第四十話「青白い悪夢」
山の静寂を、爆音が引き裂いた。
「今だ!」
ディアスの号令と共に、手榴弾が次々と投げ込まれる。連続する爆発音。土煙が舞い上がり、見張りの男たちが慌てふためく。
「制圧開始!」
法力増幅装備を纏った隊員たちが、一斉に突撃した。
レイの放つ法石銃の青い閃光が、敵の胸を貫く。セラフィナの蹴りが、別の男を十メートル以上吹き飛ばした。
「楽勝だ」
マルコが呟く。自由戦線の兵士たちは、ブレイドの前では赤子同然だった。
ニーナも法力を込めた拳で、向かってくる敵を次々と薙ぎ倒していく。法力測定値80。その力は、一般兵では太刀打ちできない。
「もう終わりか?」
エリスが周囲を見回す。地面に転がる敵の数を数えると、十五、六人。残りは逃げたか、中にいるか。
「楽勝だったな」
レイが銃を下ろし、肩を回す。
誰もが、任務完了を確信していた。
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静寂が訪れた。
山の風だけが、かすかに木々を揺らしている。
「よし、中を確認するぞ」
ディアスが手で合図を送る。隊員たちは慎重に、バンカーへと近づいていく。
入り口は薄暗く、奥の様子は見えない。
「気をつけろ。まだ中に──」
その時だった。
影が、飛び出した。
「なっ──」
マルコが声を上げる間もなく、その影は彼に激突した。
ゴキリ、という嫌な音と共に、マルコの体が宙を舞う。まるで人形のように軽々と、二十メートルは飛ばされた。岩壁に叩きつけられ、ずるずると崩れ落ちる。
「マルコ!」
エリスが叫ぶ。
影の正体が、ゆっくりと立ち上がった。
女だった。
だが、その肌の色は──
「なんだ、あの色......」
ニーナが息を呑む。
青白い。いや、青白いという表現では足りない。まるで死体のような、血の気の全くない肌。瞳は虚ろで、唇だけが不気味に赤い。
ディアスの顔が、さっと青ざめた。
「ルカヴィだ......」
「ルカヴィ?」
レイが聞き返す。
「馬鹿な、ルカヴィ化は治療可能なはずだ」
セラフィナも困惑している。帝国の医療技術なら、ルカヴィ化は完全に治せるはず。なのに、なぜ──
女が動いた。
常識を超えた速度で、セラフィナに迫る。
「くっ!」
辛うじて腕で防御するが、その衝撃は法力増幅装備を貫通した。セラフィナが後方に吹き飛ぶ。
「撃て!」
ディアスの指示で、一斉射撃が始まる。法石銃の青い光が、女に集中する。
だが──
「嘘だろ......」
レイが呆然と呟く。
女の体に当たった光弾は、まるで水に溶けるように消えていく。傷一つ、ついていない。
女の口元が、歪んだ。笑っているのか。それとも──
次の瞬間、女は跳躍した。
ニーナの頭上を越え、エリスに襲いかかる。
「きゃあ!」
エリスが必死に回避するが、女の手刀が肩を掠める。法力装備が、紙のように裂けた。
「なんて力だ......」
ディアスが歯を食いしばる。
これは、普通のルカヴィではない。
「一人だけか......?」
レイが周囲を警戒しながら呟く。
だが、その一人が、異常すぎた。
女はゆっくりと、獲物を品定めするように隊員たちを見回している。その動きは優雅ですらあった。
「撤退だ!」
ディアスが叫ぶ。
「マルコを連れて、船に戻るぞ!」
しかし、女が再び動いた。今度はレイに向かって。
「うわっ!」
レイが必死に回避するが、女の速度は尋常ではない。まるで瞬間移動のように、次々と隊員たちの間を跳び回る。
ニーナは震える手で、法力を練り上げる。
これは、土木作業や荷物運びとは、全く違う任務だった。




