波模様を描いていた。


「まずい......」


ディアスが呻く。


女が構えを取った瞬間、空気が変わった。


さっきまでの野生的な動きが嘘のように、優雅で、そして恐ろしく洗練された立ち姿。


(なんとかなる)


ニーナは自分に言い聞かせた。法力測定値80。ブレイドでも上位の実力。きっと──


女が動いた。


速い、ではない。美しい、と思った。


サーベルの切っ先が、流れるような軌跡を描く。ニーナは必死に後退するが、刃は容赦なく迫ってくる。


「くっ!」


ナイフで受けようとするが、角度が悪い。金属が擦れ合う音と共に、ナイフが弾かれた。


次の瞬間、切っ先がニーナの頬を掠めた。


熱い。


血が、頬を伝って落ちる。


「ニーナ!」


レイが叫ぶが、動けない。この速度についていけるのは、今はニーナだけだ。


女の剣技は、まるで舞踊のようだった。無駄な動きが一切ない。最小の動作で最大の効果を生み出す、研ぎ澄まされた技術。


ニーナは防戦一方になった。


避けて、避けて、また避ける。反撃の隙すら見つからない。


「全員、援護しろ!」


ディアスの号令で、生き残った隊員たちが法石銃を構える。


だが、女は踊るようにニーナの周りを回りながら戦っている。下手に撃てば、ニーナに当たる。


「隊長、無理です!」


エリスが叫ぶ。


セラフィナは肋骨を押さえながら立ち上がろうとするが、激痛に顔を歪める。マルコは意識を失ったままだ。


「撤退だ!」


ディアスが決断を下した。


「ニーナ、離脱しろ! 全員、後退!」


しかし、ニーナは女の剣撃から逃れられない。一歩でも油断すれば、致命傷を負いそうだった。


その時、レイが横から体当たりを仕掛けた。


「うおおお!」


女が一瞬バランスを崩す。その隙に、ニーナとレイは必死に後退した。


女は追撃してきた。だが、その速度が徐々に落ちていく。


十メートル、二十メートル、三十メートル......


距離が開くにつれ、女の動きが緩慢になっていく。まるで、バンカーから離れたくないかのように。


そして、ある地点で、女は完全に足を止めた。


サーベルを下ろし、じっとこちらを見つめている。その瞳は、また虚ろに戻っていた。


「今だ、走れ!」


ディアスの叫びで、全員が駆け出した。


マルコを担ぎ、セラフィナを支えながら、必死に山を下る。背後から追撃の気配はない。


---


雷牙号の甲板に転がり込むと、ガランが青い顔で待っていた。


「おい、どうした!? みんなボロボロじゃねえか!」


「離陸しろ! 今すぐだ!」


ディアスの剣幕に、ガランは慌てて操縦室に駆け込む。


エンジンが唸りを上げ、船体が浮上し始める。


ニーナは甲板に座り込み、震える手を見つめていた。


あの女は、一体何だったのか。


ルカヴィ? いや、違う。あれは、もっと別の何かだ。


「大丈夫か?」


レイが心配そうに覗き込んでくる。


「......うん」


嘘だった。全然大丈夫じゃない。


初めて、死を間近に感じた。


あの洗練された剣技。まるで、何百年も剣を振り続けてきたような──


雷牙号は急速に高度を上げ、山々から離れていく。


任務は、失敗だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ